追放先は、モフモフ騎士団でした 3
風のように走る、白銀の毛並みの生き物。
その上に掴まった私の、長くて淡い茶色の髪が風に乱れる。
ふわふわの毛並みに顔をうずめると同時に閉じた瞳は、大きくてまつげは長いけれど、少し垂れていて平凡な茶色をしている。
聖女の飾り気のない白いドレスが、バサバサと風にあおられる。
やわらかい毛並み。それと同時に、神殿の空気にも似た清浄な雰囲気を感じるわ。
子どもの頃から、私は不思議とその人がどんな人なのか、雰囲気で知ることができた。
清浄な雰囲気……。温かくて気持ちいい極上の肌触り、そしていい香り。
「騎士様は、第三騎士団の騎士団長様ですよね……」
お会いしたことはないけれど、特徴と服装から考えて、間違いないだろう。
「ああ。第三騎士団騎士団長、アランだ。今後は、アランと呼んでもらえるか?」
「……ありがとうございます。はじめまして、アラン様、私のことはどうかフィーリアと呼んでください」
「――――はじめまして。……フィーリア」
あれ……? 魔法を使っていないのに、魔力が流れ出てしまうような感覚だわ?
どうしても、抑えることができなかったあくびがひとつ。
そういえば、今日は日が昇るよりずっと前から、祭事の準備をして祈りを捧げていたのだわ。
それに、いろいろなことが、一度に起こったもの。疲れたのかしら?
普段自分では感じることができない、私自身を取り囲む空気みたいなものが、私を背中に乗せている大きな生き物の空気と混ざり合っていくみたいな不思議な感覚。
それは、まるでふわふわの綿毛に包まれる夢の中のようで……。
……温かくて、幸せ。
「……ん? まさか、眠ったのか? ……まあ、ここまで来れば追っ手も来ないだろう」
トンッ、と大きな生き物が、冷たくすら見えるほど冴え渡った美貌を持つ騎士の姿に変わり、私を抱き上げて歩き出したのを夢の中にいる私は知らない。
それは、私の人生で一番の不覚に違いない。
抱き上げられたまま、乗せられた馬車は、ものすごく豪華で。
その馬車をもし見ていたなら、アラン様のご身分だって、もしかしたら予想できたのかもしれないけれど……。
言い訳をしていいのなら、私が眠ってしまったのは、何も寝不足ばかりが原因ではない。
「……はじめまして、か。……それに、思ったよりも豪胆だな」
苦笑交じりのアラン様は、あきれた様子ではなく、むしろ楽しそうだ。
重厚な造り。まるで要塞のような第三騎士団の詰め所に着いた馬車は、正門をくぐり抜けると、そのまま静かに止まる。
馬車を降りたアラン様は、そのまま、どこか楽しそうに、人一人を抱きかかえているなんて思えないスピードで歩き出す。
たぶん、アラン様の普段の表情を知っている周囲の人たちが見たなら、唖然としてしまうくらい優しい笑顔。
早朝からの忙しさ、そして聖女の資格剥奪に、婚約破棄。
『ずっと、会いたかった』
夢の中で、私にそう言ったのは、白銀の毛並みに、尻尾まで入れれば私の背丈より大きい狼。
めまぐるしかった私の日々は、まだまだ終わりを迎えない。
私の心を浮き立たせる、素敵な出会いと生活は、これから始まるのだから。
この後は、騎士団の皆さまにお会いできるはず!
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