居待月 脱落の危機
今夜は王候補資格維持試験の結果発表の日。4人の成績はいかに―
まだ身体の奥に、満月の夜の熱と衝撃が残っていた。
だが王候補者たちに休息の暇はない。
四人は王宮内にある学問の間に集められていた。
今宵、上弦の月に行われた、学科試験の順位が発表される。
「先日、上限の月に行われた、王候補資格維持試験の結果の順位発表を行う!」
王候補者を監督する、長老メラクが声高らかに発表した。
「一位、リゲル・ウィンター!」
「フン、当然だな……」
漆黒の髪がさらりと揺れ、切れ長の瞳が静かに輝く。絵画のように整った横顔に、気品漂う青い長衣。
周囲の賞賛を独り占めにし、堂々と答案用紙を受け取るその姿は、誰もが振り返らずにはいられないほど華やかで、非の打ち所がない美貌だった。
「二位、アルト・アクィラ!」
「……まぁ、この程度なら許容範囲だな」
リゲルと視線を交わすと、ダークグレーの髪を撫でつけながら眼鏡の奥でニヤリと笑う。 赤い眼差しは金属のように冷たく、感情の色を欠いていた。長身に細身の体は、鋭い威圧感を放っている。
「三位、カペラ・アウリガ!」
「へぇ~、準備してなかった割には悪くないじゃん?」
柔らかな金髪に縁取られた顔立ちは、整っていながらもどこかあどけない。垂れ気味の瞳は愛嬌たっぷりだ。猫のように気ままなカペラには、緊張感の欠片もなかった。
「四位、ノックス・セレノス!」
「……クソッ、やっぱ最下位か……!」
赤みを帯びた茶髪が乱れ、浅黒い肌を際立たせる。獣のように力強い体格に、彫りの深い輪郭。その顔立ちは華やかさよりも逞しさを宿し、豪快さと無邪気さを同時に感じさせた。ノックスは悔しげに舌打ちしながら、答案用紙を乱暴に受け取った。
「ノックス、お主、しっかり準備したのか? 戦闘はずば抜けておるが、学業はからっきしじゃの。このままの成績では候補者資格を失うぞ」
「はい……次は頑張ります……」
長老メラクに諭されうつむくノックス。
この世界の王は、血筋ではなく実力で決まる。戦に強く、学に通じ、民を導く才を持つ者だけが王となる。
誰でも奪目の儀に出場できるわけではなく、数多の試練を乗り越え、将来を担うことを期待された優秀な影人しか候補者になれないのだ。
(なのに俺は、いつも最下位)
「おいノックス。闇の王、アストライオス王の甥だからといって甘くみてもらえると思うなよ。この世界は実力主義なんだからな」
リゲルが氷のように冷たく吐き捨てる。
「まぁまぁ、別に最下位でも死ぬわけじゃないし? 大丈夫だよ!」
カペラが明るく励ましてくれる。
「……そうだ、ノックス。今夜あの女の世話係変わってくれないか」
ふと思い出したようにアルトに声をかけられた。
「えっ!今夜!? アルト、俺の試験の結果がやばいの、たった今知っただろ! 俺、勉強しないとまずいんだよ……」
「……文句を言うな。この前、私が世話係を変わってやっただろう。借りはちゃんと返せ」
アルトの冷たい深紅の瞳が、ノックスに向けられる。
「満月の夜に、誰かがあの天女の目を奪うまで、生かしておく必要があるのは理解できる。だが、あの女の世話など誰でもいいだろう? 時間の無駄だ。……というわけでノックス、頼んだぞ」
ノックスの肩をポンと叩くと、アルトは濃紺の軍服をはためかせ、颯爽と去ってしまった。置き去りにされたノックスは、渋々、月の塔へと歩みだす。
◇
月の塔へ向かいながら、ノックスは伯父について考えていた。
ノックスの伯父――アストライオス王は、この闇の世界で唯一、天人の瞳を持つ存在だ。そのため、瞳は赤ではなく深い琥珀色をしている。
ただ、長らく心を病んでおり、その姿を民が目にする機会は少ない。
いつもどこか影を背負い、物静かで、笑顔を見せることはほとんどない。
――それが、ノックスにとっての伯父上だった。
――俺もいつか、伯父上みたいに王になりたい……
伯父上は心を病んでるけど、伯父上が王になってから、闇の世界はずっと安定してる。
試験は最下位でも、諦めたくはない。
王になれる機会なんて、何百年に一度しか来ないんだ。
いつか王になって、民のことを守って、安心して暮らせる世界にしたい……
そう思いながら、月の塔の階段を上る。
その先に待つ出会いが、彼の運命を大きく変えるとも知らずに――




