寝待月 先代天女アンバー(上)
「アンバー、ここにいたのか」
月の塔の屋上庭園で、アストライオスが天女に話しかける。
アンバーと呼ばれた天女は、陽光のような栗色の短い髪をしており、目は琥珀のような深い黄金色をしていた。
「ふふっ。アストライオス。私がここにいるとよくわかったね」
アンバーは人懐っこい笑顔を見せながら、花壇のそばでしゃがみ込んでいた。
「また何か試しているのか」
「太陽の花だよ。ここはこの世界で一番月に近いからね。芽は出るんだけど、どうしても枯れちゃうんだよね……」
アストライオスもアンバーの隣にしゃがみ込んで眺める。
ひょろひょろした芽がでているが、葉の色も薄く、枯れてしまいそうだ。
「こんな花なんか育てたって、意味がないだろう」
「あなたらしいわね……でも意味がなくてもいいんだ、わたしはこの暗い世界に光を咲かせたいの。太陽の花ってね、咲くと太陽みたいに黄金に光るんだよ! いつかあなたにも見せたいなぁ……」
アストライオスは、天女の愛らしい横顔を優しいまなざしで見つめる。
「この前の満月の夜は大丈夫だったか……?」
「どっかの誰かさんが大火事おこして、私の服が焦げたけどね。」
ギクリとするアストライオス。
隣でくすくす笑うアンバー。
「冗談だよ! いつも守ってくれてありがとうね、アストライオス……
私は運動神経悪いし、あまり速く逃げられないから……」
アンバーがため息をついて言う。
「……こんな目奪ったって、何の意味もないのに」
アストライオスは何も答えない。ただ、その手はわずかに震えていた。
「最近、調子が良くないんだよね。毎月毎月、疲れてきちゃった。でもね、アストライオス、どうせ目を奪われるならあなたがいいな……」
「……そんなことを言わないでくれ」
アンバーはふっと笑い、視線を落とす。
「私がいなくなっても……あなたには幸せになってほしい。この世界の誰かと……結ばれてくれたら、嬉しいな」
「……そんなことを、二度と言うな」
アンバーは驚いたように黄金の目を見開くが、すぐに少し困ったように微笑む。
「私、分かってるよ。私は王になるための道具でしかない……それでもあなたと過ごす時間が楽しくてね……満月なんか来なきゃいいのにって思う。」
「……アンバー……」
(安心しろアンバー、次の満月も、私が必ず君を守る)
アストライオスは彼女の笑顔を直視できず、夜空を見上げる。
拳を強く握り、人知れず決意を新たにしていた。
――そんな二人の思いもむなしく、満月の夜は容赦なく迫っていた。。




