第6話 ヒロインに軽蔑の目で見られました 詰みですかね
村外れの林道を抜けると、ぽつんと建つ大きな建物が見えてきた。
――冒険者ギルド。
村の喧騒から少し距離を置くように、まるで荒くれ者たちを隔離するため建てられたかのような場所だ。
俺たちはそこへ向かうことにした。
ギルドとは、各地から流れ着いた腕自慢の連中が集まる巣窟であり、
“金になるなら何でもやる”連中が依頼を求めて蠢く場所でもある。
討伐、護衛、探索――命知らずたちが報酬目当てに仕事を奪い合う戦場だ。
冒険者には、その実力に応じてランクが与えられる。
Fから始まり、E、D、C、B、A、そして最上位のS。
ランクが上がるほど危険度も跳ね上がるが、
それ以上に名誉と報酬が桁違いになる。
だから皆、死に物狂いで上を目指し、そして散っていく。
俺とライラは、深呼吸ひとつしてからギルドの扉を押し開けた。
――その瞬間だった。
酒場じみた喧騒がピタリと止まり、
中にいた冒険者たちが一斉にこちらへ鋭い視線を突き刺してくる。
やべぇ。こえぇぜ。
なんで初対面でそんな血走った目できるんだよ。
怖ぇっての。
思わずライラの後ろに隠れそうになりながら、
俺たちはおそるおそるギルドの中へ足を踏み入れた。
と、その時。
ギシ、と床板を鳴らして、ひとりの冒険者がこちらへ歩いてきた。
その目つきは完全に“喧嘩を売りに来ました”のそれ。
鼻息まで荒くて、どう見ても絡む気満々だ。
――おいおい、入って一分も経ってねぇぞ。
勘弁してくれ。こちとら喧嘩なんかしたこともないぞ。「よぉ。そこの二人、見ねぇツラだな。新人冒険者ってやつか?」
ギルドの空気を割るような声が飛んできた。
ライラは一歩前へ出て、落ち着いた声で答える。
「えぇ、そうよ。何か問題でも?」
……ライラさん、強ぇ。
物おじゼロ。メンタル鋼鉄製。
俺には絶対マネできない。
「へぇ、いい度胸じゃねぇか、ねぇちゃん。どうだ、俺たちと遊ばねぇか?」
男はニヤついた笑いを浮かべ、顎をしゃくってくる。
「そんなヒヨッコとつるむより、よっぽど楽しいぜ?」
……出たな。典型的ギルドの厄介客その1。
そいつの視線は、あからさまにライラの体を品定めしているようで、
もう“いやらしい”を通り越して“うっとおしい”の域に達していた。
元の世界では一発でセクハラ扱いになるようなやべぇ目つきをしている。
たしかに、ライラは俺から見ても文句なしの美人だ。
けどだからって、そんな獣みたいな目つきで見るんじゃねぇよ。
もうちょっと理性ってもんを持て。人間なら。
「失礼だけど、これからギルドの受付に用事があるの。そこ、退いてくれる?」
ライラは淡々と言い放つ。
……いやほんとこの人、強すぎじゃない?
「おいおいおい。俺の誘いを断るってか? へぇ……悪い子にはなぁ、ちょっと“お仕置き”が必要だぜ?」
男の口元が歪んだ瞬間――
バッ、と手が伸び、ライラの腕を乱暴に掴み上げた。
「ちょっ……やめてよ、この変態!!」
ライラは必死に腕を振り払おうとするが、
相手の握力は常識外れ。まるで万力みたいにびくともしない。
――こいつ、マジかよ。
胸の奥で、カッと血が逆流するような感覚が走った。
――山田悠斗、動きます。
「そこまでだ」
ギルド中に、俺の声が鋭く響いた。
静寂。完璧に決まった。
「ライラさんが困ってんだろ。いい加減にしろよ、お前」
俺が一歩踏み出すと、男がギロリとこちらを振り向く。
「テメェ……誰に向かって口利いてんだ? 邪魔するなら殺すぞ」
脅しのつもりか、殺気まで滲ませてくる。
だが、引く気は一ミリもなかった。
「それはこっちのセリフだ、ゴミ野郎」
俺は睨み返した。
「へぇ……言うじゃねぇか」
男はニヤリと口角を上げながら、ポケットへ手を突っ込む。
次の瞬間、銀色の刃がギラリと灯りを反射した。
――ナイフ。本物か。
「この獲物でテメェをぶっ殺す」
殺気が一気に膨れ上がる。
俺は深呼吸をした。
「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は全力で頭を下げた。
ギルド中の空気が凍りつく。
「ほう、素直じゃねぇか。だがな、今さら――ん?」
男だけじゃない。
周囲にいた冒険者まで、全員“え”みたいな顔でこっちを見ている。
ライラも唖然とした表情でこちらを見ている。
いや、その顔は俺を軽蔑するかのような目つきになっていた。
仕方がないだろう。ナイフ持ちだぞ。勘弁してくれ。マジで。




