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開拓村の秘密、森の狩人の物語1

読んでいただき、ありがとうございます。

明日も夜8時か9時に投稿いたします。









 ノエルは先の開拓村調査で活躍した斥候の騎士に付与魔法品を贈った。

 変装した衣服の下に着られる防御力を付与したシャツ。薄手だが夏の暑さを和らげる風魔法も付与しておいた。冬用は風魔法ではなくほんのり暖かい火魔法を付与した。

 2枚で1セットだが、洗い替え用にもう1セット作った。

 ナイフで刺されたくらいなら弾けるし、剣も致命傷を防ぐくらいの防御力はある。

 それから小さいけれど攻撃力の高い小型投げナイフ、雷撃付き。

 雷撃を付与した短ブーツ。

 潜伏中の斥候は大っぴらに武器を持てないので体術を使うと聞いたので作った。

 大喜びしてくれたと言う。作った甲斐がある。


 村長家の裏庭で見つかった人骨は8人分あった。

 そのうち2人は行方不明になっている狩人協会の受け付け係だろうという話だ。

 あとの6人はおそらくあの北の森で働いていた狩人ではないかと見られている。


 何度かあの村長に関して王宮まで陳情に来た者たちがいたという。

 だが、村長ドーソンは前の王妃に関わる者だった。

 前王の王妃が我が物顔で人事に口を出していた頃。

 王妃の叔父が能力もないのに近衛の隊長を務めていた。ドーソンはその叔父の友人だ。

 だから不正で一度捕らえられたドーソンが恩赦を受けて村長となった。


 そのようなわけで、王妃が幽閉されるまでは陳情を受け付けられなかった。


 ノエルが唇を噛み締めてそれらの話を聞いていると「すまなかった」とシリウスが沈痛な表情を浮かべる。

「どうしてシリウスが謝るの?」

「誰になんと言っていいか分からないくらい辛いよ」

 シリウスはそう言うが、これは、この出来事を辛いと思えない者たちによって引き起こされたのだろう。


 その後。

 王宮に陳情に来ていた元村民から証言を聞いた。イネスという20代後半の女性だ。

 綺麗な新緑色の瞳に焦茶の艶やかな髪をきっちり結い上げている。中背の体は痩せすぎているように思えた。

 イネスは見るからに思い詰めた顔をしていた。

「レベルは高くありませんが錬金術師です。魔獣向けの攻撃魔導具を作る仕事をしています」

 と彼女は自分のことを話した。

 イネスの家族は行方不明だ。だが開拓村には怖くていけなかった。家族にも決して行くなと言われていた。

 ドーソンが村長になり開拓村にやってきたのは7年前だが、元あった村が消えたのは12年ほど前だという。


 王国というのは厄介だ。

 国王が代替わりすると国が変わってしまう。

 イネスの村もそれで潰れた。ロキ村という名の小さな村だった。

 前の国王が即位し美人の誉高い王妃が選ばれた。子爵家の令嬢だったが侯爵家に養女に出されてから王妃となった。そんな誤魔化しをしても新聞に載れば皆呆れるばかりだ。

 それから国に災厄が訪れた。

 魔獣はどんどん増えていく。

 相応しくないものが国の頂点に立っているんだな、とわかる。こんな僻地の魔獣だらけの森が側にある村だからこそわかる。

 すぐにわかるのだ、村人たちの犠牲者の数で。


 村を捨てて逃げていく村人たちが増えて人口は半減した。

 イネスの家族、マルクもどうしようかとばかり言っている。

 ――どこにも行きたくないくせに。


 イネスは、母を産褥で、父を魔獣にやられて失った。

 その後、父の友人が親代わりになってくれた。

 マルクという屈強な狩人で村長と遠縁なので村では役付だった。その頃の村長はドーソンとは何ら関係はない。

 村が傾いて村としてやっていけなくなっていた。魔獣が増えすぎたのだ。

 それでリヴラス領の領主に「もう村は存続できない」と申し出た。

 ロキ村はほぼ領境にあったが、わずかにリヴラス領よりだったのでこういう時はリヴラス領に相談を入れる。

 リヴラス領主は村民を自領に受け入れた。

 それからの5年間は時折、元の村人が村があったところに行って狩をしていたがほとんど放置だった。

 どんどん魔の森が広がって村を飲み込んでいった。

 ようやく騎士団が来てくれたのはそんな頃だった。

 騎士団長ロマンたちが何ヶ月もかけて竜種などの魔獣を討伐し元村があったところに開拓村が作られることになった。

 それが7年前だ。

 ドーソンがやってきた。

 ドーソンのことはリヴラスの領主は情報を集めて知っていた。

 ろくな男ではないかもしれないと案じていたが、ドーソンはリヴラスの領主には愛想が良かった。


 元村民の狩人が20人ほど開拓村に移った。

