エンカウント操作⑤
優雅に現れた、イライザ。
その高貴な姿に、アイシャは慌てて一礼。
街一番のお金持ち。ここまでこの街が発展できたのも、このイライザ家のおかげといっても過言ではない。
その場に居た人々も、そんなアイシャに倣い佇まいを正してしまう。
「いいのよ、アイシャさん。そこまでかしこまらなくても」
「は、はい」
おずおずと顔をあげる、アイシャ。
「他のみんなも。ほら、わたくしのことはお気になさらずに。今日は一人できましたので」
言葉の節々から滲む上品さ。黒のドレスを纏った優雅な佇まい。そして、澄んだ青の瞳に透き通った白い肌。その姿はまるで、絵の中に描かれたお嬢様がそのまま外に出てきたかのよう。
「い、イライザさま」
緊張した面持ちの、アイシャ。
「だ、ダイヤモンドラビットの捕獲任務。たたた、たった今、完了いたしました」
「ふふふ。見ればわかるわ」
室内に居並ぶダイヤモンドラビットの群れ。
その愛らしい姿に、イライザは微笑む。
「そ、そして。この任務を達成させたのはーー」
「それも見ればわかるわ」
柔らかな眼差し。
イライザはそれをもってクロエを見つめる。
交わる二人の視線。
緊張する、クロエ。
「ふふふ。貴方のお名前は?」
「く、クロエです」
「クロエさん。任務ご苦労様です。それにしても、すごいですわね。このようなたくさんのダイヤモンドラビット……どのようになさったのかしら?」
「え、エンカウント操作で」
「えんかうんと操作? 聞いたことのない言葉ですわ」
柔らかく笑う、イライザ。
そして、同時に懐から金貨を取り出す。
「では、報酬を」
優雅にクロエの元へ歩み寄り、イライザはクロエの手のひらを優しく握りしめーー
「またよろしくお願いいたします、クロエさん。貴方の素敵なお名前。しかと覚えておきますわ」
そう温かな声を発し、クロエへと金貨を手渡したのであった。
〜〜〜
「クロエさん! す、すごいです!」
「イライザ様に冒険者として名前を覚えてもらえれば、いつか王都直属の冒険家にスカウトされるかもしれませんよ!」
「す、すげぇよあんた!」
「かっこいい! クロエさんッ、素敵!」
様々な賛辞。
それに包まれる、クロエ。
しかしクロエは謙虚に答えた。
「ま、まだまだ実績を積まないと。まだひとつしか依頼をこなしていないので」
そう声を発した、クロエの表情。
その顔は自信に溢れていた。
(よし。そうと決まれば、自分も鍛えないと。確実に自分より弱い魔物と遭遇するようにして)
依頼をこなし、少しだけ成長したクロエ。
その影響で、エンカウント操作に新たな項目が追加される。
"ドロップ率"
ん? これは。ドロップ率?
対象物がなにか落としてくれるのか?
クロエは早速、浮かんだ新たな項目を試してみる。
〜〜〜
エンカウント操作に、"ドロップ率"が追加されました。
エンカウント操作。
対象ーークロエ。
被対象物ーー自分より弱い魔物。
遭遇率ーー100%
ドロップ率ーー100%
〜〜〜
こうしたクロエは、ますますその強さに磨きがかかったのであった。