【第1章 第一話「忌わしき紋様」】
はじめまして。
本作には、異世界もチートも登場しません。
和風の架空世界を舞台に、
孤独から孤高へ抗う者たちの姿を描きたくなりました。
心を試されるような選択の連続の中で──
それでも、誰かを想い、歩み続ける二人の物語です。
静かな始まりではありますが、物語は少しずつ動いていきます。
ほんの少しでも、心に残るものがあれば幸いです。
拙い点もあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
いや
きっと──
この手から始まったんだ…………
── 第一幕 ──
おれは、
村はずれの山の麓にある
小さな粗末な家で暮らしていた。
妻を亡くした爺さんが
山奥の小さな祠で、弱々しく泣いていたおれを
拾ってくれたらしい。
決して裕福な暮らしではなかった。
でも、それ以外の暮らしを知らなかったし、
貧乏と言われても……よくわからなかった。
おれは、爺さんの畑仕事や薪割り、
山での山菜とりの手伝いをして暮らしていた。
他人から見たら、貧しいことを除けば
普通の暮らしに見えたのかもしれない。
ただ……
おれには人と違うところがあった。
感情が昂ると、
身体のあちこちに浮かび上がる不気味なマダラ模様。
それが原因で、村の子どもたちからは
「気持ち悪い」
「化け物」
──と疎まれていた。
だから……
おれは、爺さんの手伝いが終わったら
一人で山を駆け回り、虫を追い、木の枝で作った刀を振り回し、川で魚を獲ったりして過ごしていた。
獲った魚は、そのまま晩飯になることもあった。
誰にも何も言われずに過ごせる
息を潜めることもない──
それが唯一のおれの居場所だった。
その日も、
夕飯の魚をとるために川辺で仕掛けを確認していた。
そんなときだった──
小さな足音と、水音。
振り向くと、川のほとりに水が入った桶を抱え、
ふらふらと歩く少女の姿があった。
あまり見かけたことはない。
といっても、
いつも村人を避けていたから当たり前だが…………
足取りはおぼつかない。
──足元を見てないのか?
その少女は、河原の石に何度もつまずき、
抱えた桶は今にも水が溢れそうになっていた。
危なっかしくて、放っておけなかった。
あの時のおれは…………
助けようというより…………
思わず、手が伸びただけだった。
でも
その一瞬、伸ばした手が──
おれの人生を…………
救ってくれたのかもしれない。