エンカウント操作①
パーティーを追放された、クロエ。
そしてその姿は今、冒険家ギルドの活気溢れる室内にあった。
しかしそのクロエの表情は暗い。
それもそのはず。
なぜならクロエはつい先刻、仲間だと思っていた面々から「役立たず」と罵られ小馬鹿にされ、挙句頬を殴られて追放されたばかりなのだから。
置かれたテーブル。
そこに突っ伏し、クロエはこれからのことを考える。
さて、どうしたものか。
エンカウント操作。
それがレベル999になったところでなにをすれば。
そうやって考えていた、クロエ。
だがその耳に。
「希少魔物〈ダイヤモンドラビット〉の捕獲依頼!? なんだよッ、これ!!」
そんな驚きの声が入ってくる。
「ダイヤモンドラビットってあのダイヤモンドラビットだよな? あんな超レア魔物がこの周辺に出るのかよッ、たった一匹で三ヶ月は食っていけるぐらいの金になる魔物がよ!! それに経験値も半端じゃないって聞いたぜ」
興奮の声と、あり得ないという思いが入り混じった雰囲気。
それにクロエは、顔を持ち上げ後ろを仰ぎ見る。
そのクロエの視線の先。
そこにはーー
「ほ、本当なんですッ、だってこの依頼をよこしてくれたのはこの街一番のお金持ちのーーイライザ家のお方なんですから」
そう言って困惑顔をたたえる、可愛らしい緑髪の受付嬢の姿があった。
「あ、あのイライザ家のお方が冗談半分で依頼をくれるはずがないです。そそそ。それにこの報酬額。ごくり」
受付嬢の手にある紙。
そこに冒険家たちは目を落とし、血の気を失せさせていく。
「や、やべぇ。ななな。なんだよ、この額」
「さささ。三ヶ月どころじゃねぇ。10年は食っていけるじゃねぇか」
10年は食っていける。
その単語に、クロエは食いつく。
「そそそ。その依頼ッ、俺が受ける!! いや受けさせてくれ!!」
切羽詰まった叫び。
それをあげ、椅子から立ち上がるクロエ。
そんなクロエの姿。
それに、人々は視線を向ける。
そして。
「ほ、本気かよ。あんた」
「ダイヤモンドラビットだぜ。あの、ダイヤモンドラビット」
そんな声をあげ、クロエを苦笑ともに見つめた。
だがクロエは動じない。
いや、動じる暇さえない。
「やらせてくれッ、頼むこの通りだ!!」
「はッ、はい!!」
クロエの勢い。
それに押され、受付嬢は慌てて頷く。
そして。
「で、では。まずはお名前を。そ、それからこの書類にご記入をお願いします」
そんな声をあげ、受付嬢はカウンターの奥から紙とペンを持ち戻ってくる。
その受付嬢の姿。
それにクロエは覚悟を決め、カウンターへと歩み寄る。
そしてーー
「俺の名前はクロエ。今は一人で冒険をしています」
そう自己紹介をし、ペコリと頭を下げたクロエ。
それにつられ、受付嬢もまた自己紹介をしてしまう。
「わ、わたしはその。アイシャって言います。ここで長らく受付をさせていただいております」
そんな二人の姿。
それを周囲の人々は、「ほ、本気で受けるつもりなのか」という思いで見つめていた。
だが、そのクロエの姿をギルドの入り口から見つめる四人の姿。
それがあったのをクロエはまだ知らない。
そしてその四人は、まさしく。
「ちっ。クロエの奴。調子に乗りやがって」
「役立たずの癖に。イライラするぜ、全く」
「わたしたちが先にダイヤモンドラビットを捕獲して。クロエの手柄を横取りしちゃおっか」
「あははは。それ、楽しそう」
つい先刻。
クロエを追放したパーティーの面々その者だった。
~~~
とは言っても。
町外れの草原。
そこに佇み、クロエは自信なさげに周囲を見渡す。
エンカウント操作(レベル999)。
よし。
ここでひとつ使ってみようか。
クロエは決心しーー
だが、そこに。
「おい、クロエ」
「こんなところでなにやってんだ?」
「クロエ。ぷっ、あんたがダイヤモンドラビットを捕獲できるわけないじゃん」
そんな声と共に、嘲笑をたたえたパーティーメンバーたちが現れる。
後ろを仰ぎ見。
しかし、クロエは怖気付くことはない。
「な、なんだよ。もう、俺とは関係ないだろ」
そう声を発し、スキルを発動するクロエ。
エンカウント操作(レベル999)、発動。
対象ーー自分。
被対象魔物ーーダイヤモンドラビット。
遭遇率ーー∞。
だが、その瞬間。
「ははは。いいぜ、クロエ。俺たちがてめぇの手柄を横取りしてやるよ」
「こっちは四人であなたは一人。勝負は既に見えたようなモノだね」
「今のうちに負け犬の遠吠えでも吐いとけよ。クロエちゃん」
「あんたはずっと役立たずの無能なんだからさ」
そんな声を響かせ、パーティーメンバーたちはクロエを置いて駆け出していく。
その四人の背。
それを見据え、クロエは再びスキルを発動した。
自身の唇。
それを噛み締め。
対象ーーアラン、ゴウメイ、リンメイ、マリア。
被対象魔物ーー最強種、炎龍〈サラマンダー〉
遭遇率ーー∞
そんなエンカウント操作(レベル999)を、施したのであった。