エンカウント操作④
逃げたくも逃げられない、ダイヤモンドラビットの群れ。それを引き連れ、街へと帰還したクロエ。
その姿に、街の人々は驚嘆する。
「だ、ダイヤモンドラビットがあんなにたくさん」
「す、すごい。どうやって?」
「み、見つけることさえ困難なのに。しかも、あんなにいっぱい自分のペットのように」
飛び交う、クロエに対する羨望。
その羨望に、クロエは足を止め応えようとした。
だが、そこに。
「おい、兄ちゃん。すげぇ数のダイヤモンドラビットだな」
「へへへ。一匹わけてくれよ」
柄の悪い男たちが現れ、絡んでくる。
その手にはナイフが握られ、クロエに向けちらちらと刃先を揺らす二人組の男。
「なぁ、兄ちゃん。痛い目みたくねぇだろ?」
「ほら、はやくしろよ」
そこでクロエは、力を行使する。
よし。試してみるか。
エンカウント操作。
対象ーー目の前の二人組の男。
被対象物ーー突風。
遭遇率ーークロエが瞬きする度。
「おいッ、なにをモタモタ」
瞬きをする、クロエ。
刹那。
二人の背後。
そこに、立っていられない程の猛烈な突風が吹き付ける。
「「!?」」
姿勢を崩し、前のめりに倒れる二人。
再び瞬きする、クロエ。
すると、次は空から突風が吹き付け、二人を石畳に釘付けする。
吹き下ろす突風。それに、二人は叫ぶ。
「なッ、なんだこれ!?」
「どッ、どうして風が!?」
そんな二人の側を、ダイヤモンドラビットと共にクロエは素通りしていく。
そのクロエに男たちは、懇願する。
「たッ、助けてくれ!!」
「お、俺たちが悪かった!!」
それにクロエは胸中でつぶやく。
エンカウント操作。解除。
瞬間。風がおさまる。
そして男たちは、クロエの背を見つめーー
「ば、化け物だ」
と呟いたのであった。
〜〜〜
「これで依頼達成ですね」
「く、クロエさん」
朗らかなクロエと、目を点にするアイシャ。
室内。
クロエの横に居並ぶダイヤモンドラビットの群れ。
その異様な光景に、ギルド内の人々もまた言葉を失ってしまう。
「そ、その。どうやってこんなにたくさんのダイヤモンドラビットを?」
「エンカウント操作で」
「え、エンカウント操作?」
「はい」
笑顔のクロエ。
「す、すごいのですね。クロエさんは」
感嘆し、頬をあからめるアイシャ。
呼応し、次々と拍手が起こる。
「すげぇなッ、あんちゃん!!」
「すごーい!! 尊敬しちゃう!!」
「これで報酬たんまりだな!!」
それに笑顔で応え、クロエはアイシャに声をかけた。
「じゃあ、早速。達成報告を」
「は、はい。早急に。イライザ様にご連絡し、三日後には報酬を」
「えっ、三日後?」
「は、はい。ギルドは依頼主様と冒険家の間に立っておりますので」
「じゃ、じゃあ。今この場にそのイライザさまが居たら」
「は、はい。報酬はすぐにでも」
それを聞き、クロエは力を行使する。
エンカウント操作。
対象ーークロエ。
被対象物ーーイライザ。
遭遇率ーー100%。
刹那。
ギルドの扉。
それが優雅に開かれーー
「どうですか、アイシャ。わたくしの依頼。達成できた者はおられましたか?」
金髪縦ロールのお嬢様、イライザ。
その姿がそこに現れたのであった。