49.早く戻っておいで
シオン視点
「レイ様が・・・レイ様がルナールの者に刺されました」
その報告に俺は意識が飛びそうになった。
急いで部屋を飛び出そうとしたとき、殿下に止められた。
それはそうだ。俺は殿下の護衛なのだから。
その日俺は本当はレイの護衛をしたかった。
だが俺は殿下の護衛だ。
いくら部屋で籠っているからといって敵国の人間が来るのだ。殿下を守らねばなるまい。
だが、フレッツも他の護衛達も何をしていた!!!
殿下の私室に運ばれたレイの元へローブを頭から被った殿下と向かう。
部屋へ入ると、顔を青白くしたレイがベッドへ横たわっていた。
急いで駆け寄り手を握る。
「レイ!」
いたずらっぽく笑う笑顔も、あの輝くような瞳が開くことも、愛らしい唇が言葉を紡いでくれることもない。
それでもレイの手を握り続けるしか俺にはできない。
やがて医者が
「どうやら刃物に毒が塗られていたようです。しかも即効性のある劇薬。普通の人間であればもう生きてはいないでしょう。レイ様が小さい時から毒で慣らしていたからこそ今まだ生きているのです。あとはレイ様の生命力にかけるしかありません。
この毒の解毒薬はこの国には無いのですが、一応うちの国の解毒薬でも効くかはわかりませんが飲ませましょう」
「俺がやる」
気付いたらそう答えていた。
レイとの初めての口づけがこんなものになるとは思ってみなかった。
レイ、早くその綺麗な瞳を開けて早く俺を映してくれ。
そしてその愛らしい唇で俺を呼んでくれないか?
早くいつもの笑顔を見せて欲しい。
「レイ。死ぬな。この間婚約したばかりじゃないか」
やっと女の子らしい生活になれるんだよ?
もう死と隣り合わせの生活なんてしなくていい。
早く俺の元へ戻ってきてくれ。
俺は涙が零れた。
「シオン、しばらくレイの傍にいてあげてよ」
と殿下が言った。
俺は殿下の護衛だ。だけどレイから離れられない。
いつ死んでしまうかわからない。
もし目を覚ました時は一番に俺を見て欲しい。
俺は毎日、レイに話しかけ続けた。
毎日毎日話しかける。戻っておいで。
まだ何も一緒にできてないじゃないか。
俺は口数が少ないとよく言われるが、これからは思ったことは口にするようにしよう。
会話をたくさんしよう。
当たり前のようにあると思っていた未来が、当たり前ではないという事実に初めて気が付いた。
普通のご令嬢とは違うのだった。
当たり前のように殿下の影武者として育てられ、それに何の違和感も反発も無く受け入れていたレイは殿下の為には何の躊躇も無くその身を差し出してしまう。
レイの頬を撫でながら話しかける。
これも日課になった。
「はやく戻っておいで、レイ。いつまで寝ているんだ?少し寝すぎではないか?」
今日も反応無しか。
この部屋に花でも飾ろうかと殿下に許可を経て毎日花を飾ることにしていた。
まだ花すら贈ったことが無かったことにも気付く。
婚約者になったばかりで本当に何も一緒にできていないんだな。
部屋を出て花を採りに行こうと席を立った時だった。
「・・・・オン・・・」
「レイ?!」
「・・シオン・・・」
「レイ!!!!」
レイが目覚めた。良かった・・・!!!
レイが俺の方を向いてその目を開けた。
ああ。その瞳が見たかったんだ。
「シオン・・・ないて・・・るの?」
俺が泣いてる?
頬に手をやると確かに濡れていた。俺は泣いていたのか。
「ただいま」
とレイは微笑んだ。
それはレイが刺されて、1週間後の事だった。