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凛として、気高く ―孤高の凱歌―  作者: 久我沢 了
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【第7章 第十七話「一歩」】




この陣の、陣代・柴川 恒正は思っていた。




「いくら姫様とはいえ…………

戦場で、おなごと共になるとは……」




柴川恒正は、久我沢家に代々仕える譜代の家柄に生まれた忠義一徹の武人。



若い頃は剛腕の槍術使いとしても知られ、

幾度かの国境戦では前線に立って武名を上げている。


同時に、部下の命を最優先に考える慎重さでも評判が高く、無益な戦いを避ける調整役としても信頼されていた。



恒正は、姫様が到着する知らせを受けると、

本陣幕内を飛び出した。



部下達と共に片膝をつき、その到着をじっと待つ。



やがて一行が到着し、姫が駕籠から降り立つと、

一同は静かに頭を下げた。



凛は、すっと姿勢を正し、

兵たちの顔を一人ひとり見つめたあと、

恒正のもとへと歩み寄った。



「恒正、此度は面倒かけます」



恒正は、頭を下げたまま答える。



「とんでもございません。姫様、お懐かしゅうございます。大きくなられて……よくぞお越しくださいました」



凛は軽く微笑んだ。



「皆の者、面をあげよ」



「色々と面倒かけると思うが、よろしく頼みます」



凛は頭を下げた。



「姫様っ!我らごときに、おやめください!」



恒正が慌てて、凛に頼み込む



「ともかく、姫様を幕内にご案内せよ」



「はっ」



部下の一人が、凛を先導していく



凛の横には恒正がつき、その後ろには霧丸がつく。



幕内の席に案内された凛が、出された茶に口をつけた。



「時に姫様、なぜゆえ、戦場に?」



茶碗が置かれるのを待っていたかのように、

恒正が尋ねた。



「国を守る者として、城でただ待ちたくなかったのです」



「それは、視察という事にございますか?」



「視察ではありません。

陣にいる皆の一人として参りました」



凛は、きっぱりと答えた。



恒正は、凛の真意を図りかねていた。



しばらく考えて口を開く



「姫様、いや、あえて凛様に、

幼き頃より知っている者として無礼を承知で申し上げたい事がございます。よろしいでしょうか。」



「かまわぬ、申してみよ」



恒正は姿勢を正した。



「先程、凛様は皆の者の一人としてと仰いました。」



「はい」



「では、何故、駕籠に乗って参ったのです。

この場にそのような者は一人もおりません。

それで、皆の者の一人と申されましても……


誠に御無礼ながら、我らとしては、

単なる、戦さ遊びに来たと思われても

致し方ないとは、思いませぬか」



── 確かに幕内まで案内されている時の兵士達の目はどこか訝しげに見えていた。



凛は、恒正の目を見据えたまま、じっと聞いていた。



「仰る通りです。二言もございません」



「…………」


── あっさり認めて、凛様はどうしたいのだ?



凛が続ける。



「恒正、言い訳はしません。


ですが、先程申した事は本心に変わりありません。」



「…………あなたもよくご存知の、母の名にかけて」



凛の真剣で真っ直ぐな眼差しに、恒正は驚いた。


── まるで、紗代様のようだ。



恒正は微笑み、



「大変失礼致しました。姫様の真意、

恒正しかと承りました」



咄嗟に椅子から降りるや否や、

膝をつき、両拳を地面につけ深々と頭を下げる。



凛は微笑み、



「わかってくださればいいのです。

さ、頭をあげてください。」



恒正が顔を上げると凛は先程とは打って変わり、

少女のような笑みに変わった。



「久しぶりに会ったんですから、

懐かしい話でもしましょ」



恒正も笑顔になり、



「かしこまりました。姫様に話したい武勇伝は一杯ありますぞ!」



「一人で30人倒した話なら、何度も聞いてますからねっ!」



「あっ……そうでしたかっ!」



「プッ、ふふふ」



慌てる恒正の態度に、凛が思わず吹き出す。



「ハハッ、アッハッハ……」



それに連られて、恒正も笑い出した。



ひとしきり笑い終わると、恒正が言った。



「姫様、どうぞこちらへ」



外へ連れ出す



「…………?」



恒正は、大きな声で、兵士達に向かって叫ぶ。



「皆の者よいか! 

姫様は我らの力になる為に来てくださったのだ!

金輪際、姫様を物見遊山に来たなどと言う者がいたら、この恒正がたたっ斬る! よいな!」



皆、唖然として、声も出せない。


恒正は、さらに大きな声で叫ぶ



「よいなぁーっ!」



「はっ、はいっ!」



兵士達は、恒正の勢いに押され全員が返事をした。



凛は、涙を必死に堪えて、微笑んだ。



── かあさま。また助けていただきました。

 

 凛は……まだまだです。







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