追放先は、モフモフ騎士団でした 1
「こんなみすぼらしい女が、この国の聖女のはずがない! 偽物め! 聖女を語った罪で、国外に追放する!」
中央神殿での、王国の平和を祈る式典の真っ最中、私の婚約者でもあるこの国の第二王子、カルロス・イーグル様が、大きな声で叫んだ。
その背中に隠れるように、こちらを見つめているのは、私の義妹だ。
……みすぼらしいことと、聖女であることには、全く関係がないわ?
「あの……。つまり、聖女の役目は、これで終わりということでしょうか?」
「ああ、婚約も破棄する! 真の聖女であるミラベルをいじめたらしいな?」
「いじめ……?」
チラリと目線を向ければ、私とは半分しか血が繋がらない妹が、口元を軽くゆがめて笑った。
淡い茶色の髪と瞳をした平凡な顔立ちの私に比べ、金の髪と青い瞳の義妹は、今日も美しいドレスを身にまとい、精巧に作られた人形のように美しい。
けれど、幼い頃に聖女として選ばれた私は、王妃教育に加え、神殿での聖女としての役目を果たすため、家にほとんど帰ることができなかった。
いじめる暇なんて、あるはずないのです……。
「知らないとは言わせない! ミラベルのドレスを盗んだり、パーティーでワインを掛けたり、階段から突き落としたらしいな」
「……え、あの」
私がお母様からいただいたドレスを、聖女には必要ないと勝手に持って行ってしまったり、珍しく参加したパーティーで勢いよくぶつかってくるから、二人でワインを浴びてしまったり、階段は……落ちていたところに通りかかったから、治癒魔法を掛けたことならありますが……。
「フィーリア・アトリー! 婚約を破棄する! 俺は、真の聖女であるミラベルと婚約を結ぶ」
王位継承者は、聖女と婚約をするのがこの国の決まりだ。
確かに、妹のミラベルも、聖女を多く生み出したアトリー伯爵家の血を継いで、治癒魔法の力が強い。つまり、私は……。
「……自由、自由ということですか?」
小さく拳を握ってしまった私をよそに、会場はざわめいたままだ。
……たとえ、王族だとしても、神聖な祭事の最中、聖獣様が見守る神殿で、皆さんの前で宣言したことを覆すことは、もうできないわ!
幼い頃から、私のことを大切にしてくれていた、国王陛下夫妻には申し訳ないけれど、これで聖女としてお肉も食べられない日々からさよならできる!
その時、下を向いて喜びのあまり震えていた私に、大きな手が差し伸べられた。
顔を上げると、目の前には、がっしりとして一目で鍛えられていると分かる肩幅。切れ長であまりにきれいなアメジストのような瞳、高い鼻に、形のよい唇、キラキラ輝く白銀の髪をした、見たこともないほど素敵な男性がいた。
「……あ、あの?」
「お手を……。聖女様」
「え?」
たった今、聖女ではないと宣言されたばかりなのに……。
「ああ、呪われたお前なら、偽物聖女にちょうどいいだろう。野獣ばかりの貴様の部隊に連れ帰るというなら、国外追放だけは許してやってもいい」
「……野獣、部隊。……まさか」
でも、たしかに目の前の騎士様は、第三騎士団の騎士団長様の特徴と酷似している。
聖獣様を紋章にした、第三騎士団は、この国を守る精鋭だ。
そして、噂によれば、第三部隊所属の騎士隊はみな、獣に姿を変える獣人であるという……。
そんなことを考えている間に、私の手は引き上げられ、気がつけばエスコートされるように立ち上がっていた。
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