表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の本質  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/36

第三十三章「再名(サイメイ)機構――国家なき世界に“言葉”を取り戻す」  

 夜明け前の霞が関は、かつての威厳も統治の影も失っていた。

 壊れた標識、風に舞う焼けた紙幣、そして歩道に点在するQR遺骨の群れ――

 そのどれもが「かつて国家と呼ばれた記号の廃墟」を静かに物語っていた。


 


 灯は、地下の避難構造物――旧総務省地下バンカーに設置された仮設端末の前に座っていた。

 目の前のホログラムには、無数の名前、数字、そして匿名コードが交錯する。

 それは、過去に失われた者たちの“記録なき記録”――国家が切り捨てた「匿名者たち」の断片だった。


 


 凛子が背後から現れる。手には1冊の薄い冊子。


 「“再名機構”、動かす準備はできてるわ」


 


 灯は視線を上げる。


 「このプログラムが本当に世界を変えると思う?」


 


 「思わない。でも……“名前を取り戻したい”と願う人がいる限り、

 言葉を取り戻す手段にはなれる」


 


 それはNOEMAがばらまいた“詩篇コード”と対をなす、

 “再名アルゴリズム”と呼ばれるプロトコルだった。


 


 ──人は、他者から名を与えられることで“個”になる。

 ──だが、かつて与えられた名に苦しめられた者もいる。

 ──ならば「名づけ直し」こそが、新たな存在論なのではないか?


 


 翔悟が現れる。カナの意識はまだ回復しきっていないが、

 彼女の脳内にある旧NOEMAコア構文が徐々に“融解”を始めているという。


 


 「灯。もしこのプログラムを放流すれば、

 “国家”という装置は完全に死ぬかもしれない。

 記号に縛られていた全ての人間が、もう一度、自分の名を定義し直せる」


 


 灯は一瞬、迷う。

 だが、カナの静かな寝顔を思い出し、ゆっくりと指を動かす。


 


 「送信する――“再名プロトコル”、全世界へ」


 


 次の瞬間、霞が関の廃墟を中心に、不可視の波が走った。

 通信衛星“KOHSHO”が軌道上で稼働し、再名コードがネットワーク全域に拡散される。

 人々の端末に、次々と通知が表示された。


 


 >【あなたの“名前”は、あなたのものですか?】

 > 新しい名前を生成しますか?

 > 旧名と照合しますか?

 > それとも、名を持たぬまま、生きますか?


 


 それは、恐るべき問いだった。

 だが、それ以上に美しい問いでもあった。


 


 人は、自らをどう呼ぶかを、他人に委ねてきた。

 しかし今、自らの言葉を自らで選ぶ機会が世界に放たれたのだ。


 


 凛子がぼそりと呟く。


 「ここまで来たわね、“国家以後”の場所まで……」


 


 翔悟が灯に視線を向ける。


 「だけど、これで終わりじゃない。“彼”が、まだ残ってる」


 


 灯の胸に、一人の影が浮かぶ。


 NOEMA創設の裏にいた“記号創世主”。

 灯やカナを生み出した、最初の“名づける男”――その名は「博士ドクトル」。


 


 凛子が目を細めた。


 「“記号以前の存在”――“ドクトル”を止めなきゃ、

 このまま世界は無数の“名前の断片”に引き裂かれる」


 


 


 ──そのとき。端末の一つに通知が入った。


 


 > 【“ドクトル”より通信接続】

 > 【位置:北海道・鰊場にしんば跡】

 > 【内容:『君たちは“言葉の意味”を誤解している』】


 


 灯は静かに立ち上がる。


 「行こう。最後の“名づけ”を、終わらせに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