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学校編「よく学び、よく鍛えよ」7

お読みいただき、ありがとうございます。


 召喚術の授業は2年前から王立学園に取り入れられた。つまり、新しい授業だ。


 2年前。

 アンゼルア王国に、コンドロア王国から魔導士がやってきた。数十年も前にアンゼルア王国から亡命した魔導士の子孫だ。


 魔導士の不遇時代、隣国に逃げ出した魔導士たちを呼び戻そうと、アンゼルア王国は様々な政策を打ち出している。それで戻ってきた魔導士は多い。

 召喚術の教師はそんな魔導士の一人スニア・キュリス。スニアは召喚術の第一人者だった。


 王立学園はスニアを教師として勧誘し、彼女は研究者、兼教師として働き始めた。

 召喚術の授業が取り入れられると、魔導オタクで優秀な生徒たちが受講を希望し、授業は始まった。

 難解だが興味深い授業だったと言う。

 ただ、1年の終わり頃から繰り返し行われた「召喚術の実践」では、誰も成功したものがいなかった。


 生徒たちは気落ちした。

 それはそうだろう。1年間、そのために必死に授業を受けたのだ。召喚術の授業を選択できたのは、魔導の成績が良く魔力量の高い者のみだった。

 それなのに、成功率ゼロだ。


 スニア教師は「これはいくら何でも変だ」と、原因を調べるために次の年度は授業を止めてコンドロア王国に帰国し、ようやく突き止めたと言う。

 「国神の加護が強すぎる環境での魔法陣にすべきだった」という。生徒たちの能力とは関係のない身も蓋も無い理由で失敗していたらしい。


 召喚術の魔法陣を改良に改良を重ねて作り直し、前年度に召喚術を選択した生徒たちを呼んで万全の体制で再度、召喚術の特別授業が行われた。

 幸い、魔導オタクばかりの生徒たちは、皆、卒業後は研究所に勤めていたり、騎士団の魔道士隊に入っていて、わざわざ休みに来るのも厭わず参加してくれたという。

 それで、成功率3割りまで上った。

 精霊たちが召喚され、場は大いに盛り上がったようだ。


 今年度から、お休みだった召喚術の授業が再開された。

 2年前は高等部のみだったが、中等部でも「召喚術」が受けられるようになった。

 成功率を上げるためには2年くらいかけて古代語の詠唱を練習した方が良いと言うことで、「召喚術初級」と「召喚術中級」と二段構えでの授業になった。


 「召喚術初級」でも召喚術の実践はやるが、あまり成功は期待しないで、次の「召喚術中級」で成功させる心積もりでいるように、などと説明にあった。

 当然、「召喚術中級」は「召喚術初級」を受けた者しか選択できない。


 このゴタゴタは、皆、知っている。そのため、召喚術の授業は人気がないらしい。優秀な生徒でも成功率3割だからだ。まだ魔法陣に問題があるのでは? と疑われている。かくいう、ルシアンも少し疑っていた。


 召喚術は「選択授業」だった。

 王立学園は、中等部でも「選択授業」と言うのがある。これには理由があった。


 国の方針で、中等部では、魔力のある生徒は「魔導科に入るのが望ましい」となっている。

 だが、本当は、他の科を選びたかった生徒もたくさん居る。

 王立学園の中等部は「一般教養学科」「騎士科」「魔導科」「治癒術科」と4つある。


 それで、幾つかの授業は、他の科の生徒も受けることができる。


 「選択授業」と決められているのは、ごく一部の人気の授業のみだ――「召喚術」だけは不人気授業だが。

 一般教養学科の「経営学」「経済学」。

 治癒術科の「薬草学」。

 騎士科の「体術初級」「戦術学初級」。

 魔導科の「召喚術初級」。


 と言っても、本来の科の生徒が優先なので、人気の授業は希望しても受けられなかったりする。

 そんなわけで、魔導科の生徒は、選択授業を申し込むときに「希望順位」を付けておく。1番と振っておけば、大抵、受け入れてもらえる。希望する生徒が多いときは枠を広げてでも受けさせてもらえると言う。


