【第14章 第三十四話「光」】
″ズザアァァッッーツ!″
霧丸が着地した刹那、
無数の仮面兵士たちが動き出す。
″ドドドドド……!、ゴゴゴゴゴ……!″
大地が揺れるような足音と地鳴りの嵐。
──が、その波の中を、
ただ一人、霧丸は走り抜ける。
″ザシュッ!ズバァーッ!″
″ギャッ!ザザーッ!ドシュッ!″
止まらない、振り向かない
目の前の敵だけを薙ぎ払い続ける。
″バッ……ギャギャギャギャァッッ!!!″
叫びも、剣戟も、風の音に消えていく。
「邪魔だあぁっ!」
凛の元への道を切り開くかのように……
斬る、斬る、斬る、、、、斬り続けた。
やがて、岩山のオベリスクが近づき、
霧丸は地を蹴って跳び上がった。
そこには静かに立つ男が一人。
そして、
鎖に繋がれた凛の姿。
着物は泥に汚れ、
手首からは血が出ている。
霧丸を見つめる目に、笑顔はない。
霧丸は、一瞬、凛に視線を向けたが
何も言わず男を睨んだ。
「ほぅ、あの大群を超えてきたか……
どうやら、ドウキもやられたようだな」
男は、続ける。
「…………ガライの血を引く者か、
「親と子で…………我らに楯突くとは…… な」
霧丸は、構え直し、刃先を男に向けた。
「凛は、返してもらうぞ」
「…………」
男は、一瞬驚いた様子だったが、
すぐに高笑いした。
「はっはっは…… おかしな事を!
この娘はお前たちの国に
差し出されたのだぞ!」
「何っ!?」
「お前たちの国は、
我らの侵攻を止める為に、
いや、己が安寧と引き換えに“生贄”として、この娘を差し出したのだ。」
男はニヤリとして続ける
「ふっ……我らが望んだわけでもないのにな」
その言葉を聞き、
ぐったりしていた凛が、驚いて叫んだ。
「嘘よっ! 私が来れば攻めてこないって
約束じゃ!」
「はっ、貴様の様な小娘にそんな価値があると思うか? 自惚れるな」
「我らは、お主らの家老・石川の一族の首を
望んだのだ。ま、その後全員皆殺しにはするつもりだったがな」
男は、蔑んだ目をしていた。
「信綱が…… どうして…… 」
「はっ…… おめでたい小娘だな。それが姫というやつなのか。」
男の目つきが変わった。
「お前らの国は、我らマダラを持つ者を蔑み、皆殺しにしてきたのだ。その筆頭が石川の一族よ。
だが、石川のせいだけだとは言わせんぞ!
それを見過ごしてきた、お前ら全てを根絶やす為に、何十年も隠れてきたのだからな!」
「そんな……それじゃ……
わたしは…………
なんのために…」
凛は、愕然とし、顔面蒼白になる。
「アッハッハ 哀れな。守る為に来たのに…
守るものから裏切られていたとはな。
しかも、まったくの無駄だったとは。
ハッハッハッハ」
男の高笑いは続いた。
凛は、ガックリと項垂れ、
顔は青ざめ放心状態だった。
──心が砕けかけていた。
その時──
霧丸が俯いたまま、低く呟く。
「何が…………おかしい……」
「ん!? 何か言ったか?」
霧丸は、声を荒らげた。
「何が、おかしいっ!」
男は憐れみの目で凛を見た。
「これが笑わずにいられるかっ!
余興としては上出来だったぞ、この娘」
霧丸の顔から身体全体に広がったマダラが灼熱──いや業火の赤に変わっていく。
「…… 許さなねえぇぇぇっっっ!!!」
爆発するような叫びと共に、
霧丸が斬りかかる。
″ガキンッ!″
″ガチィンッ!″ ″グガキーンッ!″
次々と叩き込まれる剣撃──
まるで抑えの利かない嵐のようだった。
「ぐっ、なんだ……この力!
半端者のくせに……」
″ガキーン!″
「こいつは…… なぁ!」
″ガチーンッ!″
「凛は……なぁ!」
″キンッ!″ ″ガキンッ!″
「…… 決めたんだよぉっ!」
「覚悟をぉおっ!」
男は、霧丸の刀に押されていた。
「グッ……それがっ、なんだと言うのだっ!」
霧丸の刀は止まらない。
″ガキンッ!″
″ガチィンッ!″ ″グガキーンッ!″
「振り絞ったんだよぉっ!」
「たった…… たった……一人でっ!」
「…… 涙を堪えてえっ!」
「振り絞ったんだよぉっ!勇気をぉー!」
凛は、涙を溢しながら顔を上げた。
「き……りまる……」
霧丸の猛攻は、より激しさを増していった。
″ガキンッ!″ ″ キィィィン!!″
″ ガチィィン!!″
「そんな…… 命がけの……覚悟を!」
「笑っていいやつ……なんて!」
「一人もいねぇんだよぉぉぉおっ!」
″グズガァァァシュッッ!!!″
霧丸の刀が、男の体を肩から脇腹に向かって
深く重く走っていた。
「グハッ……ッ、ゴフ……ッ!!」
男は、よろめき後ずさる。
そして、血まみれの腕を無理矢理あげ、霧丸を指差した。
「貴様ぁっ!
……我ら……同様、踏みにじられ、
虐げられてきた恨みは……
恨みはないのかぁっ!」
霧丸は、刀を構え直した。
″ガチャッ″…… ″ギリッ″……
そして、落ちついた口調で続けた。
「ふっ……くだらねぇ」
「この浮世にはなぁ…………
もっと…………
いいもんがあるんだよっっ!!」
″ズッシャアアアアーッッ!!!″
霧丸は、渾身の力を込め、
男に止めを刺した。
霧丸は、刀を下ろし、ゆっくりと空を仰ぐ。
何を見ているのか、何を思っているのか、
自分でもわからない。
感覚がない…………
そんな事どうでもよかった。
でも……感じる
ただ、そこに在るという事、
それだけで…………
いいのかもしれない…………
「…………オヤジ、オフクロ
……ありがとな」
──その目には、かすかな光があった。
涙なのか……
希望なのか……
──どうでもよかった。




