モフモフ騎士団とお手伝いさん 1
***
「フィーリア様! そのようなこと、私たちが……!」
騎士団の皆さまへのご挨拶を無事に終え、私は第三騎士団のお手伝いとして働き始めていた。
「そのようなことも何も、私は火魔法は使えませんから、皆さまの食事のためには、これくらいしか……」
私が、抱えている薪は、食事の用意のためのものだ。
神殿も、王宮も火魔法を使う専任の食事番がいて、いつでも火が使える。
けれど、ほかの場所では、薪を使って料理を作っている。
聖女は、清貧をよしとされていたため、基本的に自分の食事は自分で作っていた。
――――まあ、それだけではないのだけれど。自分で自分の食事を作るのが、一番安全だもの。
王宮はもちろん、清く正しい印象の神殿すら、派閥でわかれていて、自分の不利になる存在には容赦がない場所だった。
「ほら、侍女長を困らせてしまっていますよ? フィーリア様」
急に薪の重さが軽くなる。
元聖女で、しかも第二王子の婚約者だった私は、命を狙われているらしい。
そんな理由で、いつでも私のそばには第三騎士団の騎士様の誰かが控えている。
私が持っていた薪を、片手でヒョイッと持ち上げたのは、赤茶色の犬……。いいえ、実はアラン様とは違う種類の狼だったらしい、ジン様だった。
「あ、私のお仕事なので、お気遣いなく……! 私、意外と力持ちなのですよ?」
「フィーリア様は、伯爵家のご令嬢ですよね……」
「そうです。でも、聖女でしたから、身の回りのことはすべて自分でできますし、野営の経験も何度もありますから」
「……聖女のイメージが崩れていきます」
私は首をかしげる。
たしかに、一般的には聖女は、聖獣様に愛された存在で、国王陛下の隣に立つことが許される高貴な存在ですもの。
何もできないか弱い存在というイメージがあるのかもしれないわね。
でも、実際には、早朝から祈りを捧げ、自分のことは自分でして、さらには戦いが起これば騎士団に同行する、たくましい存在なのです。
「……現王妃様をはじめ、この王国に聖女は何人かいますが、あなたのような方には、初めてお会いします」
「そうですか?」
たしかに、この国には聖女が私以外にもいる。
現王妃様も聖女。ただ、私と同世代の聖女はいなかったので、私が第二王子カルロス・イーグル殿下の婚約者に決まっただけ……。
今は、義妹のミラベルがいるから、私は晴れて自由の身。幸せです。
でも、聖典に書かれた聖女の生き方通りに生きていけば、どうしてもたくましくなってしまうと思うのだけれど?
「ああ、でもジン様にも薪を持っていただけるのなら、もう一束持ってきます!」
「えっ……」
私は、ジン様に背を向けると、薪が積んである小屋に逆戻りする。
何往復かしなくてはいけないと思っていたけれど、予定よりも早く終わりそうだわ?
侍女長まで、薪を持ち上げようとしているけれど、重すぎて持ち上がらないみたい。
「無理をしないでくださいね?」
「なぜ、フィーリア様は、こんな重いものを持てるのですか?」
「元聖女だからでしょうか……」
ジン様と侍女長さんは、まだ何か言いたそうだったけれど……。
「これも俺が持ちますよ」
「……ありがとうございます。三束あれば大丈夫なので、一回で済んで助かります!」
「……結局持つのですか」
「はい!」
今日の朝食は、私も作るのに参加できそうだわ!!
私は、薪を抱えたままご機嫌で厨房へと向かったのだった。
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