2.伯爵家の献身
場所は王家の産室。
大きな産声と共に誕生した第一王子。
『ローライド』と名付けられた。
時をそう置かずして、こちらも王家の産室にて。
大きな産声と共に誕生したガオナー伯爵家、第一子。
長女となるその子は『ローレライ』と名付けられた。
「リカルドのところは女子だったか」
と呟く王は寂しそうにも辛そうにも見えた。
「ええ。けれど例外なく」
と伯爵は麗しく微笑んだ。
王家の結婚と時を置かずして結婚する伯爵家。
王妃が懐妊すると懐妊する伯爵夫人。
王の最も近くにおり、王の乳兄弟である伯爵の王家への忠誠・献身をより認識させる出来事の一つである。
結婚は同時でもできることだが、懐妊は神のみぞ知るところであるのにほぼ同時に子を宿すことができるのは互いの伴侶が多産家系であることが大きい。
王家と伯爵家が相談の上、婚約者を決めている。伴侶も金髪、碧眼に近い色を持った令嬢から選ぶことが多い。
子供もその色以外で生まれることが無いからだ。
そんな今代の2人の伴侶はデーフローダー侯爵家の長女次女。
王妃となるデーフローダー侯爵家長女ローズ。伯爵夫人となる次女リリー。ローズとリリーは一卵性の双子であった。
王家と伯爵家にとってこれ以上なく好条件な令嬢だった。
しかもデーフローダー侯爵は宰相を務めており、王の最側近である。
そうして都合のよかった2人は、内情を理解し納得の上むしろ喜んで嫁いだ。
仲の良かったローズとリリーは将来嫁ぐことで離れ離れになるのを嫌がっていたからである。
それが、運命共同体である2人の伴侶となりまた共犯となれるのだから。
妹リリーもまた、王妃となるローズが危険に晒されたときは私が身代わりになると決めている。
これを知ってローズは実は悲しんでいる。
そして王もまた苦しんでいる。
婚約者を探す時ちょっぴりロマンチストなリード王(王子)は、自分の理想としてリードとリカルドを瞬時に見分けることができる人。
という条件を密かに挙げていた。
そしてローズもまた自分とリリーを瞬時に見分けられる人を理想としていた。
そんなよく似た考えを持つ2人が思い合うのは必然であった。
もちろん双子であるローズとリリーを見分けることできるリードとリカルド。
そしてローズとリリーもまたリードとリードに扮したリカルドを見分けることができた。
ロマンチストなリードに対してさっぱりとしていたリカルド、少し夢見がちな姉に対して現実的なリリー。
そして王(王子)や王妃(王子の婚約者)に対し自分を犠牲にしてでもという考えの似た2人が思い合うのもまた必然であった。
姉と同時期に子供を産んで見せる!
と意気込んだ妹はその言葉の通り同時期に子を産んだのだ。