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女王陛下は浮遊霊?  作者: 山崎空
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02.分からない事、気がついた事

 あっという間に良く知る姿に戻った男なんぞ観察してもちっとも面白くないので、私は弟を追うことにした。


 多分一旦部屋に戻るだろうとふんで、壁をすり抜け見つけた背中を追う。

 私という唯一の家族を失った小さい肩がとても愛しい。

 私がただの浮遊霊ではなく、何か力を持つ事が出来た存在なら、こんな姿になってもお前を守り、そばにいる事が出来ただろうに。


 ザイラギーニ。

 私の大事な弟よ。せめてお前だけは殺されないように、私は祈る事しか出来ない。

 あの男の憎しみの標的に、弟が含まれなければいいのにと思う。

 もしも先代がらみで王族自体を憎んでいると言うなら、それも儚い希望でしかない。


 先代の王は、父上は。


 戦争を好む人だった。戦争狂だと言ってもいい。

 初めて人を殺したのは十四の時で、それ以来肉を断ち切る感触と、血の雨が忘れられないのだと昔聞いた事がある。

 たった六歳の子供になんていう昔話をしやがると今さらながらに思うのだが、当時は童話調に語られるその話が、どれほど物騒なものかは分からなかった。

 

 ただその話をする時の、父上の恍惚とした表情が幼心に怖いと思ったのが、多分最初の恐怖だった。


 軍事力にばかり予算を割いて、国の治水に関してはまったく無関心。

 母上が病気で亡くなられてからそれはさらに酷くなった。時々、アレは自分の親ではないとすら思った。それほどまでに怖かった。実の父が。けれど優しい記憶があったから嫌悪しきれなかった。


 国が荒れなかったのは、クソジジイどもが狡猾に父上をだまくらかしながら頑張ったおかげだ。

 その点私はあれらを尊敬している。

 伊達に長く生きていないわけだ。


 侵略を繰り返して隣国を焼いたのはほかならぬ父だ。


 当時の隣国の王と王妃、そして小さかった王子達の首を残らずはねた。

 戦利品だと王妃の首飾りを渡された時には、気持ち悪くて倒れそうになった。


 子供である私や弟にはそれなりに優しい父だったが、あの人からは血の匂いしかしなかった。表面上は受け取ったものの、死者からそれを剥ぎ取ってきた父に反発して、ジジイどもに秘密裏に隣国に戻してもらった。


 父上は自国の民でも、自分に反発する人間には容赦がなかった。

 だから、まあ暗殺されたのは自業自得といえよう。

 計画したのは父上に反発する高官と、ジジイ共――――そして私だ。

 後悔はしていない。


 ジジイ共は父上と一緒に、至福を肥やしすぎた高官連中も始末した。

 そして表向きは病死と発表し、反論する間もなく私を女王の座につけた。


 傀儡王にでもするつもりかと思ったら、どいつも率先して仕事をまわしやがる。王なんだから馬車馬のように働けと、父には言えなかっただろう言葉を平気で投げてくる。まったくだから長く生きたクソジジイどもは嫌いなんだ。

 お前達の誰かが国を統治すればいいじゃないかといったら一晩かけて怒られた。王族がいるのに何でそんな面倒な地位につかねばならんと面と向かって言われた女王など、私ぐらいだ。


 死んでしまった今では、あの書類に囲まれた執務室が遠い。

 これからは我が夫君殿がかわってあれを対処するのだ。うむ、いい気味だ。




 さてわが弟は部屋には戻らず、どうやら中庭へと足を運んでいるようだった。中庭の噴水、その真ん中に立っている女神の像の前で止まると、弟は両手を合わせて祈り始めた。


 言葉には何一つださないので、何を祈ってるのはわからない。

 でもその姿が健気でますます抱きしめたくなった。

 この姿は楽だが、弟を抱きしめられない、その一点において不便だ。


 両手を固くあわせ、熱心に祈るザイラに、通路の方から声がかかった。弟に合わせるようにそちらをみると、教育係の男が走ってくる。


「殿下、またこちらにいらっしゃったのですか。先生が先ほどからお待ちですよ」

「ナーガス、だって姉上がちっともよくならないんだ。女神さまなら、きっと姉上を助けてくるもの」

「大丈夫ですよ。陛下にはラキ殿が付いてらっしゃいます。宰相の方々も手を尽くしてくださってます。必ず、必ずよくなりますとも」


 悪いが二人共、死んでるんだから良くなりようもないだろう。

 だいたい他でもないラキが私を殺したんのだ、当てにするだけ無駄だろう。ジジイ共などもってのほかだ。


 私の姿が見えないのをいい事に、二人の傍でそう呟いてみる。

 教育係の言葉に頷きながらも消沈したままの弟の頭を、触れられないけれど撫でた。


 途端、ザイラの顔がぱっと持ち上がって私を正確に見た。


 ぎょっとして手を離しその場から飛びのくと、ザイラは瞬きを繰り返し、そして視線を彷徨わせた。まるで、私の姿を探すように。


「ザイラギーニ殿下? どうかなさいましたか?」

「……今、姉上が……ううん、なんでも、ない」


 そういいながらまた、私の姿を見つけるように視線が動く。


 うむ? 今もしかしなくてもザイラに見られたのか?

 触れた相手には私の姿が見えるのか? だとするとそれはなかなか面白い発見だ。


 これは、なかなか遊べるかもしれない。

 私は思わず、にんまりとした笑みを浮かべた。


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