6.お茶会デビュー
「レイや、大丈夫か?もう痛むところは無いか?かわいそうにこんな幼子を」
と言う陛下はちょっと王としては優しすぎる。
「だいじょうぶです。もうなおりました!」
「そうかい?王家の薬はいくらでも出してあげるからいつでも言いなさい」
「はーい」
この王様、自分の息子と私の人生を憂いて隣国と和平を結びたいのである。
自分も苦しかったから。息子も苦しむだろうと。
しかも今代は女子だった。
優しい陛下は余計に心を痛めているらしい。
こんな優しい王を父に持ったライもまた。優しい。
刺客の件でライは自分も応戦できるようにと剣術をより一層頑張っている。
私はより王子らしく振舞う練習をしている。
そうして私とライは切磋琢磨しながら、隣国に狙われ毒を盛られそうになったり、襲われそうになったりし(有能な護衛たちと侍女たちが阻止した)ながら10歳になった。
10歳になった私たちはまだまだそっくりである。
ライはそろそろ王族としてのデビューが控えている。
私はデビューしない。
けど公の場には立つ。ローライドとして。
王家主催のお茶会。すなわち、王子の側近、婚約者を見つけようの会である。
「レイも一緒に出れたらいいのにねー」
「無理だねー」
「ごめんね。私のせいでデビューどころか公の場にも出られない」
「ライの身代わりをするのが私の使命。気にしないでいい」
「まだ側近も婚約者もいらないよ」
「そうだねまだ10歳だしね」
側近はまだしも、婚約者はまだまだできないだろう。うちとの兼ね合いがある。
ぶちぶち言いながらお茶会へと向かうライを送り出す。
ライが王子としてそこにいるのは挨拶の時だけである。
後の飲食が始まるときには私に変わる手はずになっている。
今までは公の場に出たことも無かったから、ちょっと楽しみだ。
「レイ、交代」
とライが帰ってきた。
「どうだった?」
「まあ普通?王子だし皆猫被ってるよね」
「だよねー」
と交代して会場へ向かうと。
「わたくしが殿下の婚約者になるのですわ」
「いいえ。わたしよ!!」
とさすが女の子もう戦いは始まっていた。
まあ、君たちが選ばれることは万に一つもないよ。と思いながら着席すると。
さっきの戦いは何だったのかと思えるほど淑やかな令嬢が出来上がっていた。
うん。ライが見てなくてよかったね。
「殿下。殿下はどんな女性がお好みですの?」
「そうだな。人を見下したり蹴落としたりしない可愛い人かな」
と見てたよと釘を刺しておく。
「私はまだまだ婚約者は決めないから、皆も自分を磨けばいいと思うよ。努力は裏切らないんだから」
と女性陣には言っておく。
そして男たちはと言うと。
「さすが殿下。うるさい女どもを一発で黙らせましたね」
「さすが殿下」
と太鼓持ちが続く。
「私は女性を見下す人間は嫌いだよ」
「見下してなど」
「いないと言うのかい?うるさい女どもと言うのはいかがかな」
「それは言葉の綾で」
「そうかい。では私は不快だったから黙ってくれる?」
と微笑む。
そうやってライに不要な人間は排除しておく。
これもまたガオナー伯爵家の仕事だ。