寝待月 ルナの好奇心
「おい、聞いたか。天女が回復したらしいぞ」
「あの化け物、しぶとすぎる。今度こそやっと目を奪えると思ったのに」
「せっかくリゲル様が矢で弱らせたのに……残念だな……」
王宮のあちこちで、ルナが回復したことを悔やむ声が上がる。
――この世界ではルナはいつか殺される生贄でしかないんだな...
百年間たった一人で、誰も味方がいない中、次の天女が来ないようにずっと戦ってきたのに。
……ふざけんなよ。そんなのあんまりだろ……
せめて俺だけでも、ルナの味方でいてやりたい……
ノックスはそんな声を聞きながら、こっそりと月の塔へ向かった。
◇
ルナは部屋にいなかった。
屋上庭園に行くと、ルナは花壇の前でしゃがんで青白く咲く花をみていた。
「ルナ、体調はどうだ? 変わりないか?」
「ノックス、あの氷結色白の矢の傷はまだ少し傷みますけど、闇の病はすっかり良くなりましたわ。あなたのおかげです、ありがとう……」
花壇に咲く青白い花を優しく眺めるルナ。
闇の中で咲く花は、弱々しいのにどこか誇らしげで、ただそこにあるだけで空気を清めているように見えた。
「こんな場所があるなんて、この百年間、ずっと知りませんでしたわ。わたくしも太陽の花を咲かせようと試行錯誤しましたが、うまくいきませんでした。どうしてこんなところに咲いているのでしょう?」
ノックスはアストライオスから聞いた話をルナに話した。
「アンバー姉さまが……そうでしたか……ここは姉さまのお墓なのですね...…」
青い瞳をふせ、切ない顔をするルナ。
「……闇の世界では火葬が習わしなのに、どうして姉さまはアストライオス王に土葬していただけたのでしょう……」
ルナは小さく震える声で続けた。
「わたくし……アンバー姉さまの最期を知りたいのです。従妹としても……そして、同じ天女としても」
「実は俺も気になってたんだ。叔父上は俺にまだ話してないことがある気がするんだよな」
こうして二人はアストライオス王の部屋へと向かった。
◇
「叔父上、たびたび失礼します……」
王の部屋の扉が重く軋む音が響く。
「ノックスと、ルナか。具合は良くなったか?」
少し外に出れば、「早く目を奪われてしまえばいいのに」とささやかれるのがルナの日常だ。王からそんな言葉が出るとは想像もしていなかったようで、ルナは目を見開いて驚く。
「あの花のおかげで、回復いたしましたわ。ありがとうございます」
アストライオスは父親のように優しく微笑む。
「そうか、それはよかった。あの花が君の命を救ったのか……あの世のアンバーも喜んでいるだろう……」
「あの……アストライオス王、そのことなのですが……アンバー姉さまは……」
「――君の従姉なんだろう?」
さえぎるようにアストライオスが言う。ルナは衝撃を受け、言葉を失う。
「アンバーが、君のことをよく話していたよ。真面目で、誇り高く、芯の強い、自慢の従妹だと」
ノックスは確信する。叔父上と先代天女の間には絶対に何かがある。
「あの……アンバー姉さまの最期について聞かせてもらえませんか。いつも明るくて、陽気で、わたくしにとって姉のような存在でした。わたくし、姉さまの最期が知りたいんです……」
ルナは勇気をふりしぼって王に聞く。
アストライオス王は深いため息をつき、しばらく黙っていた。
長い沈黙の後、やっと王は口を開いた。
「この話は誰にも打ち明けず、死ぬまで胸の中にしまっておこうかと思っていた。……でも、あの花のことを知ったお前たちには、聞く権利があるかもしれない……」
アストライオスは静かに語りだした。
若かりし頃、先代天女アンバーとの間に何があったのかを――




