満月 奪目の儀、再び
再びやってきた満月の夜。奪目の儀は容赦なく開催される。
再びやってきた満月の夜。
候補者たちは、それぞれ戦闘服に着替え、奪目の儀の準備をしていた。
「今夜こそ、目を奪えるといいな~」
ゆるやかな金髪をまとめながら、黒地に黄色のラインが入った戦闘服に身を包んだカペラがけだるげに言う。
「おい、カペラ、本当にそう思ってんのか? 棒読みで嘘っぽいぞ」
白のラインが入った戦闘服を着るのはアルトだ。
「いや~、だってさぁ、あの天女、ルナだっけ? 百年生き残ってるんだよ? 俺らの前の王候補者だって何人も変わってるじゃん。冷静に考えて、あの天女やばいよね」
「……だが、生贄になるのは天女だけだ。天人の男は強すぎて、とても狩れんらしいぞ」
ノックスは戦闘服の赤いラインを指で撫で、大剣を見つめながら、複雑な気持ちで話を聞いていた。
――あんなに仲良くなったのに。王になるためには、満月の日はルナの目を奪わないといけないのか…
「なあ……いっそ殺しちまったほうが早くねぇか?」
リゲルが弓の手入れをしながら、ぽつりと言う。
ノックスが殺気のこもった狼のような視線でリゲルを睨みつけたことに、誰も気が付いていない。
「何言ってるんだ。目を奪うには生け捕りしないといけないんだぞ。まぁ目を奪ったあとは結局殺すがな」
「知ってるよ。でもさ、目を持った王が危篤になったり、目を奪われる前に天女が死んだりすると、光の世界から新しい天女が送られてくるらしいじゃん」
「……それなら、あいつ殺して、次の天女来させた方がいいんじゃねぇの。次の天女の方があいつより弱いかもしれねぇ。そうなりゃ楽だろ」
リゲルが理路整然と答える。戦闘服の青いラインが白い肌に良く似合っている。
「そうかもしれないが、そもそもあの女に攻撃一つ当たらないんだぞ。生け捕りすらままならないのに、殺すなんてもっと難しいだろう」
アルトが表情一つ変えずに、冷静に答える。そうこうしているうちに、候補者たちは呼び出され、闘技場へと向かう。
◇
闘技場は静まり返っていた。観衆も兵も息をひそめ、ただ天空に輝く満月だけが、儀式の始まりを照らしている。
白銀の戦闘服を纏ったルナが中央に立つ。青い瞳は月光を宿し、レイピアを軽く下げて構える。その表情には余裕すら漂っていた。
「奪目の儀――始め!!」
長老メラクの号令と同時に、四方から王候補者たちが襲いかかる。
炎、氷、雷、風――四属性の魔術が交錯し、闘技場は一瞬で混沌と化した。
最初に動いたのはリゲルだった。
彼の弓から放たれた氷の矢は、蛇の動きのように軌道を変え、標的を追跡する。矢は矢継ぎ早に撃ち込まれ、ルナを包囲するように四方から襲いかかった。
ルナは一瞬で地面を蹴り、光の魔力を足に溜めて走る。残像だけを残して滑るように移動し、氷矢を紙一重でかわしていく。
避けるたび、月光がきらめき、銀髪が尾を引く。
矢の一部が、横から踏み込んできたアルトの太刀筋と衝突する。
氷と風がぶつかり合い、鋭い氷片と風刃が乱舞しながら爆ぜ、観衆にまで冷風を浴びせた。
「よっと!」
カペラが電気を帯びた鞭を振り抜く。
黄色い稲妻が迸り、猫のようにしなやかな鞭は地を割る勢いでルナを狙う。
しかしルナは滑走するように横へ飛び、鞭は空を裂いただけ。
その雷光に、観衆から思わず声があがる。
「ほんと速ぇなぁ!雷より早いじゃん!」
軽口を叩きながら、カペラは楽しそうにさらに追撃を繰り出した。
直後、鞭の雷撃がリゲルの氷矢に直撃する。
バチバチッ!!氷塊は粉々に砕け、破片と電光が観客席にまで飛び散った。
「無駄口を叩くな」
アルトが一歩踏み込み、風を纏った太刀を抜く。
斬撃と同時に、烈風が奔り、空気を裂く音が響いた。
ルナの頬をかすめた風刃が石畳を削り、白い粉塵を撒き散らす。
斬撃と同時に烈風が奔り、雷光と交差する。
風が電流を巻き上げ、白熱する稲光の竜巻となってルナの背後を追った。
ルナはさらに速度を上げ、弾かれるようにステップを切る。
その動きはもはや「走る」ではなく「閃光が跳ねる」に近かった。
最後に大剣を振るったのはノックスだった。
炎を纏った大剣が、燃え盛る流星のようにルナへと迫る。
だが、刃が肩口をとらえる直前――わずかに軌道が逸れ、石床を焦がすだけに終わった。
「……手加減は無用ですわ」
余裕そうなルナだったが、ノックスを見つめる青い瞳にはどこか困惑を宿していた。
ノックスは再び大剣を振り上げる。だが炎刃は鋭さを欠き、ルナの髪をかすめただけで燃え散る。
ノックスの炎の大剣と、空を割いたカペラの鞭がぶつかる。
バチィッ!!炎と電撃が炸裂し、衝撃波で砂煙が舞い上がる。
「おいノックス! ちゃんと狙えよ!」
苛立つリゲルの声。
「……甘い」
アルトが冷たく吐き捨てる。
「ノックス、今日調子悪くない~? どうしたの?」
カペラが心配そうに言う。
ノックスは返事をせず、強く唇を噛んだ。
氷の矢、雷の鞭、風の刃、炎の大剣。
それぞれがルナを捕らえようと殺到し、轟音と光の奔流が闘技場を飲み込む。
だがルナは一撃も受けず、ただ走り続けた。
光を纏った足で駆け、月下を舞う幻影のように。
観衆の誰もが息を呑む。
候補者たちは歯ぎしりしながらも攻撃を止めない。
その混沌の中心で――
――ノックスだけが、刃を振り抜きながらも、心のどこかで制御できない迷いを抱えていた。




