エンカウント操作②
意気揚々と走り去っていく、面々。
その後ろ姿を見送り、クロエもまた依頼をこなさんとする。
ダイヤモンドラビット。
文字通りダイヤのように美しい毛に覆われた、兎。
その一匹の価値。それは、計り知れない。
普通の冒険家なら、一生の内に遭遇することすら稀な稀少魔物。
だからこそ。
「そう簡単にはーー」
いかないだろうな。
そうクロエが呟こうとした、瞬間。
がさっ。
クロエの目の前の草むら。
それが音を立てる。
咄嗟に身構える、クロエ。
そして次の瞬間。
「きゅっ」
一匹のダイヤモンドラビット。
その可愛らしい顔が草むらからひょっこりと現れる。
「えっ?」
驚き、一歩下がるクロエ。
それに呼応し、「きゅっ?」二匹目のダイヤモンドラビットが草むらから顔を出す。
な、なんだこれ。
なにがどうなってーー
そこで、ふと。
クロエは思い出す。
「ま、まさかこれがエンカウント操作(レベル999)の力なのか?」
遭遇率∞。
それは即ち。
がさっ
「きゅっ!」
足を一歩踏み出すごとに、対象の魔物と遭遇することを意味していた。
〜〜〜
「おーい。ダイヤモンドラビットちゃーん。出ておいで」
下心丸出しの声。
それを響かせながら、アランは森を進む。
そしてその後には、アランのパーティーメンバーたちがいた。
皆、その顔に勝ち誇った笑みを浮かべている。
っと、そこに。
「グォォォン!」
という明らかにドラゴンの鳴き声が轟く。
「ん?」
「えっ?」
「ちょっ、ちょっと今の鳴き声って」
「ドラ、ゴン?」
少し弱気になる、アラン以外の面々。
だが、アランは笑い飛ばす。
「なんだよ。お前ら、ビビってんのか? ふんっ。この森にドラゴンなんていねぇ。居るのはせいぜい弱っちい魔物だけだ」
その言葉は普通なら間違ってはいない。
そう"普通"なら。
しかし、彼等にはかかっていた。
クロエの力。
エンカウント操作の力が。
「グォォォン!!」
「へ?」
アランの頭上。
そこより降り注ぐ、ドラゴンの鳴き声。
そして同時に吹き下ろす、突風。
呼応し、アランの背後にズシンッとなにかが降り立つ音が響く。
「ど、ドラゴンなんているわけ」
滲む汗。
そして恐る恐る、アランは視線を後ろに向ける。
果たしてそこには。
「ーーッ」
真紅の鱗に鋭い牙。
赤々と輝く双眸に、巨大な翼。
炎龍。
その巨体がアランたちを見下ろし、鼻息を荒くしていた。
そしてそれこそ。
対象ーーアラン、ゴウメイ、リンメイ、マリア。
被対象魔物ーー最強種、炎龍〈サラマンダー〉
遭遇率ーー∞
というクロエのエンカウント操作の効果だったのだ。