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俺のスキル、説明すると大体笑われるが、そんな他人からの評価なんてどうでもいいわ  作者: ささみやき


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第13話 まさか、クレアに試されていました。 ヤバいです。

俺たちはギルドの扉を押し開き、夜の街へと足を踏み出した。

いつの間にか空はすっかり闇に染まり、街灯の魔石だけが淡く道を照らしている。


「……とんでもないことになってきたね、悠斗」


ライラが小さく息を吐きながら、肩越しに俺を見る。


「ああ、マジでやばい。こんな展開、想定外にもほどがあるだろ」


思わず頭をかきむしる。異世界初日から濃すぎるだろ、これ。


「明日に備えて、まずは宿を探そうよ。今日はもう限界」

「それもそうだな……」


宿探しか。

俺はこの世界に来たばかりで、地理なんてさっぱりだ。こういう時は素直に任せるに限る。

となると、頼れるのはライラだけど……

周囲を見渡してみるが、酒場らしき建物はあっても、宿屋らしき看板は見当たらない。

この辺り、本当に泊まれる場所なんてあるのか?

そんな不安が頭をよぎった、その時だった。


「よう、初心者ども。宿探しか?」


背後から、不敵で余裕たっぷりな声が投げかけられる。

振り返った瞬間、街灯の光を受けて銀色の髪が揺れた。


「それなら――オレがいいところを紹介してやるよ」


そこに立っていたのは、Bランク冒険者。

〈狼牙〉の二つ名を持つ女、クレアだった。

なんだか知らないが、どうやら俺たち――いや、正確には俺がクレアに目をつけられたらしい。

普通なら、Bランク冒険者が低ランク……いや、ほぼ初心者みたいな連中にわざわざ声をかけたりしないだろ。


はぁ……面倒くせぇな……


もっとも、殺気も敵意も感じない。少なくとも今のところは。

ならまあ、深く考える必要もないか。


「そうしてくれると助かります、クレアさん」


俺がそう言うと、クレアは鼻で笑った。


「おいおい、敬語なんてよせって。背中がむず痒くなるだろ。タメ口でいいぜ」


そして、思い出したように腕を組む。


「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。お前ら、なんて言うんだ?」


「俺が山田悠斗で、こっちがライラだ。よろしくな」

「しょ、紹介にあずかりました、ライラです……よ、よろしくお願いしますっ」


……うん。

ライラ、めちゃくちゃ緊張してる。

声、裏返ってたし、噛んでたし。

さっきまでの落ち着きはどこへ行ったんだよ。

相手がBランク冒険者だからか? 分かりやすいな……

そんな様子を見て、クレアは面白そうに口角を吊り上げていた。


「それで、その紹介してくれる宿ってのは?」


俺がそう尋ねると、クレアは肩をすくめて軽く笑った。


「お前たち、まだ駆け出しだろ? ランクで言えば……まあ、Fってところか」

「ぐっ……」


図星すぎて言葉に詰まる。

事実だから余計に痛い。


「任務の報酬も雀の涙みたいなもんだろ。だったら、身の丈に合った安宿が一番だ」


……否定できねぇ。

俺は間違いなくFランクだ。

でも、ライラはどうなんだ?

こいつ、俺より先にこの世界で冒険者やってたらしいし、もしかしたら――

そんなことを考えている間に、クレアは指を一本立てた。


「そこでだ。オレがいい宿を紹介してやる」


そう言って歩き出すクレアの後を、俺たちは黙ってついていく。

夜の街を少し外れた路地を抜け、辿り着いたのは――


「……ここか?」


俺たちの前に現れたのは、一軒の建物。

見た瞬間に浮かんだ感想は、ただ一つ。


……普通だな


派手な看板もなければ、怪しげな雰囲気もない。

かといってボロボロというわけでもなく、妙に印象に残らない。


「木造……だよな? 多分」


特徴がない、というのが最大の特徴。

そんな宿だった。俺たちは、そのまま建物の中へ足を踏み入れた。

内装は……拍子抜けするほど普通だ。受付、廊下、照明。どこを見ても、安宿そのもの。


あれ? 思ったよりまとも……?