 しばらくして、移った狩人たちからリヴラスの領主に相談があった。

 ドーソンは、魔獣の間引きをしている狩人に報酬を与えなかった。狩人協会の支部もいつの間にか無くなっていた。獲物を狩っても卸すところが無い。

 リヴラス領の領主は「あのドーソンは王妃の叔父の知り合いらしい。王宮に陳情を入れても無視されるし、それどころか捕まる怖れがある」と教えた。

 そのため、開拓村にいた狩人たちのうち半分はまたリヴラス領に戻った。


 村人の中には王都に移り住んだ者もいた。

 その時に事件が起こったと言う。

 実際には事件なのかよく分からなかった、とイネスは語った。


「リヴラス領にいた元村民たちは、ドーソンのことで王宮に陳情に行ったら危ないって知っていました。リヴラスの領主様に聞いたからです。

 でも、その話を聞かないで王都に移った村人も少しいたのです。

 その村人が、開拓村のことを陳情してしまったんです」


 それを聞いたマルクが「危ないかもしれない」と心配した。

 イネスはマルクとリヴラス領に移って暮らしていた。

 マルクはしばしば開拓村に行っていた。それでドーソンが危ないやつだと知っていた。ならず者を集めているのも知っていた。

 マルクは開拓村にいる村人を心配した。

「王宮にロキ村のものが陳情に行ったとドーソンに知られたら、元ロキ村の者は報復されるかもしれない」


 それでマルクは急いで開拓村に向かった。

 村にいる狩人たちに危ないと知らせるためだ。


「マルクはそれきり行方不明なんです」

 イネスはシリウス王が即位し前の王妃が隠居したと聞いてから陳情に来ていた。


 ノエルは話を聞いて胸が痛んでならなかった。

 シリウスもだ。

 それで、情報を集めた。開拓村から逃げられた者がいるかもしれない。生き残りを探した。


 ひと月ほどして「マルクが助けに来たので逃げられた」という狩人がようやく見つかった。彼らはドーソンから離れるために他の領地で働いていた。

 話を聞くことができた。


「あの時、元ロキ村の村人は10人くらいはいた」と30代ほどの逞しい狩人は言う。


「開拓村は、魔の森を焼いたり魔獣の間引きをする仕事をしていなかった。歯痒かった。

 だが、いつしかロキ村の狩人たちの多くもどうでも良くなっていった。それでも生きていかなければならないから。

 開拓村には狩人以外の仕事も少しはあった」


 10人の狩人のうち6人はドーソンの下働きをやるようになり、残りの4人は狩人を続けていた。

 魔獣を狩ったら日持ちのする素材だけ取っておき、開拓村に来る商人に売った。リヴラス領に運ぶこともあった。ドーソンたちには近づかないようにしていた。

 そんな時に、マルクがやってきた。

 元ロキ村の村民が王宮に陳情をしてしまったので、ロキ村の村民は報復されるかもしれないと聞いた。

 狩人仲間たちを急いで探して情報を伝え、逃げた。

 その時逃げたのは4人だけだ。狩人を続けていた仲間だ。

 ドーソンの家で働いている者とはもう付き合いがなかった。

 マルクは「彼らにも一応、知らせてくる」と言ってドーソンの家に向かった。

 マルクと別れた4人の狩人たちは他の領に逃げ込んだ。

「マルクはうまく6人に知らせたら森に逃げ込むから大丈夫だと言っていた」


 狩人の腕の良いマルクなら森を突っ切って逃げられるだろう。ドーソンたちは森の奥までは入れない。


 だが、もうあれから1年以上は経つ。


 8人の遺体のうち、2人が狩人協会の受け付け係らしいと衣服の名札からわかった。残りの6人は元ロキ村の村民かもしれない。あるいは違うかもしれない。村民のうち逃げることが出来た者もいるかもしれない。

 ドーソンは他にも誰かを殺害している可能性は高い。


 イネスは、マルクがドーソンたちと争って負けるとは思えないと言う。

 それに、知らせを伝えてうまく逃げるだけならマルクなら容易いはずだった。

 何故なら、狩人仲間には遠くからでも鳥笛を使って合図を送る手段がある。

 それを使って誰かを呼び出し、伝言をしたら逃げるだけだ。

 マルクはきっとうまくやれただろう。


 イネスは「マルクはどうして帰って来ないんでしょう」と言い置いて帰った。


 ノエルはふと思い出した。

 ――わかる……かもしれない。


 最近、ノエルは知り合っていた。植物の声を聞ける感応力者の女性に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読めば読むほど胸くそ悪いですねぇ… ホント、ドーソンと元王妃最低。
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