【第13章 第二十八話「砦を突破せよ。その1」】
砦の扉が、鈍く軋みながら開いた。
湿った空気が、ゆっくりと流れ出てくる。
一歩中に入った、その瞬間だった。
「ヒャアーッ…… !」
「ハァーッ…… !」
どこに潜んでいたのか──
敵の集団が、一斉に飛び出してきた。
「待ち伏せかよっ……!?」
一瞬、躊躇いながらも、
権左は叫ぶ。
「上等じゃねぇか!
いっちょ暴れてやろうぜっ!」
「おうっ!!」
侍たちは、即座に散らばり、
大勢の敵と、激しく刀を交える。
″キンッ!″
″カキンッ!″″ガキッ!″
あちこちから聞こえる刀のぶつかる音が、
室内に響き渡る。
砦の中は、一気に戦場へと変わっていった。
──その最中、霧丸は一人、
敵をかわしながら、部屋の奥、上階への階段を目指す。
突然、
ひときわ異様な風貌の大男が、
立ち塞がった。
灰のような白髪を結び、
無言で大太刀を肩に担いでいる。
剣を振らずとも圧がある。空気が重くなるような、そんな存在だった。
肌には、禍々しいマダラ模様が浮かび上がっていた。
ジリッ……
霧丸は警戒を滲ませながら、
間合いを詰めようとした。
そのとき──
「霧丸っ! ちょっと下がれや!」
不意に背後から声が飛ぶ。
霧丸は、構えを崩さない。
敵に向けた視線の横から背後の気配を
探った。
権左だった。
霧丸の肩を押しのけ、前に立ち
刀を構える。
″ジャキッ!″
握り返す刀の音が響き、
権左は呟いた。
「……あんな娘みてぇな子が、命張ってんだ!
じっとしてられるかい!」
霧丸は目を見開いた。
だがすぐに、
かすかに笑い、小さく頷いた。
「上等だ……頼んだ!」
「おうよっ!!」
権左は、敵に向かってにじり寄る。
大男は、大太刀をゆっくりと肩口まで
降り上げ、構える。
刃も厚く、見た目でもわかる重さのはずなのに、構えには揺らぎがない。
そして低く、ひとことだけ呟く。
「一人も二人も同じ事っ……!!」
″ブグォォォッッッーッ!″
言葉と同時に、
重さを感じる風の音ともに、
大太刀が振り下ろされた。
その一撃は、
床板ごと斬り裂くほどの威力だった。
″ガキーン!″
″バキバキッ!″
″バンッ!″
権左は、真正面からその斬撃を受け、
壁に吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
壁に打ちつけられても、
権左は、心折れる事なく、
よろめきながらも、必死に立ち上がる。
息は荒く、痛みに耐えながらも
大男から目だけは逸らさない。
「まだ、まだあぁぁぁっ……!!」
刀を握り直し、何度も斬りかかる。
だが大男は黙ったまま、全てを受け止める。
「ぬるいっ……ぬるいぞおぉーっ!!」
″ズガァン!″
″ガチィィン!″
″バキィーン!″
今度は、大太刀の連撃が、止まらない。
「グッ……ハッ……!」
権左は、弾くだけで精一杯だった。
「……オレもいくぞっ!」
霧丸が、堪らず飛び込んだ。
二人は、渾身の力を込め、
何度も刀を振り下ろす。
″ガンッ!!″″ガキンッ!!″
交差する霧丸と権左の刀。
二人の刀が、左右から打ちつけられ、
徐々に大男を追い詰めていく。
「ぐっ……こんな奴らにっ……」
″ガキッッ……!″
「ぐっ……ぐぐっ……くっ……!」
権左が、大太刀をようやく受け止めた。
その時!
「くっ……きっ……霧丸っ、いけぇっ!」
霧丸は素早く、大男の背後に回り込み
渾身の力を込めて、刀を振り下ろす。
「うおぉぉぉっ!!」
斬撃が大男の背を、深く斬り裂いた。
「グッ……ヌ……グハッ!」
大男は、権左に倒れ込むように前のめりに
倒れる。
″ドガァァーン!!″
すんでのところで、
権左は巨体を避けられた。
膝をつき荒く息をする権左の肩に
霧丸が、そっと手を置く。
「……ありがとな」
権左は、肩に置かれた手に目をやり、
照れ臭そうに笑った。
「へっ……礼なんていらねぇ!
……お前、一人でも行く気だっただろ?
それを見捨てるようじゃ、男じゃねぇ!」
その言葉に、霧丸も微かに笑った。
周りを見渡すと、
仲間たちも、皆無事のようだった。
霧丸は仲間達に向かって叫んだ。
「よし!……次もいくぞっ!」
「おう! 任せとけ!」
「おうっ!!」
崩れ落ちる床を背に、
二人を先頭に侍達は、上の階層へと向かった。
怯える者は一人もいない。
……背中がそう語っていた。




