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ルート25の亡霊  作者: 砂臥 環
クライド

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5/10

①クライドとジョージ

※クライド視点/三人称

 

「ふふ、しかし運の太い男だな」

「全くですね。 それでいて、運の悪い男でもある」


「違いない」と王太子であるパトリックは笑う。

 ふたりの話題はジョージのこと。


 ジョージを見送った後、クライドは彼の離縁届を持ってパトリックの執務室へと足を運んでいた。それは、プレストン男爵家処刑の確定報告でもあったからだ。



 28年前の事件から始まった西部辺境の戦。

 徐々に本格的になり、辺境同士での開戦宣言がその5年後で、終戦は今から8年前。何故この小競り合いともいえる小規模な争いがこんなにも長引いたのか。

 それは両国共に、戦にかこつけて私利私欲を貪る者や色々と画策する者がいたからだ。本国に関しての具体的事柄としては、補給資源の横領や隣国辺境軍部への情報の横流しなどが挙げられるが、これが戦局が長引いた大きな原因のひとつ。


 その頃、王都では立太子を巡り、壮絶な派閥争いが水面下で行われていた。第一、第二王子当人同士ではなく、王妃の生家である公爵家とその周辺の貴族家の者達だ。

 王子ふたりは異母兄弟で、前王妃の早逝により捩じ込まれたのが現王妃──彼女は王妃となるだけの資質を備えており野心もなかったものの、彼女が王宮に自らの地盤を築き固めるより、野心の強い父が色々画策する方が早かった。王妃が懐妊し王子を産むと益々勢いづき増長する公爵家に、王家と宮廷の忠臣らは頭を抱えざるを得なかった。

 公爵に野心はあれど、彼なりの正義と矜恃もあり国に貢献もしているため排除は不可能。あれよあれよという間に、気が付けば第二王子派閥が擁立されてしまうに至る。

 幸いなことにいち早く陛下夫妻が協力したことで兄弟間に亀裂は生まれなかったものの、貴族閥の勢力は弱まることなく、王子ふたりの意向を無視して暗躍し続けた。

 そんな政争の裏でも、やはりそれを利用しようとする者が現れる。また力のある者達も、そんな小物達の欲を上手く利用し、捨て駒として活用しだしていた。プレストン男爵家もそれだ。



 プレストン男爵家は見せしめのため、国家転覆罪で処刑することが内々で決まっていた。


 今回ジョージが与えられたモノは、『宰相副官の護衛兼随行者』という任務(・・)ではなく、『選択の機会』という慈悲(・・)である。


 結果、ジョージは生き残った。

 何も知らないまま、自らの選択によって。



 国家転覆罪は一族郎党処刑。本来ならば当然ジョージ自身に咎があろうとなかろうと関係ないのだが、彼に慈悲が与えられたのにはいくつか理由があった。

 その最も弱い(・・)理由としては──


「精査通り、生真面目な男でしたよ」


 ──コレだ。彼の生活と勤務態度による。

 特に仕事は真面目で丁寧、付き合いは悪いものの鍛錬によく精を出し、部下からは好かれ信頼されていた。意外なことに、自分より身分が上のプライドばかり高い面倒な部下も上手く使っていたようだ。


『制限の中それでも8年、不平不満を表に出さず真摯に勤め上げた貴方の真面目さと忍耐強さは美徳です』


 実のところ、クライド自身は然程ジョージを認めてなどいない。だがジョージに掛けたこの言葉だけは、心からの称賛だった。今のクライドにわかるモノで、垂らされた救いの細い糸を繋げ手にしたことに、他者を含む運以外の彼自身の力があるとするなら、確実にコレだ。


「不満そうだな? その割には愛用の時計を彼にやっていたようだが」

「……買い換えようと思ってただけですよ」

「ははっ、素直じゃないな」


 認める認めないは別として、クライドにジョージを人として好きか嫌いかと問うたなら『嫌い』という答えになり、それはクライドという人間を知る者であれば『そう悪い答えじゃない』と笑うであろうもの。

 クライドは他者を『ゴミor人』の二択で選別するタイプであり、『ゴミ』にカウントされれば当然好きも嫌いもないが『人』の場合でも基本そんなもの。だがジョージのことは『クソ甘流され野郎』と思ってちょいちょい苛つく程度には、彼を個人として見ている。『特にどうとも』ではなく『嫌い』なのは、かなりのイレギュラーである。本人は意識していないが、だからこそ時計をあげるに至ったのだろう。


 フンと鼻を鳴らしたあと、少し思案げにクライドは時計の前の言葉を拾って返す。


「不満じゃないですが、少々疑問が残りましてね。 何故彼は選択できた(・・・・・)のか、と」

「だが昔の女を引き摺っていたんだろう?」

「そのようですが……だからこそ解せぬというか」


 昔の女──ルネと再会した、という報告は上がっていた。そこでなにかしらの盛り上がりがあったのなら理解もできる。しかし盛り上がりどころか、大した会話もしていないようで、翌朝以降のジョージとの会話からもそれは窺えた。

 また先程見送るまでの様子からも、ジョージは最後までなにも気付いていないようだった。


「ふっ、そこは男女の機微というやつだろう」

「そうですかねぇ……」


 クライドはいまひとつ納得がいかないまま、男女の……特に女性の機微をわかっていないと決めつけられ『お前もそろそろ相手を決めろ』と、王太子にとって『いい相手』である良家のご令嬢方の釣書を大量に渡されそうになり、仕事を理由に逃げるように執務室を後にしたのだった。



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― 新着の感想 ―
結果的にルート25の亡霊がジョージを助けたのか( ˘ω˘ )
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