5話
次の日はなぜだか、空気が痛い気がした。
「なぁ〜蓮、昨日何かあったのか?」
「みのりに聞けよ。俺は知らねーよ」
「みのり?蓮と喧嘩でもしたのか?いつも我儘言ってるんだから、
少しは自重しろよ?」
「私が悪いわけじゃないもん!それに陸ちゃんには関係ないじゃん」
「関係なくはねーだろ?元々は陸のせいで…いや、もう俺いくわ」
「うん…後で教室でな〜」
蓮は陸とみのりをおいて先に行ってしまった。
みのりは気まずそうに俯くと何か言いたそうだった。
「蓮も素直になれないんだよ。きっと…」
「陸ちゃんがそれを言うの?」
「ん?僕が何か言ったっけ?」
「私は…もういいもん。付いてこないで!」
そういうと走って行ってしまった。
「あー。走るのはちょっと無理かな…まぁ、目的地は一緒だし…いっか」
みのりの気持ちは分かっていた。
分かっていただけに、答えることができない。
今の自分ではみのりを不幸にする事しかできないからだ。
ゆっくり流れる時間を噛みしめながら学校へと向かった。
もちろん、走って先に行ったみのりは少しばかり淡い期待をしていた。
もしかしたら追いかけてきてくれるのではないか?
後ろを振り返ったが、誰もきてはいなかった。
蓮だったらすぐに追いかけてきてくれる。それなのに…陸ときたら…
ずっと片想いを続けるのは切ない気持ちにさせるのだった。
学校へと着くと、先に行ったはずの蓮の姿はまだなかった。
みのりもいなさそうだ。
二人はどこへ行ったのだろうか?
二人揃ってということは仲直りでもしたのだろうか?
それなら安心なのだがと考えつつ席についた。
いつものように窓の外を眺めながら時間ギリギリで登校してくる生徒達
を眺めていた。
「陸、ちょっと昼放課屋上で食べようぜ?」
「屋上で?なら購買部でパンでも買ってくるか!」
「それならほらっ。これ好きだったろ?」
「さんきゅ。代金は?」
「いい…それより絶対に来いよ」
「あぁ、分かった」
蓮にしつこいくらいに念を押されると何事かと思ってしまう。
授業が終わって昼放課になるとパンを持って屋上へと向かった。
そこには蓮の姿はなく、みのりが待っていた。
「おう、みのり。どうしたんだ?」
「ちょっと話があるんだけど…」
「大事な話か?」
「うん…すっごく大事な事なのっ!」
「そっか…なら場所を変えるか?もうすぐ蓮が来ると思うから…」
そう言って帰ろうとするとみのりに引き留められた。
「待って…蓮は来ないの。私が頼んだの…」
「そっか…それで話ってなに?」
「それは………あのね……陸ちゃんって好きな子いる?」
「好きな子?いないかな…どうして?みのりには関係ないよね?」
冷たく感じるかもしれないけど、今は誰とも付き合えない。
「多分これからも…誰とも付き合う気はないよ?」
「それじゃ……えっ……あ、うん」
「大事な話ってなに?」
「うん…あのね…これからもずっと友達だよって思って…あははっ」
「うん、蓮もみのりも僕に取っては大事な存在だよ。ずっとこれからも…
死ぬまで大事な親友なんだ」
「そ…そうだよね…」
苦笑いを浮かべながらみのりは手に持っていたパンに齧り付いた。
お腹が空いていたのか、一気にがっついていた。
それを陰から見ていた蓮がため息をつきながら入ってくる。
「おい、おい、俺を置いて二人っきりか?」
「あんたが遅いのが悪いんでしょ!」
「遅いってお前な〜」
歪み合うように口喧嘩が始まると陸は少し安心したように笑った。
「仲直りしたんだね?」
「してない!」
「してねーよ!」
「ほらっ…そっくり。仲良い証拠じゃん」
陸に言われると目を合わせてからフイッとそっぽ向いたのだった。