窓越しの恋ー1分で読める1分小説ー
明美は、ある男性に恋をしていた。
ただ男の名前も住所もわからない。明美がいつも乗る電車は、ちょうど電車が二台並んで走る箇所がある。
明美とは別の電車に、彼は乗っていた。時間も場所も毎日同じだ。彼を窓越しに眺めるうちに、明美は好きになってしまった。
でも二台の電車が並走する時間は、約二十秒ほどだった。
彼と連絡がしたい。そこで明美は、自身の連絡先をQRコードにしてそれを拡大コピーし、電車の窓にくっつけた。その二十秒間だけ。
三日目で、彼はその意図を察した。スマホでコードを読み取ると、「いつも電車で会いますね」と彼は明美に連絡してきた。
彼の名前は健太。明美と同じ大学生で、趣味は競馬。明美も競馬が好きだった。毎日オンライン通話をし、二人はついに直接会うことになった。
競馬場で、予想屋の男が目尻をゆるめた。
「明美ちゃんの恋は成就するって、俺の予想見事にあたっただろ」
「ほんとだね。ありがと、おじさん」
明美が満面の笑みで礼を言う。男はここで競馬の予想をしていて、明美と仲が良かった。
健太があらわれた。明美はパッと顔を輝かせたが、健太が近づくにつれ、徐々にその顔が曇り出した。
なぜならば、健太は上半身が人間で下半身が馬の、ケンタウロスだった。電車の窓越しでは下半身が見えなかった。
呆然とする明美を見て、予想屋の男がつぶやいた。
「これは予想できねえよ……」