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居待月 わたくしは有能

予想外の試験結果に、ルナはどんな反応を見せるのか―

 わずかに欠けた月が南の空高く上り、闇を照らす頃。

 ノックスは狩人オリオンの影と軽食を持って月の塔を上っていた。


「ルナ、いる?」


「いますわよ。こんにちはノックス」


 ルナの顔は泣いていた日よりもずっと元気そうだ。

 ノックスは上限月の夜を思い出してしまい、ちょっと顔が赤くなる。


「あの……この前の試験結果が今日出てさ。それで、二位だったんだ……」


 それを聞いたルナは誇らしげに笑い、自己陶酔に浸る。


「まぁ! わたくしの手厚い指導の賜物ですわね……ただの暇つぶしで、しっかり結果を残してしまうわたくし……有能すぎて自分が恐ろしいですわ……最下位から二位に上昇……悪くない……」


 ――俺も頑張ったんだけど。褒めてくれないのか。

 そう思いつつも、ルナが自分のことのように喜んでくれてちょっとうれしく感じていた。


「二位……ということは、一位は誰ですの?」


「リゲルだよ、あいつ本当に頭いいんだよな……」


 リゲルの名前を発した瞬間に、ルナの顔が嫌悪感をあらわにする。


「またあいつですか……あの色白知識偏重が……」


「ねぇ、なんでそんなにリゲルのこと嫌いなんだ? なんかあったのか?」


 ノックスは本屋に行った時から、ルナのリゲルに対する態度が気になっていた。


「なんでもありませんわ。とにかく、次の試験であいつの鼻っ面を折ってやりたいところですわね。」


「それは無理だな……リゲルは天才だし……俺とは頭の作りが違うっていうか……絶対勝てない……」


 ノックスがおどおどと言い訳する。


「そうでしたか。まぁ、人それぞれ能力差はありますよね。それは仕方ありませんよ」


 てっきり猛勉強ルナ・ブートキャンプが始まるかと思っていたノックスは、ルナがあっさりと引き下がったので少し驚いた。


「そうだ、これ。狩人オリオンの影の新しい単行本な。あと南中飯ここで食べていい?」


「まぁ、ありがとう! ……ところで南中飯とは?」


「南中飯ってのは、月が真上にくる時間に食べる食事のことだよ」


「あぁ、昼ご飯のことでしたか」


「えっ、昼?」


「光の世界ではそう呼ぶのですよ。まさか『南中』などと観測用語を日常会話に使うとは……ふふ、やはり闇の世界は面白いですわね」


 ノックスはちょっと頬をかきながら苦笑した。


「そっか……影人の間じゃ、月の高さで時間を測るのが普通だから……飯の時間もそう呼ぶんだよな」


「まぁ、どうぞご自由にお過ごしくださいな。お茶くらいならいれてあげますよ」


「……へぇ、前は『もう帰れ』とか言ってたのに」


「あら、それは今も思ってますわよ。でも……今日は気分がいいんですの」


 そう言って、ルナは真っ黒な闇茶を淹れ始めた。

 闇の世界に生える闇苔で作られるお茶だ。

 

 以前なら「自分で淹れなさい」と言いそうな彼女のその変化に、ノックスはちょっとだけ胸が温かくなった。


 ノックスはふかふかの椅子に座る。前から思っていたが、座り心地が最高だ。

 

 紙袋から取り出した包みを開け、サンドイッチを取り出した。

 それは黒く光るパンに、漆黒の燻製肉が挟まれた、まさに 闇の世界の定番といった見た目だった。


「……それ、まさか食べ物なんですの?」


 ルナがサンドイッチを見て眉をひそめる。


「魔角獣サンドイッチ。俺、これ好きなんだ」


「……見た目がちょっと野蛮ですわね」


「味はうまいんだけどなあ……」


 ノックスがひと口かじると、温かさが残るサンドイッチからスパイスの香りがふわりと広がる。

 ルナは狩人オリオンの影を最初から読み直しながらも、ちらちらと視線をよこしていた。


 ――ま、絶対食べないだろうけど……ちょっと気になってんのかな。


 ノックスはそんな様子を見ながら、心の中で小さく笑った。


 数日前の満月の夜はお互い刃を交わしていた影人と天女。

 それなのに今は、ルナの隣で心が和らいでいくのをノックスは感じていた。


 ――なんかルナって、ほんと、おもしれー天女……


 月の塔の上では、欠け始めた月が二人の影を淡く照らしていた。

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