第8話 股間デストロイヤー
金玉を蹴り続けること数分――ついに男は、白目をむいて崩れ落ちた。
ギルド中に、砂漠みたいな乾いた静寂が走る。
誰もが息を呑んだ。
やがて、ぽつりぽつりと冒険者たちのざわめきが広がる。
「……なんて奴だ……」
「おい、アイツ、人の心とか持ってんのか……?」
いや、俺だって好きで蹴ったんじゃねぇよ。……いや、まあ蹴ったけど。
そう心の中で弁解していると――
俺の股間が、光り出した。
……タイミング最悪にもほどがあるだろ!?
「お、おい……なんであいつの股間が光ってんだよッ!?」
だから俺が聞きてぇわ!!
冒険者たちが一斉に距離を取りつつざわめき始める。そのとき――
ひとりの冒険者が、何かを思い出したように呟いた。
「……昔さ、村の古い書物で読んだことがあるんだけど……
もしかしたらアイツ、“股間デストロイヤー” かもしれない」
……は?
何を言ってんだこいつは。本気で言ってんのか?
「股間デストロイヤー……?」
冒険者たちが、揃って首を傾げる。
ギルドにクエスチョンマークが乱舞した。
……いや、お願いだ。もっとまともな称号をくれ。
すると、ライラまで目を細めて口を開いた。
「……その言葉、聞いたことがあるわ」
おいおい。ライラ、お前まで何に乗っかってんだよ。
「股間デストロイヤー――それは太古の時代に実在したと言われる人物。
男の股間だけを執拗に破壊したため、そう呼ばれているの」
真面目な顔で説明すんな。余計にカオスだろ。
てかそんな存在、頭いかれてんのか?いや、名付けたやつもどうかしてる。
「でも……なんで悠斗が股間デストロイヤーだなんて言われるのよ?」
ライラが眉をひそめる。
その問いに、例の“言い出しっぺ”の冒険者が、おそるおそる口を開いた。
「い、いや……俺の村にはな、その股間デストロイヤーについて書かれた古い本があるんだ。
そこにな、こんなふうに書かれてるんだよ」
男は、ごくりとつばを飲み込んで続ける。
「『股間デストロイヤーは、必要以上に相手の股間だけを狙う。
そしてそれが終わると――なんと自らの股間が光り始める。
まるで金玉を破壊したことを祝福するかのように。
なんとも恐ろしい。もし遭遇したら、すぐに逃げよ』……ってな」
ギルド中が、ぞくりと震えた。
……いや待て。
その説明、俺に当てはまるの偶然じゃねぇの?
てか祝うな俺の股間。そこは光らなくていい。
「なるほど……確かに特徴に当てはまるわね」
ライラが神妙な顔で頷いた。
いや、納得すんなライラさん。
どう考えてもただの偶然だ。そもそも太古の人物なら、とっくに死んでるだろ。
「ちょ、ちょい待て。太古の時代に生きてたなら今ごろ白骨化してるだろ」
俺は全力で抗議した。
だが、例の冒険者が、得意げに口を開く。
「確かにそうだ。だが――しかしだ!」
何そのタメ。嫌な予感しかしねぇ。
「もし、その“股間が光る”スキルが後世に受け継がれていたとしたらどうだ?
全部辻褄が合うだろう。つまりだ――」
男は俺をビシッと指差して叫んだ。
「お前の正体は、“股間デストロイヤーの子孫だ”!」
ギルド中が「おお……!」とザワつく。
……いやいやいやいや。
何言ってんだこの男。
俺、そもそもこの世界の生まれじゃねぇんだよ。
的外れどころか大陸の外に飛んでるレベルの妄想やめろ。
すると、ライラが盛大にため息をつきながら言い放った。
「そんなわけないじゃん。スキルが子孫に引き継がれるなんて聞いたことないんだけど」
よく言ったライラ!
正論パンチありがとう!俺の味方は君だけだ。
だが周りの冒険者たちは、納得するどころか逆にヒートアップしていく。
「じゃあなんで股間が光るんだよ!」
「説明しろよ!」
「怖ぇんだけど!」
知らねぇよ。俺が聞きてぇわ。
冒険者たちの視線が、一斉にレーザーのように突き刺さる。
その様子を見て、ライラが肩をすくめた。
「ああ……こりゃ面倒くさいことになったね、悠斗」
分かってる。誰より俺が一番分かってる。