――と、そこで。


違和感が、耳に引っかかった。

いや、違和感なんて生易しいものじゃない。

明らかにおかしい音がする。

……上の階から、かすかに聞こえてくる。

甘ったるく、息の絡むような――


「……あえ、ぎ声……?」


いやいやいやいや。

聞き間違いだろ? そうだよな?


まさか……いや、そんなわけないだろ


初対面の初心者に、こんな悪質な嫌がらせをするほど、クレアは暇人じゃない……はずだ。

そう自分に言い聞かせながら、俺は恐る恐る隣に立つクレアの顔を見る。


――その瞬間。


俺に衝撃が走る。


こいつ、

思いっきり笑ってやがる。


口角が上がり、目が楽しそうに細められている。

ああ、ダメだ。これは確信した。


……理解した


この建物――

多分、いや十中八九。


俺たちの世界で言うところの、ラブホテルだ。


詰んだ。

完全に、詰んだ。


「……ゆ、悠斗」


背後から、やけに小さく、震えた声が聞こえた。

嫌な予感しかしない。


恐る恐る振り返ると、そこには――

顔を真っ赤にし、両手で胸元を押さえたライラが立っていた。


「い、今の……その……音って……」


視線が泳いでいる。

完全に理解しようとして、理解してはいけない方向へ突き進んでいる目だ。


「ち、違う! 違うからな!? 今のはだな――」

「ゆ、悠斗……」


俺の言葉を遮り、ライラは一歩近づいてくる。

涙目だ。おい、なんで泣きそうなんだ。


「こ、こういうのって……まだ、心の準備が……だって、今日会ったばかりだよ?」

「待て待て待て待て!!」


準備!?

何の準備だ!?

話がワープしすぎだろ!!


「そ、それに……私、そういうこと……ぜ、全然……知らなくて……」

「聞かなくていい! 知らなくていいから!!」


クレアの方を見ると――

肩を震わせている。完全に笑いを堪えてやがる。


「いや〜、若いっていいなぁ……」

てめぇぇぇ!! やりやがったな。


俺の心の叫びは完全に無視され、ライラはさらに追撃してくる。


「も、もし……悠斗が……どうしても、って言うなら……」

「言わねぇよ!? 一言も言ってねぇよ!?」


ライラは耳まで真っ赤に染めながら、目をぎゅっと閉じた。


「……い、痛くしないで……ください……」


――地獄か?


俺は天を仰いだ。

異世界転生初日、剣も魔法も使わず、

たいしてなんの進展もない状態で、この状況に持っていた奴が今までいただろうか。いや、いないだろう。


「違う!! 誤解!! 全部誤解だ!!」

「え……?」


ようやくライラが目を開ける。


「ここは……その……そういう場所だけど……」

「だからって俺が何かするわけねぇだろ!!」


一瞬の沈黙。


そして。


「……じゃ、じゃあ……クレアさんと……?」

「そこに飛ぶな!!」


ついにクレアが耐えきれず、腹を抱えて笑い出した。


「ははははは! 最高だな、お前ら!」

「最高じゃねぇよ!!」


俺は悟った。

この女――〈狼牙〉クレアは、

意図的にこの宿を選んだ。


そして今夜、俺の精神は確実に削られていく。

やばいぞ、なんだこの展開。確かに異世界といったらハーレム状態になるのが定番だが、それは何かしらのフラグを回収したら、発生するものだろう。少なくとも俺はまだ、何も成し遂げていないぞ。

……いや、襲ってくる男から、ライラを守ったけ?

