ゼラフィの記録。ある罪びとの物語4
ブクマや評価を、ありがとうございます。
読んでいただいて、とても嬉しいです。
また明日も8時か9時には投稿いたします。
当日は晴れだった。
いつも天気予報で晴れる可能性の高い日を選んで調整するので、過去もずっと晴れだ。
気温も丁度良い。
『女性チームが男性用施設に入っていくと、男性陣が湧き上がったわ。それはもう大騒ぎって感じ。
かなり卑猥な言葉とか、「かわいー」とか「興奮するぅ」とか馬鹿な声をかけられたわ。
「やらせろぉ」とか「服脱げ」も多かったかしら。
ゼラフィさん、怒るかな、って思って様子を見てみたら、案の定、コメカミぴくぴくだったわ。
なにしろゼラフィさんって、子供産んだくせにウブっつうか、そう言うのまるきり苦手な人だから。男どもの猥褻な視線やら嘲りにめっちゃキレてたって言うか、キテたって言うか、憤怒してたって言うか。
でも「敵に侮られるから、冷静によっ!」ってみんなに声かけててね。
だから「おぉゼラフィさん、偉いじゃん、珍しい」って思ってたら、最初の挨拶で拡声器渡された途端、
「貴様ら、クセェんだよ、人間の臭いじゃねーよ、息が吸えねぇだろっ。風呂ぐらい入って来な!」って。
大音量で怒鳴ったのよ、一瞬で運動場中が静寂だったわ。
胸がスッとしたけどね。毎年、毎年、女だと思って言いたい放題言われてたんだから。
次の男性チームキャプテンの挨拶がちょい可哀想だったけど、あんの腹たつ男ども代表だと思うと、ざまぁしかないわね。
「……来年は、風呂入っときます」って、しおらしく言ったのは感心したわ。まぁ、間近で見たらゼラフィさんが想像を遥かに超えた美女だったんで動揺した結果だろうって私たちは推測したんだけどね。
それから、ゲームが始まったのよ。
私たちが男性の施設に来たのは午後だったわ。
午前中は、男性側で、優勝チームを決めるゲームをやってたのね。
で、すぐにウォーミングアップを軽くして、打ち合わせの最終確認をやったらゲームよ。
普通は、コートを変えて二回戦するものなんでしょ?
でも、ここでのゲームはそんなのはしないのよ。
一発勝負ってこと。普通とは違うんだから仕方ないわね。
コートをコイン投げで決めて、スタンバイよ。
女子のメンバー以外のみんなは応援するの。
応援の声が小さいとゼラフィさんに怒鳴られるんだけど、もう、私たち、応援する気満々だもの。
ゲームが始まってすぐに、男性チームはいつもと違うとわかったみたい。
だって、練習頑張ったもの。
例年なら瞬殺なのに、全然、違うの。
それでもやっぱり、男性は強いけどね。でも、女子も粘ったわ。
ずいぶん男性の歩兵を減らしたのよ。去年の何倍も減らしてやったの!
女子の「幹部」が攻撃され始めたけど、幹部もかなり強いメンバー選んでるし、ハンデの分人数が多いから、ここでも敵の幹部や歩兵を削ってやったわ。
敵のゴリラみたいな幹部を沈めた時は、もう大騒ぎよ、大興奮して「ざまぁ」って怒鳴ってやったわ。
でも、味方チームの王様の側近がやられて、もうダメかと思ったわ。
ねぇ、そう思うでしょ、ところが、だって、うちの王様はゼラフィさんだから。
ゼラフィさんにボールを取られると、必ず敵の幹部がやられたわ。
「あたしとタメ張ろうなんて、百億年早いんだよっ!」って。
どんどん、敵の幹部や歩兵が減ってくの。
ルールがあるから敵は攻撃し続けなきゃいけないでしょ? でも、ゼラフィさんを攻撃すると、もれなくボールをキャッチされて、ゴツい男がやられるってわけ。
もう、最高に気持ちよく!
あげく、最後の敵の幹部をゼラフィさんが沈めたのよ。歩兵はとっくに全滅してたわ。
とうとう、「王様が動ける条件」が整ったのよ!
初の快挙よ!
王様が、敵の歩兵と幹部を残らず倒したの! そんなの見たことある?
私はないわ。
ゼラフィさん、嬉々として王様エリアから走り出したのよ、ボールを持って! 敵陣に殴り込みよ!
それからは、ゼラフィさんの独壇場よ。
その前から独壇場状態だったんだけどね、敵陣地に突風のように走っていくゼラフィさんの格好良いこと! さすが私たちの王様よ!
私たち大興奮して応援したわ。絶叫して応援よ!
敵はビビってたわ。
そりゃ、ビビるわよね。
敵は、もう側近ふたりと王様しか居ないんだから。
ゼラフィさん、側近を速やかに倒したのよ。
鮮やかに、素晴らしく早かったわ。旋風みたいに! うちの王様!
敵の側近の足とか、隙を狙って。ゴツくて鈍いのを側近に選んだのが敗因ね。
敵の王様エリアは筋肉で埋まるみたいになってたのよ。
それをゼラフィさん「筋肉はもらったっ!」って怒鳴りながら。意味わかんないわ。でも、最高だった!
王様対決になったのよ、広い運動場が応援の声で何も聞こえなくなったわ。
美女と野獣の対決! 互角だったわ、でも、素早さではゼラフィさんの方が勝ってたの。
どちらが投げても豪速球よ、残像しか見えないくらいの球速!
フェイントのかけ方もゼラフィさんの方が少しうまかったわ。
でも、敵もなかなかのものよ、動体視力って言うの? ボールを見る目よ。
殴り合いの拳を見るのが得意な奴だったのよ!
ゼラフィさんの豪速球を掴んだ敵の王がまた豪速球を繰り出す、それをゼラフィさんが仰け反って避けたのよ、避けるとボールを拾いにいかなきゃいけないでしょ。
敵の王は、僅かに油断したわ。
そうしたら、ゼラフィさん、避けると見せかけて体を捻ってボールを掴んだの。
ほんの一瞬の油断が勝敗を決めたわ。
ゼラフィさんが会心の一撃を奴にお見舞いしたのよ。
敵の王の厳つい筋肉で盛り上がった肩に当たったの。
ボールは鳥になったみたいに遠く高く跳ねたわ。
ゼラフィさんが勝ったの!
大勝利!
どよめきが凄かったわ! みんなでゼラフィさんを胴上げしたのよ。
それから、ゼラフィさんの勝利の挨拶で締めくくったの。
「お前ら、結構やるな。あたしをちょっと本気にさせるなんて見込みあるぜ。来年もやろうな」だって!』
ノエルは項垂れたくなったが、シリウスは楽しそうに笑っていた。
その後の7年間、ゼラフィが君臨していた間、男女対抗戦ではタイムオーバーで判定引き分けか、あるいは僅差でどちらかが勝利しながらも良い試合が続いた。
女性チームが訪れる日は、それからは女性を嘲るような声はすっかり影を潜め、男性たちはなぜか風呂上がりで試合に臨むようになった、とか。




