モフモフ騎士団とお手伝いさん 3
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「アラン様!!」
「フィーリア?」
あれだけお世話になっておきながら、ここに来た日以外、アラン様はお忙しくて、お会いできなかった。
今日だって、なんとかアラン様へ洗濯物を届ける役目をもぎ取って押しかけなければ、お会いできなかったに違いない。
……いつ休んでいらっしゃるのかしら。
本当に、聖女の資格剥奪と、婚約破棄されたあの場所にアラン様がいてくださったことは、幸運だったに違いないわ。
偶然アラン様がいてくださらなかったら、私は、今頃、どうなっているかわからないもの。
「……会いに来てくれたのか?」
にっこりと笑う、白銀の髪とアメジストの瞳をキラキラ輝かせて微笑む騎士様。
とたんに、私の顔に熱が集まって、どうすることもできなくなってしまう。
「っ、破壊力!!」
「……え?」
「あ、いいえ。……会いに来てしまいました」
「……うれしいよ」
一瞬だけ怪訝な顔を見せたあと、アラン様はもう一度微笑む。
気を遣わせてしまったわ……。
ここに来てから、私の言動は、自由すぎると自分でも思う。
聖女をしていたときに、心の奥底にすべてを押し込んでいた反動なのかもしれない。
けれど、今日はどうしても、アラン様に聞かなければいけないことがある。
それはもちろん、聖女付きの騎士をしてくださっていた、ノルン・ウィンド卿のことだ。
「……あの、実は、聖女の時に護衛騎士をしてくださっていたウィンド卿のことを教えていただきたいのです」
「ノルン・ウィンド卿か……」
「ご存じなのですか?」
「もちろん。彼のことを知らない人間など、騎士団にはいないだろう。……実は、ウィンド卿は、フィーリアが聖女の資格を剥奪され、婚約破棄された直後から、行方不明らしい」
抱えていた、洗い上がったアラン様の騎士服を思わずバサリと落としてしまう。
「……え?」
ウィンド卿が、行方不明?
心臓が、嫌な音を立てる。
考えてしまうのは、恐ろしいことばかり。
「フィーリア」
「ウィンド卿まで、巻き込んで、しまったのでしょうか」
震える私の肩に、そっと温かくて大きな手が乗せられる。
それだけなのに、ものすごく安心して、泣きそうになってしまう。
「……っ、ウィンド卿に、もしものことがあったら、私」
沈黙のあと、先に口を開いたのは、アラン様だった。
「……もしかして、フィーリアは、ウィンド卿のことが、好きなのだろうか」
「……そうですね。兄のような存在です」
いつでも、なぜか無条件に私のことを守ってくれたウィンド卿。
私にとって、家族のような、兄のような存在だ。
「そうか……。まあ、あれだけの剣の使い手だ。無事に違いないだろう。情報が入り次第、教えよう」
「ありがとうございます!!」
床に落ちてしまった騎士服を拾い上げる。
「ごめんなさい。もう一度洗います」
「いや、どうせ訓練で汚れる」
アラン様は首を振って私の手から洗濯物を受けとる。
「仕事が終わったら、きちんと休むように」
その言葉を、そっくりそのままお返ししたい、と思いながらも、何も言えないまま部屋を退室した私。
そして、結局のところ、ウィンド卿についての情報は、得られないまま、数日が過ぎ、私にとっては想定外の、再会は果たされるのだった。
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