だとしてもだ、まだ不十分だろ。もしかしたらあの件で俺に対する好感度がカンストしたとかないよな。そんなちょろい女ではないよな。どちらにしろ俺が望む展開ではない。どうにかしてこの危機的状況から抜け出さないと。


「……あ、あの……」


さっきまで顔を真っ赤にして固まっていたライラが、意を決したように小さく手を挙げた。

その仕草がやけに真面目で、嫌な予感しかしない。


「……な、なんだ?」


俺はできるだけ穏やかな声を出す。

頼む、爆弾は投げるなよ……。


「そ、その……」


ライラは視線を彷徨わせ、指先をもじもじさせる。


「こ、こういうことって……」


一瞬、息を吸い込んで――


「……べ、勉強した方が……いいですか?」


――世界が、止まった。


「は?」


俺の口から出たのは、それだけだった。

理解が追いつかない。脳が拒否している。


「えっと……ほら……」


ライラは必死に言葉を探している。


「知らないままだと……その……ご迷惑、かなって……」


迷惑!?

誰に!?

何が!?


「だ、だから……ゆ、悠斗が困らないように……」

「待て待て待て待て!!冷静になれ」


全力で両手を振る。


「困らねぇ! 一ミリも困らねぇ!! そもそも前提が全部違う!!」


クレアを見る。

完全に腹を抱えている。


「くくっ……はは……最高すぎるだろ……」

「笑ってんじゃねぇ!!止めろ!!」


ライラは俺の必死の否定を聞いて、しゅん……と肩を落とした。


「……そ、そうですよね……」

「いや、落ち込むな!? 違う意味で違うから!!」


さらに追い打ち。


「で、でも……いつか必要になるなら……」

「ならねぇよ!? 今じゃねぇし!? そもそも俺に聞くな!!」


ライラは小さくうなずき、真剣な表情で言った。


「……じゃあ……必要になったら、教えてください……」

「誰が教えるんだよ!!てかお前こんなキャラだったけ!!」


その瞬間、クレアが肩に手を置いてきた。


「安心しろ、坊主。

この子はちょろいだけだ」

「安心できる要素どこだよ!」


今回ので分かったことがある。多分、ライラはとてもちょろい女だ。危ういぐらいに。

そして、クレアはやばい奴だと。


「――教材、ありますよ?」


背後から、場違いなほど落ち着いた声がした。


俺は、ゆっくりと振り返る。

そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべた宿の主人――中年の男性だった。


「は?」


脳が処理を拒否する。


「初心者の方には、基礎から分かるものが人気でして」


主人は当たり前のように続ける。


「図解入りで、文章もやさしいですよ」


図解入り!?生々しいわ

そして、なにを“基礎”って言ってるんだこの人は


クレアはもうダメだ。完全に壁に寄りかかって笑っている。

助けは来ない。


「い、いや! 結構です!!」


俺が全力で遮るより早く――


「……そ、そうなんですか?」


ライラが、食いついた。

やめろ。

頼むから、その目をキラキラさせるな。


「図解……」

「はい、初学者向けです」

「や、やさしい文章……」


ライラは真剣そのものだった。

勉強熱心な生徒が、参考書を選ぶときの顔だ。


「……そ、それなら……」


俺の嫌な予感が、確信に変わる。


「一冊、買っておいた方が……いいですよね?」

「よくない!!」


即答だった。


「よくないですか……?」

「よくない!!」


主人は首を傾げる。


「でも、知識として持っておくのは悪くないかと」

「悪いです!!」


ライラは少し考え込み、そして――

真面目に、こう言った。


「……ゆ、悠斗が……困らないなら……」

「困る!! 俺が一番困る!!」


それでもライラは諦めなかった。


「じゃ、じゃあ……読むだけでも……」

「読むな!!」


クレアが追撃する。


「まぁまぁ、坊主。

本を読むだけなら減るもんじゃねぇだろ?」

「俺の正気が減るわ!!」


最終的に。


「……あの……」

ライラが主人に向き直り、ぺこりと頭を下げた。


「いちばん……分かりやすいのを……一冊……」


「買うなぁぁぁぁ!!」


俺の叫びは、夜の宿に虚しく響いた。

おかしい。おかし過ぎるぞ。こうも人は変わるものなのか。俺から見たライラは真面目だがやる時にはやるタイプで頼れるやつみたいな感じだったのに。なんか、俺の中のライラのイメージが崩れていくのを感じた。



