第9話 ギルド登録、無事完了‼︎ 何も起こらないっていいね
冒険者たちの視線と質問攻撃に囲まれ、俺はもう軽くめまいすら感じていた。
ギルド内は、もはや市場より騒がしい。
その中心にいるのが“俺の股間”という事実がつらすぎる。
そんな中、ライラがきっぱりと言った。
「……悠斗。このギルド、今日はもうダメだわ」
え、そんな診断するみたいなテンションで言う?
「この騒ぎじゃ、ギルド登録どころじゃないよ。
受付に近づく前に、股間の話題で一生詰まるパターンだもん。
ね、他のギルドに行こ?」
冷静で的確すぎる判断。
俺の股間の輝きより眩しいわ、その判断力。
「……まぁ、確かに無理だよな……」
俺がそう呟くと、周囲からまた声が飛ぶ。
「逃げる気か股間デストロイヤー!」
「待て!光らせたまま帰る気か!」
「この現象について実験させてくれ!」
どんな研究対象だよ俺。
てか股間を実験って言うんじゃねぇ。
ライラはそんな声を完全に無視し、俺の腕を掴んだ。
「行くよ悠斗。放っておいたら、絶対変な称号つけられるから」
「いやもう既につきかけてるけど!?」
「ついてないって言えばついてないの。ほら、早く!」
ぐいっと引っ張られ、俺は騒がしいギルドから逃げ出すようにして外へ飛び出した。
背後ではまだ冒険者たちが騒いでいた。
「股間デストロイヤー逃げたぞ!」
「追うな!股間が光るぞ!」
「いや光っても何も起こらねぇだろ!!」
……頼むから俺の股間で議論するな。
外はさっきまでの喧騒が嘘みたいに静かで、街路に太陽が差し込んでいた。
「はぁ……本当に大変だったね、あれ」
ライラが髪をかき上げながらつぶやく。
「股間光っただけで、なんであんな騒ぎになるんだよ!」
「“だけ”って言うほど軽くはないと思うけどね……?」
「……まぁ、そうかもしれんが……」
俺は思わず自分の股間を見下ろす。
光ってない。
よし、今の俺はセーフ。
石畳の道を歩きながら、ライラが横目で俺を見てくる。
「でもさ、あのまま残ってたら絶対無理だったよ。
登録済む前に“称号:股間デストロイヤー”つけられるところだったからね」
「そんな称号、人生最大の黒歴史だわ……!
ギルドカードに書かれたらどうすんだよ……!」
「“職業:冒険者/称号:股間デストロイヤー”……みたいな?」
「恐怖の職質案件じゃねぇか!!」
ライラは口元を押さえてクスクス笑う。
俺は笑ってる余裕なんてねぇんだけどな!
街並みは次第に賑やかさを増し、屋台や行商人が集まる通りへ差し掛かる。
肉の焼ける匂いがふわっと漂ってきて、思わず腹が鳴った。
「ねぇ悠斗、平気?」
「何が?」
「ほら、あまりに追い詰められると、また股間が光ったりしない?」
「光らねぇよ! 俺の股間はストレスで反応しない!」
「へぇ、ストレスじゃ光らないんだ?」
「だからなんでそんな実験データみたいになってんの!?」
道行く人々は、俺たちを怪しむ様子もなく普通に通り過ぎていく。
さっきのギルドのあれが異常だったんだと、改めて実感する。
「まぁ……次のギルドは普通だといいね」
「頼むから普通であってくれ……本当に……」
「大丈夫だよ。あんなヤバイ奴らがいっぱいいるギルド、そうそうないから」
「言い方やばいけど完全に同意だわ」
そんなくだらない会話を続けながら、俺たちは新しいギルドの建物が見えてくる通りへ足を踏み入れた。
先ほどのギルドから結構離れているから、俺のことは知られてはいないはずだ。
石造りの堂々とした入口、落ち着いた雰囲気、
そして何より――股間に一切視線を向けてこない人々。
「……ここならいけそうだな」
「うん。じゃ、登録しよっか」
俺は深呼吸をして扉へ近づいた。
扉を開け、周りを見渡す。
「大丈夫そうだな」
「えぇ、そうね」
俺たちは、受付嬢のところに行く。
「ようこそ。《風紋のギルド》へ! ご用件はなんでしょうか?」
受付嬢の爽やかな笑顔に迎えられ、俺とライラは胸をなで下ろした。
――股間の話題が一切出ないギルド最高。
「ギルド登録をしたいのですが」
「わかりました」
スムーズに手続きは進み、名前を書き、証明用の魔石に触れたら登録完了。
これまでの騒動が嘘みたいに静かで、平和だ。
「お疲れさま、悠斗。無事に登録できて良かったね」
「ああ……今回は本当に何も起きなくて良かった」
股間も光らない。優秀。すると受付嬢が小さな紙束を差し出してきた。
「こちらが新人向けの依頼になります。最初は無理のないものから選ぶといいですよ」
差し出された依頼書の中に、ひときわ簡単そうな文字があった。
《スライムの巣、清掃依頼》
「……これ、行っても大丈夫かな?ライラ」
「うん。初任務だし、ちょうどいいと思う」
こうして俺たちは、記念すべき最初の任務へ出発した。




