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17/82

【16】

いつもありがとうございます。今日の2話目です。

また明日、同じ時刻に投稿予定です。






 ノエルは後期の試験が終わると同時に申し込んでおいた飛び級のための卒業試験を受けた。


 どこの学園でもそうだが、年度末の試験は学生たちの救済の期間――補講や追試を行い、学生を留年や浪人から救ってやる期間――を取るために早めに行う。


 国立学園の学園長は、宰相補佐官から「なるべく遅くやってほしい」と要請があったときにこれを跳ね除けた。

 さらに、「1年の卒業試験受験者にゆっくり学園で学ぶよう忠言して欲しい」などとも言われたがこれも断った。


 あげく、宰相の補佐官が密かにやってきて相談を受けた。

 事情は理解したが、学園長は例年より高等部2年と3年で学ぶ内容を増やすだけにとどめた。

 それが公平な教育者としてのギリギリだろう。


 ノエルは天才ではない。努力家だ。

 他の令嬢が、茶会や夜会や街歩きやデートをしている間も地道に勉強していた。

 学内でもその「ガリ勉」な態度は有名だった。

 そんな学生の意志を最優先するのが教育者というものだろう。


 ノエルは、文句の付けようがない点数で受かった。


 あとは、年度末休暇前の授業を受けるだけだ。


 新婚旅行を楽しみにしていた二人だが、ここで何故か問題が起こった。


「ノエルの旅券の発行をなぜ止めてるのかな、ロベール」

 いつもの研究室でシリウスが問い質した。

「いえ、私は何も。

 宰相ではないですか?

 ノエルが消えてしまったら、騎士団が困りますからね。

 それにあの冷えるカップも」

「魔導具でノエルのカップは再現してやっただろう」

「魔導具特有の魔石が付いていないスマートなデザインがきっと受けてるんですよ」

「我儘な。

 だが、そういう理由ではないだろう。

 私たちを逃したくないとでも思っているのか。

 いざとなったら、旅券など要らないのだからな」

「兄をお尋ね者にしたくないので、それはやめてください。

 少しだけ待ってくれればいいんです。

 領主会議が終わるまでだけ」


「暮れまで待てというのか?」

 シリウスが睨んだ。

「いえ、今年度の領主会議はずっと早めましたから。

 ひと月は早く行われます。

 陛下の容体が思わしくないですからね」

「……詳しいな」

「兄上が無関心すぎるんですよ」

「領主たちがさぞ文句を言っただろう。

 まさか、冬季の行事までも早めるわけじゃないんだろう」

「当然です。暮れが早まるわけじゃないですからね。

 ですが、本当に忙しい領主などわずかですよ。

 まだ魔獣が出る気候だからと参加を渋った領地には、騎士団を派遣したんです。

 この度の領主会議は、代理は許さないし、参加しなかったら領主会議のメンバーから外すと、厳しいお達しがありましたから」

「へぇ。

 領主会議のメンバーが減りそうだな」

「いえ。全員、領主本人が参加すると返事が届いているそうです。

 道中、盗賊が出そうなところにも騎士団が向かいましたから問題ないでしょう」

「ずいぶん熱心だな、王宮は」


「兄上も熱心になってください」

「私は無関係だろう」

「渦中の人に決まってます!」

「あの愚王と愚妃が地獄に落ちてジュールの代になったら、少しは手を貸そう。

 だが、サリエルなら、国が潰れて消えるのを遠くから見守っているよ」

「私が継いだら?」

 ロベールは少し興味を引かれて聞いてみた。

「お前はどうせ、逃げるだろう?

