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ルート25の亡霊  作者: 砂臥 環
ルネ

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19/20

⑪再会の後で

※次の話とほぼ同時に投稿してます。

こちらが先です。


※ルネ視点

※一部別視点アリ

※いずれも三人称

 

 ジョージと会った後、ルネは暫くの間多幸感と高揚感に包まれていた。

 8年後のジョージは、多少変わってはいたけれど、やはりルネの知っているジョージだった。

 直前までぐちゃぐちゃ考えていたアレコレは吹っ飛び、ただ懐かしくて嬉しくて、自分で思っていたより遥かに自然に、まるであの頃のふたりのように接することができた。


 ──だからこそ。


「ルネ、お疲れ様!」

「──」


 そう微笑むヴィオラを見て。

 一気に現実に引き戻されたルネの顔色は赤から青へと急激に変化した。ふわふわして軽かった足取りは、重力が一気にのしかかってきたかのよう。全身が重い。


「ルネッ? どうしたのルネ?!」


 動悸が酷く、息ができない。


(大丈夫、大丈夫……!)


 咄嗟に以前同じようなことが起こったのを思い出し、その場にしゃがみ込んだままゆっくりと息を吸いゆっくりと吐く。


(大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ……)


 そう言い聞かせながら徐々に呼吸を深くしていき、なんとか持ち直したルネは、蒼白になった顔でヴィオラに微笑んだ。


「大丈夫……でも、もう部屋に戻るわ。 ごめんなさい、今日はありがとう」

「フラフラじゃん、部屋まで送る」

「ヴィオラ」

「そしたらすぐ帰るから。 もう寝て」

「うん……」


 ヴィオラに送られたあとすぐ、部屋の施錠をしたルネはベッドに倒れ込んだ。


(……どうしよう)


 後にクライドに深読みされることとなったルネの言動だが。実のところただ、嬉しくて──舞い上がってしまったのだ。


 傍から見たらわからないだろうが、それはある種パニック状態だったとも言える。

 あの頃のような素振りではなく、あの頃に戻っていたような……そんな浮かれた感覚のまま。ルネは当時のように振舞ってしまった。当時のように嘘を吐き、当時のように匂わすだけで自ら愛を口にすることなく、察して貰おうと甘えてしまった(・・・・・・・)


 本当はクライドが想像していたように振る舞うつもりでいた。どうしてこうなったか自分でもわからなかった。

 そもそもルネに許されたチャンスは一度だけだった。むしろ最初から臆していたルネには二度目だったようなモノで、もう立ち上がる気力はなかった。先程ヴィオラの前で取り繕えたのが、奇跡的な程に。


(大丈夫……じゃ、ない……!)

 

 恒常性の維持や損失回避行動など、ルネの行動にそれらしい心理的な理由を付けるならいくらでもあるだろうし、叙情的に言うなら愛し尽くしたが故、喪うことの恐怖に耐えられなかったと言い換えることもできる。

 だが結局のところそれは致命的なミスでしかなく、どんなに後悔してももう取り返しがつかないことでしかない。


 ルネは、ジョージの決断を促すような行動を取れなかった──それだけだった。


 それでも、今回の件でルネは沢山の手を周囲に借りてしまった。それは一部刑罰に加算されるかたちになっているだけに、休むことは許されない。本当は許されないことはないのだが、ルネはそう思ったしそれに安堵もした。なにかをしていないと、本当にどうにかなってしまいそうだった。


 しかし以前発熱したように、耐えきれない精神への負荷を責任感如きで持ち直す、というのは土台無理な話で。それはやはり肉体の変化として現れた。


「──、──!」


(……声が、出ない……!?)


 ルネの心は、肉体を動かす代償として自らの声を奪っていた。





「──ルネ。 貴女は暫く森で薬草の管理(・・・・・)をして頂戴。 監視にはいつも通りヴィオラを付けるわ」


 アンドレアは業務的に淡々とそう告げる。

『薬草の質が落ちたから』と。今の状態のルネから責務を取り上げるのは良くない、そう感じたのだろう。

 彼女(ルネ)は良くやった、そう理解しながらも労いの言葉は一切掛けなかった。結果がどうあれ──と言うのは、最も残酷な言葉なのを知っているのだ。



「……まあ、結果はまだ出てないんだがな」


 辺境伯夫妻の部屋。妻から経緯を聞いたジョシュアは残念そうに言う。


「そう言う割にガッカリしてるのね?」

「思いの外、ルネが弱かったのがね。 ルネに、というより少し見誤ったことに」

「あら、そんなことないわ。 元々矜持も責務も持たない、ただの平民の女の子だったのだから。 そう弱くもないと思うけれど……でも、そうね」

「ん?」


 自分より先に40代になっても怜悧な美貌が健在の歳上妻は、たまにしか見せない可愛らしい表情ではにかむ。


「本当は弱いからこそ、自分を支えてくれた誰かの為にあそこまでできたというなら……それも素敵だと思わない?」


 そして、珍しく口にすることまでなんだか可愛らしい。そんな妻を「可愛いひとだ」と引き寄せ、存分に可愛がることにしたジョシュアは、愛の言葉の代わりにこう囁いた。


「ロマンスは人それぞれさ。 たとえ矜持と責務から始まろうとね」





 辺境伯夫妻に期待はされていても、然程心配はされていないルネだったが。

『森での仕事』という名目の療養生活が始まって、一週間。まだ声は出なかった。



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