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追放先は、モフモフ騎士団でした 2


 大きな手に、すっぽりと私の平均より小さな手が包み込まれたまま、なぜか割れていく人垣を通り抜けていく。


「あ、あの……」

「今は、何も聞かずに着いてきてくれないか? 悪いようにはしない」


 見上げた私に、アメジストの瞳を細めて騎士様が微笑んだ。

 その瞬間、冷たく見えた顔が、急に優しく見えてしまう。


 ……いいのかしら。モフモフがいっぱいの場所に追放なんて、ご褒美でしかないわ。

 しかも、騎士様から感じるのは、どこまでも清浄な気配。

 間違いなく、この人は、いい人に違いない……。


 婚約者だった、第二王子カルロス様とは、全く違う……。


「――――フィーリア・アトリーと申します。本日は、助けてくださってありがとうございました」

「当たり前だ……。少し先に馬車を待たせてある。行こう」


 手を引きながら、騎士様が振り返って私のことをまっすぐ見つめる。

 アメジストの瞳が、あまりにきれいだから、思わず私の心臓が飛び跳ねる。


「聖女をないがしろにすることはできない」

「え? 私は、もう聖女ではありません。ただのフィーリアです」


 おそらく、アトリー伯爵家からは籍を外されるに違いない。

 聖女ではない私に、家族はもう興味を示さないだろう。


「……あの、おそらくもう実家に帰ることはできません。助けていただいた上に、図々しいとは思いますが、よかったら騎士団のお手伝いとして雇っていただけないでしょうか?」

「は……?」

「あのっ! 聖女として清貧を心がけていましたので、贅沢しませんし! 掃除、洗濯、家事全般できます! 治癒魔法は、得意な方なので、おけがをしたときにも役に立ちます!」


 騎士様に握られたままの手を思わず握り返して、必死に訴える。

 騎士団預かりになったからには、迷惑を掛けるだけではなく、何かお役に立ちたいわ!


「……なにもしなくても、構わないと思っているのだが」

「えっ、そんな! むしろ、お手伝いがしたいのです!」

「……その話は、あとだ。……少し待っていてくれるか?」

「……っ」


 気がつけば、どす黒い気配が私たちを取り囲んでいる。

 

 ……そうよね。王妃教育をほとんど終えてしまった私を、追放だけで終わらせるはずないわよね。

 それに、聖女と神殿の上層部しか知らない事実もたくさんあるもの。


「標的は、私ですよね? 大丈夫、慣れていますので」

「――――慣れている?」


 騎士様にご迷惑を掛けるわけにはいかないと、前に出ようとした私を、太い腕が通せんぼした。


「危険なことはしないように。だが、王家の紋章が入った騎士たちに、危害を加えるわけにも行かない……か」

「え? ……きゃ!」

「しっかり掴まっていてくれ」


 抱え上げられたと思った次の瞬間、私はふわふわした、毛足の長い生き物の上に乗っていた。

 チラリと見えた尻尾まで入れれば、私の身長よりもずっと大きいその生き物。

 風のようなスピードで走り出したその生き物にすがりつく。


 ……ふわふわ。


 おそらく第二王子からの刺客より、目の前の騎士様がモフモフの生き物に変わってしまったことよりも、そのスピードよりも、ただその触感があまりにも極上すぎて。


 私は、思わずその毛並みにしがみついたまま、顔をうずめていた。



ご覧いただきありがとうございます。


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