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下弦の月 リゲルの憂鬱

容姿端麗で、成績優秀なリゲル。しかし、彼の本当の姿は―

 下弦の月が空高く上がる頃。


 リゲルは先日の試験結果に不満を抱いていた。

 大股でイライラしながら王宮の廊下を歩いていると、侍女達の群れに遭遇した。


「リゲル様! ごきげんよう!!」

「この前の戦闘、すごく素敵でしたわ!」

「これからも応援しています!」


 甲高い黄色い声に囲まれるリゲル。リゲルは不機嫌を押し殺し、キャーキャーする女子達に会釈する。


「それはどうも。ではまた……」 


 颯爽と去っていくリゲルの背中の後ろで、侍女達の熱は冷めない。


「はあっ……もう、本当にかっこいいわリゲル様……目の保養すぎる……」

「恋人とかいるのかしら……」

「あんなにクールで美男だもの。美人の彼女がいるに決まってるわ!」

 

 盛り上がる侍女達を尻目に、近くにいた従者達もリゲルを見てうっとりする。


「やっぱ次の王はリゲル様だよな」

「クールでカッコいいし、完璧すぎる……」 

 

 ――クール? 顔がいいだと?

 どいつもこいつも、俺の上っ面しか見てねぇのか……! 


 リゲルは、そんな自分に対する賛美の声が、今日だけは煩わしくて仕方がなかった。 


 ◇


 下弦の月が西の空に傾く頃。


 リゲルは王宮図書館で大量の本に囲まれながら研鑽を積んでいた。

 羽ペンは使い古され、机に向かう時間の長さが伺える。 


 ふと、先日のことを思い出す。

 ノックスの嬉しそうな顔が頭に浮かび、悔しくてどうしようもなくなる。

 

 ――あいつ、戦闘だけの筋肉野郎だと思っていたら、まさか成績も上げてくるとはな...…

 

 リゲルは燃え上がるような嫉妬で頭が狂いそうになる。 


 ――俺はただの本屋の倅。必死に勉強して、武を磨いて、あの三人にやっと肩を並べてるだけ。

 なんだかんだ言って、あいつら三人とも家柄がいい。あのヘラヘラしたカペラでさえそうだ。

     

 それに、全員、俺にないものを持ってる。

 ノックスは脳筋だけど、民から好かれてる。 

 カペラには美人の嫁がいる。 

 アルトは感情に左右されない冷静さがある。


 ――いくら周りに褒められても、どいつもこいつも俺の上っ面しか見てない...

「リゲル様」なんて呼ばれても……本当の俺を見てる奴なんていねぇんだ……


 リゲルは暗闇の中で、劣等感に押しつぶされそうになった。


 ――どれだけ試験で一位を取ろうと、それだけで王になれるわけじゃない。

 結局は、天女の目を奪った者が王になる。そんなことは百も承知だ。


 だが、俺には勉強しかねぇ。だからこそ、一位であることが俺の証明なんだ。


 勉強で誰よりも優れ、さらに天女の目も奪う。

 両方揃えてこそ、真に王と呼ばれるに値する。

 どちらも手に入れて、王として全てを支配してやる。


 そしてあいつらを見返してやりてぇ……

  


 図書館の窓から、冷たい月光が差し込んでいる。

 紙の匂いとインクのかすかな香りが漂う中、リゲルは羽ペンを握りしめた。


 どれだけ知識を書き連ねても、胸の奥の空虚さは埋まらない。


 ――この押しつぶされそうな孤独……耐えられない……


 指先が、誰かの温もりを求めてしまう。

 ふと、リゲルは思い出す。


 ――そうか、もうすぐ新月か…… 


 誰も見ていない夜。

 月の光すら届かない夜。

 すべての罪が許されるような、あの静かな闇の夜。


 ――この空虚さを埋めてくれるのは、あの夜だけだ……


 美しい顔に、冷たく光る影が落ちた。

 口元に、微かな笑みが浮かんでいた。


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