追放先は、モフモフ騎士団でした 6
「話は終わりだ。そろそろ、全員集合しているだろう」
「え……? 全員とはいったい?」
私が首をかしげると、アラン様が微笑んだ。
アラン様は、笑っていないときには、あまりにかっこよすぎるせいで冷たい印象を受けてしまうけれど、笑うと急に幼く見えてしまう。
私は、高鳴ってしまった胸に、もう一度首をかしげながら手を当てる。
「さあ、おいで」
差し出された手を、ためらいがちに掴む。
そっと手を引かれて、長い廊下を逆戻りしていく。
廊下の真ん中あたりにある、赤い絨毯が引かれた階段。
その階段を、ゆっくりと降りていく。まるで舞踏会でエスコートを受けているみたいに。
「……え?」
緩くらせんを描いた階段を降りると、たくさんの人の気配を感じる。
それは、薄く開いた扉の隙間からの気配だ。
……敵意はないみたい。でも、全部、恐ろしいほど強者の気配だわ?
第一騎士団にも、ものすごく強い騎士様はいた。
いつも、聖女として同行する私のことを守ってくれて、お世話になった。
でも、第一騎士団の騎士様達は、ここまで強い人はそういなかったのに……。
第三騎士団が王国の精鋭揃いというのは、本当のことだったのね……。
私は、納得と共に妙に感動して、その複数の気配を見つめる。
「おい、そろそろ覗くのはやめておけ。聖女様は、気付いておられるぞ」
「え……。アラン様。私、本当に聖女では」
けれど、アラン様が声を掛けた直後、勢いよく扉が開かれて、たくさんのモフモフが雪崩を起こしたように倒れ込んだ。
「まあ……。なんて素敵なの!」
思わず、そうつぶやいてしまったのだって、仕方がないと思う。
目の前にいたのは、黒くてしなやかな豹、淡い茶色の夏毛のうさぎ、三角の耳と太い尻尾を持った犬だった。
「…………おい、その姿のままだなんて、聖女様に失礼だと思わないか?」
アラン様の声が冷たい理由がよく分からないけれど、それよりも何よりも、私は感動していた。
「えっ、ご褒美……! ……ではなくて、私はうれしいです!」
思わずしゃがみ込んで、モフモフを堪能する。
素晴らしい。黒豹さんはツルツルと滑りそうなくらいなめらかだし、薄茶色の毛をしたうさぎさんはフンワリしているし、赤茶色の犬は……。長い毛の下にモフモフの短い毛が隠されている。
「素晴らしいわ……」
感動しすぎて、瞳を潤ませている私は、しばらくして我に返ると、ようやく周囲の困惑を察知した。
「あ……」
しまったわ。モフモフが好きすぎるからといって、こんな風に興奮したら、アラン様と皆さまに変な女だと思われてしまう。
「えと、あの。皆さん素晴らしくモフモフですね?」
……働いて!! 私の語彙力!!
焦ってしまえばしまうほど、おかしな事を言ってしまう。
「……だから言っただろう? フィーリア嬢は、俺たちを簡単に受け入れると」
後から、ノソノソと虎の姿で出てきたバード様が、瞬時に体格のいい美丈夫へと姿を変える。
その直後、次々と動物たちが騎士様へと姿を変えていく。
黒豹さんは、少し怪しげな雰囲気を感じる黒い瞳と、長い黒髪を後ろに結んだ騎士様に。
薄茶の色をしたうさぎさんは、騎士服と共通のデザインだと分かるローブを身につけている。薄茶色のくせ毛と緑の大きな瞳がかわいらしい印象の魔術師様に。
そして、赤茶色の犬さんは、同じ色をした髪の毛と瞳の、やんちゃな印象の騎士様になった。
「…………え」
第三騎士団の騎士様、全員が王都の中心の劇団に所属している花形なのかな? というくらいまぶしい美貌だ。
あまりのかっこよさに衝撃を受けて、私と手をつないでいる人に助けを求める視線を送ると、その人はさらに上を行くかもしれない美形だった。
……目のやり場がないというのは、こういうことを言うのね?
大丈夫。美形は三日で見慣れるというものね……。
私は、誰にも気がつかれないように、深呼吸を一つすると顔を真っ直ぐに騎士様達へと向ける。
「よろしくお願い致します。フィーリアと申します」
私は、動揺を隠して、聖女として鍛え上げた微笑みの仮面をかぶると、優雅に礼をしたのだった。
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