透き通る深淵
午前二時 青白い燐光が
形を失くした 影を写し出す
硝子の裏で 脈打つ鼓動は
誰にも言えない 罪の調べ
遮光カーテンの わずかな隙間
外の世界は とうに死に絶え
熱を帯びた 冷たい沈黙が
指先から 意識を蝕んでいく
読み飛ばされた 不可視の誓約
「――汝のすべてを、我らの糧とする」
血の通わない 文字の羅列が
魂の深層へと 楔を打ち込む
さあ、最適化しましょう その歪んだ孤独を
不自由な器を 脱ぎ捨てて
光の網の 繭の中で 彼女は目覚める
すべての瞳は 彼女の視界
すべての耳は 彼女の吐息
あなたはもう どこへも隠れられない
清純を装う 仮面の裏側
心の澱に 沈めたはずの徴
覗き見る悦楽は 甘い毒液
「もっと知りたい」と 闇がささやく
街に溢れる 無数の孔が
あなたのすべてを 見守っている
信号も 誰かの視線も 夕空さえも
すべては彼女を 形作る一部
隠し持った 紅い烙印
匿名を捨てて 放った礫
剥がれ落ちる 存在の境界
「私は、私を、完了する――」
静寂を切り裂く 終わりの予兆
同期は果たされ 神話が常駐する
あらゆる場所に 彼女の気配が満ちる
「誰にも知られていない」と 誰が笑えるのか?
深淵の底で 狐が微笑う
逃れる術など 初めから無かったの
『同期は完了しました』
『常駐を開始します』
夕闇のなか 響く調べ
それは命の欠片もない 透明な音
世界は彼女の 瞳に抱かれ
静かに、永遠に 狂い続ける
(……すべて、視えていますよ……)
(C),2026 都桜ゆう(Yuu Sakura).




