学園編「よく学び、よく鍛えよ」1
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サブタイトル、「よく学び、よく鍛え」にするか、「よく学び、よく鍛えよ」かどうでも良いことで悩んで「鍛え」にしました。「鍛える」でもいいですね。直すかもしれません。
アンゼルア王国、夏。
「父上。私は、1年早く王立学園の中等部に通いたいと思います」
アンゼルア王国第一王子ユーシスは、父であるシリウス王に告げた。
シリウスの執務中に面会を求めたと思えばそれだった。
ユーシスは今年11歳になる。
1年早くと言うことは、今年冬の初めに行われる王立学園の入学試験を受けると言うことだ。
シリウスは胸の内で苦笑し、顔には生真面目な表情を貼り付けた。
「そうか。
王立学園中等部は、一応、12歳からとなっている。理由があれば学園は許可するだろうが……。理由は?」
「私の学力なら入学試験を首席合格できます」
「そうだな」
――まず一つ目の条件はクリアだな。
絶対必要条件だ。
首席とまではいかなくても優秀な成績である必要がある。そうでなければ、わざわざ1年早める意味がない。大した成績ではないのなら学園側は「1年、待って勉強したら如何か」と答えるだろう。
この条件を満たしていれば、1年くらい推奨年齢より早くても大抵の場合入学は許される。やる気のある優秀な人材の教育は早くても良いというのが学園の方針だ。
「私は、人格的にもしっかりしているかと思われます」
「……そうだな」
若干迷いながらもシリウスは頷いた。
それも必要な条件だ。学園での生活に支障がないくらいに人格も成長していなければならない。
だが、仲の良いいとこと同じ学年となるために1年早く学校に通うと言う息子は果たして自立してるか? それが多少気になる。とは言え、そこまで厳しく言うつもりもなかった。
甘い父親かもしれないが、側近候補の家にはすでに「1年早く中等部に通い始めるかもしれない」と伝えてあった。
ユーシスの婚約者の座を狙う家は多少慌てるかもしれないが、ユーシスの婚約を急ぐ気はなかった。それよりも、急いで相手選びを失敗することの方が我が国の場合は大事だ。政略結婚も今のところ必要はない。そもそも、政略のために相応しくない相手を選ぶことも出来ない。
――ノエルにも頼まれていたしな……。
ノエルは言っていた。
『ユーシスにとって、ルシアンは安息場所だわ』
妻に言われるまでもない。
ルシアンとオディーヌは、ユーシスの信頼する仲間だ。
ルシアンたちと同じ学年で通いたい、とユーシスはノエルには以前から話していたらしい。
大らかなルシアンは、完璧主義な面のあるユーシスには癒しだろう。
オディーヌとユーシスは似たところがある。オディーヌも完璧主義者なのだ。互いに同族嫌悪のような様子もあるし、また、互いによく理解し合えている様子もある。
「それから? 1年早く通いたい理由を説明できるのかい?」
「もちろんです。私は家庭教師から学べることは真面目に吸収してきました。ですが、学友たちと切磋琢磨して得られる成長は環境的に無理です。条件を満たせるのでしたら1年でも早く学舎に通いたいのです」
ユーシスは、キリっと音がしそうなくらいに真剣な顔で建前を言ってのけた。
シリウスはぷっと吹き出しかけたが耐えた。
「上手いぞ。学園長の前でもそれでいきなさい」
「え? じゃぁ、父上、良いんですか?」
ユーシスは目を見開いて父を見詰めた。
「王室管理室にも伝えておこう。
学園長との面談では最後まで緊張感を崩さないように。
そう言う詰めは交渉時には大事なことだ」
「もっちろんです!」
ユーシスは浮かれた様子で父の執務室を躍り出ていった。
「……緊張感を崩さないようにと言ったそばから……」
――ルシアンの出生の秘密を、ユーシスはノエルから聞いたはずだが。
その割に、何も気にした様子もなく嬉しそうにしているのだからな。
彼らはそれでいいのかもしれない。
王太子と一緒にいれば、ルシアンは他の貴族から注目されるだろう。
ルシアンは、ヴィオネ家の遠縁の子息をサリエルが養子にしたと思われている。
本当は実子だ。
ルシアンが調べようと思えば事実はわかる。記録は改竄されていないのだから。
だが、今の所、ルシアンは調べる気は無いらしい。母親のことを知りたい様子もないと言う。
部外者は、法務部に記録された貴族の出自を調べることはできない。ルシアンの秘密は隠されたままだ。
ただ、シリウスは、どこからかルシアンの母親のことが知られるだろうと考えていた。
ところが、どこにも、噂でさえも語られることはなかった。
シリウスが思う以上に、ゼラフィが母親であることは隠蔽されている。
――せっかく、ゼラフィは、もう罪人ではないのにな。
バセル侯爵家はゼラフィの恩赦を認めた。亡くなったシモーヌ嬢には婚約者や親しい友人はいなかったと報告も得ている。騒ぐ者はせいぜい無責任でお節介な連中くらいだろう。ルシアンは、その頃存在さえしていなかった子供なのだ。
ルシアンが注目されれば、その謎めいた出自が噂になりそうだ。
サリエルは、気にしているかもしれない。
――だが、私は、ルシアンを甥として接するのを止める気は無いがな。
ノエルは考えすぎるくらい考えているようだが、愚物のくだらない陰口ごときを恐れて、ルシアンを日陰者にする必要はない。
◇◇
その年の冬。
ユーシスは無事に学園長との面談をやりとげ入学資格を手に入れた。
 