 ルシアンは将来、領主になるのだから、一般教養学科の「経営学」を希望順位1にする予定だ。

 あとは、「経済学」と騎士科の「体術」と「戦術学」、それに治癒術科の「薬草学」を選んだ。全部で5つだ。はっきり言って選び過ぎている。


 選択授業は、あまり多くは選ばない方がいい。

 欲張っても授業に付いていけなくなるだけだ。「4つくらいが望ましい」と案内にもあった。

 それに、選択授業はどれも1日の最後に授業がある。つまり、選ばなければ、早く帰れる。


 「召喚術初級」は、大変だからやめようかと思っていた。

 ユーシスに誘われて興味はあったが、「選べないよなぁ」と思っていた。


 明くる朝。

 早速、ユーシスに、

「召喚術の授業、受ける?」

 と訊かれた。それも、わくわくした顔で。

 ルシアンは早まったか、と迂闊な自分を悔やんだ。

「……申し込むって決めてる選択授業があぶれたら……」

「むぅ……。じゃぁ、同じじゃないか……」

 ユーシスの機嫌が急降下する。

「同じでもない。

 『経済学』は人気みたいだけど、希望順位1にはしないから、たぶん受けられない」

「そうか。じゃぁ、大丈夫だな。『経営学』と『経済学』は希望順位1にしないとまず無理だものな」

 ユーシスがニンマリと笑う。

「でも、ユーシスだって、他に取るべき授業があるだろ?」

「そうでもない。帝王学で経済とかは習うから、あと、経営学も。もしあぶれても全然、かまわない。だから、希望順位はつけない」

「それで、まさか召喚術に付けるとか?」


「うん、そう」

「そこまでかぁ……」


 ――でも、あの精霊……かもしれない麦藁色の髪の子、気になるんだよな。


 あの子は、制服を着ていなかった。学園内で制服を着ていない子供なんて、いるはずがなかった。

 ――召喚術の授業で呼べるだろうか。一度、顔を見て声を聞けたんだから、呼べば来てくれるんじゃないかな。


 選択授業を選んで申し込むのは、3週間後と決まっていた。

 入学から3週間は、生徒が学園に慣れるための準備期間であり、また、教師たちが生徒の能力を把握するための準備期間でもあると言う。

 選択授業では、授業の概要を説明する「お試し授業」を受けることになっていた。

 

◇◇◇


 3日後。

 今日のユーシスとルシアンは荷物持ちだった。

 手ぶらのオディーヌが先に立って歩いている。

 護衛の騎士にも持たせていたが、玄関ホールとラウンジに置いたあとはユーシスとルシアンがふたりで手分けして持った。


 運んでいるのは魔草の鉢植えだ。

 情報収集のための「諜報員」として働いてもらう。

 ルシアンが「魔草なら話が聞けるし、ただの魔草なら置いても不自然じゃないと思う」とユーシスたちに提案したところ、オディーヌが食いついた。


「じゃぁ、私の婚約者対策に使えるじゃない!」と。


 今は、側近候補たちはそばに居なかった。

 側近選びのためなのだから、居ないほうがいい。

 いとこ同士、幼なじみ同士でやりたいことがあるから、と他の者は避けられた。

「あとはここだけよ」


 オディーヌがにっこり示したところは図書室だった。


「やっと最後……」

 ルシアンははぁっと息を吐いた。なぜか気疲れした。オディーヌが妙に張り切ってたからかもしれない。

 ユーシスも心なしかくったりしている。

 食堂とラウンジ、玄関ホール。談話室、音楽室、美術教室、技術加工室、訓練室。それに、実験室は3つあった。

 候補の諸教室を見て回り、やっと最後だ。


 回ったところ、すべてに置いたわけではない。置けない場合もあることは予めわかっていた。

 訓練室や技術加工室はやめておいた。

 実験室もだ。

 音楽室と美術室は置けそうだったので置いた。


 おおよそ、置けると考えていた場所には置けた。全部で7個。

 2つは余分に持ってきていたが、予想通りに余った。中庭のどこかに植える予定だ。


 図書室に入っていくと、司書の教師がにこやかに振り返った。

 王宮から学園側に、予め知らせてあったのだ。

『気持ちを落ち着けて集中力を増す香気を発する魔草を寄附する』と。

 後ろめたいが、ウソはない。本当に良い魔草が選ばれた。

 ルシアンが育てたものだとマズいので、王室管理室の予算で購入された。

 それくらい陛下のポケットマネーでも良かったが、学園に寄附するのにより不自然さのないようにしたらしい。


 図書室の窓辺に鉢を置いて、ルシアンが説明係をする。

「魔草なので、水はほとんどあげる必要はないです。魔力を少しあげてください。

 たくさんじゃなくても大丈夫です。たくさんあげると、良く葉を茂らせるとは思いますが」

「そうですか。魔力は、土魔法でなくても良いのですか」

 司書の教師が熱心に尋ねた。

「はい、なんでも良いです。ふつうに魔力循環をする要領で注いであげるだけで喜びます。

 土魔法の方が早く大きくなると思いますが、魔法で生成した水でも良いです」

「そうしましょう」


 一仕事を終えると、寮内にある王家の控え室に行って一休みした。


「ルシアン、定期的に情報をチェックしてちょうだいね」

 オディーヌに早速、命じられる。

「うん。やる。

 楽しみだな」

 ルシアンはつい、にんまりとした。


「情報収集が?」

 ユーシスが訝しげにルシアンを見た。

「魔草と話すのが。

 王室管理室がかなり良い魔草を用意してくれたから」

「へぇ。わかるんだ、どういう風に良いんだ?」

 ユーシスが感心し多様に尋ねた。

「魔力が高そうだった。あと、光魔法を感じた」

「あぁ、そう言えば。そんな感じだったな」

 ユーシスが思い出したように頷いた。

「あら、そうなの? かなりの希少種じゃない?」

 オディーヌが、従者の用意した茶のカップから思わず唇を離して尋ねた。


「そうだね。それに、穏やかな心善い感じの魔草ばかりだった。

 浄化の効果が強そう。

 情報収集の役に立たなくても良い効果が……」

「なに呑気なこと言ってるのよ、もう。

 私の婚約者選びは差し迫ってるのよ」

 オディーヌに睨まれた。



召喚術の先生、なんとなくお分かりかと思いますが、ちょっとポンコツ気味です。

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[一言] ルシアンが召喚なんてトンデモななにかを呼ぶ未来しか
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