 物心ついた頃からそう言っていたじゃないか」

「あぁ。覚えててくれたんですね。

 まぁ、そうです。

 私は魔導にしか興味がないですから」


 ノエルは二人の会話をセオと並んでお茶を味わいながら聞いていた。

 ロベールの母の話も前に聞いて知っている。

 ノエルが服のお礼に土魔法の「滋養」を付与した白磁の植木鉢を贈ったときに教えてくれた。第二妃はバラを育てるのが趣味と知り植木鉢を選んだ。


 ロベールの母は、国王が好きだった。

 第二妃の打診がきたときに、喜んで王宮に上がった。

 ただ、財務大臣の父は難色を示していた。

 国王が王妃に夢中なのを知っていたからだ。

 それに、彼は財務大臣だけあって「魔導士の伝統」を情報として知っていた。


 大臣は、娘にはよく言い聞かせていた。

 第二妃は、5年間、子が生まれなかったことで、自分は妃になるべきではなかったと悟った。

 国王の態度も酷かった。

 ゆえに、ロベールが王になりたくないと言えばそれをあっさりと認めた。


「領主たちにノエルを紹介したいんですよ」

「タヌキどもにノエルを見せるというのか」

「見せ物にするみたいに言わないでください。

 紹介ですよ、紹介。

 会議前には、領主たちには契約魔法で誓わせて、ノエルの秘密は守らせるようにします。

 騎士団長も同席しますから大丈夫です。

 団長は全力で庇いますから。

 もちろん、宰相も……」

「断る。

 領主会議の連中など、愚か者の集まりではないか」

「え? そうなんですか」

 ノエルは思わず心の声を漏らしてしまった。


「払っている税金の額で領主会議のメンバーを決めるようになってから、金はあっても良心と知性はないような領主が数を占めるようになったのだ。

 以前は、孤児院や治癒院や救護院への貢献度も条件に入っていたというのに」

 シリウスは苦い顔をした。


「今度の会議ではその条件も復活させますよ」

「どうせ、連中が反対して潰れるだろう。

 今までもそうだった」

「いえ、今度はそうはならないと思いますよ」


 ロベールは昏い瞳で笑った。


 それでも、シリウスは「でも、ノエルは行かせない」と跳ね除けた。


◇◇◇


「ねぇ、ロベール殿下、ここ、私が来ちゃいけないところでしょう?」

「弟なんだから、ロベールって呼べって言ったでしょ。姉上」


 ノエルは「旅券を特別に発行してあげるから」と王宮の奥へと連れてこられていた。


 てっきり、法務部とかに行くのだと思ったら、大会議場控室だった。

 そんな表示はないが、領主会議が行われる今日、宰相や騎士団長がのんびりしている部屋と言ったらそうだろう。 

 ――のんびりしているのは団長さんだけで、宰相は補佐官みたいな人と打ち合わせしてるみたいだけど。


 この控室は、あとは副団長と文官が数人居て、他の領主たちは別の部屋らしい。


「ほら、ノエルお嬢ちゃん、この茶菓子、美味しいよ」

 副団長がいそいそと面倒を見てくれる。

「ありがとうございます」

 ――副団長、いつ見ても、カッコいい。

 って、違うって。

 今、それどころじゃないんだけど。


 団長は厳つすぎて人外という感じだが、副団長は男前だった。

 団長は剣術大会に出れば必ず優勝していた凄腕で、副団長は魔導士タイプの騎士だという。


 ――これは、アレね。

 ロシェ先生がずっと断ってた「領主どもに付与魔導士を紹介する」っていう流れね。


 シリウスが頑なに断っていたが、ノエルは、宰相やセオにも頼まれたので、紹介されてもいいかと思い始めていた。

 領主たちには契約魔法で、今回の領主会議の内容は極秘と約束させると言っていた。

 普段もそういう規約で領主会議は行われているが、慣れたメンバーは認識が緩い。

 会議内容が漏れることも多々あったらしい。


 ゆえに今回は、元から「極秘事項の情報開示があるため、契約魔法を使わせてもらう」と知らせてあった。

 今もどこかの控え室でその手続きが行われているはずだ。


 いよいよ時間となったらしい。

 ノエルは美味しい茶菓子とお茶ですっかり懐柔され、副団長のエスコートで壮麗な大会議室へといざなわれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] そんなに大事にされてる王子様の意思に反してノエルちゃんを紹介したらダメなんじゃないの?
[一言] 甘味は貴重ですから、懐柔されるのも仕方ありませんねw
[気になる点] ロベールの発言と行動が一致していない。 前話で「兄上には求めてはならない。」と行っておきながらシリウスの行動を阻止する動きしかしていない。 さらにシリウスが拒否していたことを秘密裏に実…
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