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偽物聖女だと追放されましたが、モフモフばかりの獣人騎士団に雇われて幸せです  作者: 氷雨そら


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10/14

元聖女は騎士の決闘にはさまれる 1



 ***


 ――――私のために争わないで!!


 けれど、決闘の火蓋は、切って落とされてしまった。

 私のために! というのは、言い過ぎかもしれない。

 けれど、私のせいで! というのなら間違ってはいない。


 私の目の前で、お互いが抜いてしまった剣。


 青い髪と金色の瞳をした騎士様が、白銀の髪にアメジストの瞳をした騎士団長様に投げつけてしまったのは、決闘の申し込みを意味する、白い手袋なのだから。


 ***


 ……時は少し遡る。


 その日、私は予定外にも、アラン様に洗い上がった騎士服を届ける権利を手に入れていた。


「えっと、ほかにもお仕事が」

「団長様が、元気がないご様子なの。洗濯物を口実に、ご様子を見てきてくれないかしら?」


 なるほど。たしかに、付き合いが長い人たちが、様子を見に行ったら、アラン様は、気遣われていると、気にしてしまうかもしれない。

 その点、新参者で、出会って日が浅い私なら、偵察にうってつけという訳ね。


「かしこまりました。それとなく、ご様子を見て参りますね?」

「ええ。フィーリア様の顔を見れば、元気になると思いますから」


 侍女長は、そう言うと優雅に微笑んだ。


「……え?」

「とにかく、お願いしますね?」

「あ、はい」


 第三騎士団の、侍女長をしているローラさんは、まるで高位貴族の侍女のような気品を持つ。


 すでに、私は、年の離れたお姉さんのようでもあるローラさんのファンになりつつある。

 アトリー伯爵家から、まだ絶縁の連絡は来ないけれど、いつか侍女になるのも素敵だと、叶わない夢を見てしまうくらい憧れている


 そんな、ローラさんからの頼まれごと。

 私は、意気揚々と団長室へと向かった。

 その直後に起こる出来事を、知りもしないで。


「あっ、アラン様!」


 詰め所の建物に向かうため、近道をしようと、庭園の中を通り抜ける。

 騎士団の詰め所にしては、庭園があって、侍女がいて、料理も美味しい、ここはまるで小さな王宮のようだ。

 

 ……騎士様は、貴族出身の方が多いからなのかしら?


 そんなことをのんきに考えながら、庭園を抜けると、そこにはアラン様が立っていた。


「アラン様!」


 名前を呼んでしまった直後、私は、硬直する。

 アラン様は、剣に手をかけようとしていた。


「……アラン様?」


 剣の訓練でも、しているのかな? なんて思いながら、近づいていくと、満開の薔薇に隠されて、見えなかったお相手が姿を現す。

 その色彩は、珍しい青。そして、いつも穏やかな彼には珍しく、敵意をあらわにした瞳は金色だ。


「……へ? ウィンド卿?!」


 なぜか、アラン様の訓練のお相手は、あんなに探しても、何一つ情報が手に入らなかった、元護衛騎士、ウィンド卿だった。


 そして、動揺する私を、ますます動揺させてしまう事実。


 ウィンド卿は、いつも身につけている白い手袋を外し、素手で剣を握っている。

 そして、なぜが、アラン様の足下には、白い手袋が投げつけられたように落ちていたのだった。


 



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