……いや、さすがにおかしいだろ。

出会ってまだ一日も経っていない。それなのに、ここまで好感度が高いなんて、どう考えても不自然だ。

――何かある。

そう思った瞬間だった。

すっと影が差し、俺の正面にクレアが立つ。

銀色のポニーテールが揺れ、その金色の瞳がまっすぐ俺を射抜いた。


「悠斗……気づいたか。その違和感に」

「は?」


唐突すぎて、間の抜けた声が出た。

違和感? いや、確かに感じてはいたけど――。


「どういうことだよ」


問い返すと、クレアは一瞬だけ視線を伏せ、そして静かに口を開いた。


「……実はな。お前たちを、試していた」

「はぁ!?」


思わず声が裏返る。

試す? 誰を? 何のために?


「意味がわからないんだけど」


俺の言葉を待っていたかのように、クレアは淡々と続けた。


「詳しく説明する。この建物にはな――人間の思考や感情を歪ませる魔力が、薄く漂っている」

「……魔力?」

「そうだ。魔力耐性が高い者はほとんど影響を受けない。だが、耐性が低い者は――」


そこで彼女はちらりと、少し離れた場所にいるライラへ視線を向ける。


「……影響を、もろに受ける」


嫌な予感が背筋を走った。


「ライラみたいに、な」


その一言で、すべてが一本の線につながった気がした。

過剰な好意、やけに素直な反応、距離感の近さ――。


「……じゃあ、今までのあれは」

「魔力による感情の増幅だ。好意も信頼も、不自然なほどにな」


クレアの声は冷静だった。


「だから言っただろ。お前たちを“試していた”とな」


マジかよ……


思わず、乾いた声が漏れた。

冗談にしては質が悪すぎるし、かといって信じたくない話でもある。


「……どうして、こんなことを?」


問いかけると、クレアは一切ためらうことなく答えた。


「お前たちが“使えるかどうか”を確認したかった」


あまりにも率直な物言いに、言葉を失う。


「私の予想ではな――影響をより強く受けるのは、お前の方だと思っていた」

「は? なんで俺なんだよ」


思わず食い気味に聞き返すと、クレアは腕を組み、どこか納得したように小さく頷いた。


「理由は単純だ。お前たちの体内を流れる魔力の“癖”を見れば、どれほど修行を積んでいるかがわかる」

「……魔力の、癖?」

「そうだ。魔力による肉体強化――その練度だな」


クレアは自分の胸元を指で軽く叩く。


「魔力の流れが洗練されていれば、思考を乱す外部魔力にも耐性がつく。逆に、基礎が甘ければ……」


そこで彼女は、意味ありげに俺を見る。


「影響を受けやすい」

「それを、どうやって判断したっていうんだよ」


俺の問いに、クレアはふっと小さく笑った。


「私の固有スキルだ。人の体内を巡る魔力の流れを視ることができる」


なるほど――。


「お前の体内を流れる魔力を見ればな――修行を一切していないのは一目瞭然だ。だから、そう判断した」


クレアはそう言い切った。

まるで逃げ道など最初から用意していない、断定の口調だった。


……確かに、その通りだ。


俺は魔力の修行なんて、生まれてこの方一度もしたことがない。

そもそも、元いた世界でそんなことをしていたら――間違いなく病院送りか、少なくとも「関わっちゃいけない人間」認定だろう。


そんな当たり前の事実を突きつけられ、俺は言葉を失った。


クレアは、じっと俺を見つめている。

金色の瞳は鋭く、だがどこか探るようでもあった。


「……お前は、一体何者なんだ?」


低く、静かな声。

だが、その一言はやけに重く、胸の奥に突き刺さる。


答えられるはずがない。

言えば信じてもらえるとも思えない。


俺は視線を逸らし、喉を鳴らす。


「……」


結局、言葉は出てこなかった。

口を開いたところで、そこにあるのは沈黙だけだった。


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