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【10】

今日の2話目です。




 ヴィオネ家から勘当されて1週間が経った。


 ライザにはすぐに報告してしまった。

 経緯を聞いてライザは呆れた。

「ヴィオネ家は本気でお終いね。

 うちにも報告しておくわ。

 どうせお付き合いはなかったと思うけど」


「ゼラフィは王子妃になるかもよ?」

「そんな見る目のない王子様じゃねぇ……。

 あぁ、でも、サリエル王子はとても気が弱くて王妃の言いなりらしいから、自分で婚約者を選んだのじゃないかもしれないけどね。

 どちらにしろ、王妃は王宮で嫌われてるみたいだし、どうでもいいかな」

 ライザは肩をすくめた。

「気が弱いのにあの炎龍なみに気の強いゼラフィの婚約者になるなんて、大変ね」


 ノエルは他人事のように言った。実際、他人事だ。

 気の毒な王子が尻に敷かれる未来しか見えない。

 ――でも、自業自得よね。もっと調べればいいのに。


 あまり生活に変わりはないな、と思っていたら甘かった。ヴィオネ家が生意気な次女に報復しないはずもない。


 王立学園に友人のいる学生はたくさんいるのだ。


 ノエルの噂が立ち始めた。

 曰く。

『素行不良で家から勘当された』

『家出娘で、裏でどんな生活をしていたかわからない』

『ふしだらなために匙を投げられた』

 などなど。

 デタラメ過ぎて、突っ込みどころ満載のデマだ。

 ライザが真相を人脈を使って流してくれているが、王立学園ではノエルがどう思われているか想像に難くない。


 昼休み。

 遠巻きにヒソヒソ噂されるのが嫌で中庭の隅でパンの昼食を済ませるのにライザは付き合ってくれた。

「クラスの女子は、みんな呆れたデマだとわかってるわ」

 ライザが慰めてくれる。

 若干、落ち込み気味のノエルをずっと気遣ってくれている。友達は有難いとつくづく思う。


「ありがとう、ライザ」

「ヴィオネ家がこんな性悪だとはねぇ。

 ノエルの話で少しはわかってたけどね」


 ノエルは、ライザには少しだけ事情を話していた。

 壮絶な虐待のほんの1割位だが。一人でお使いに行かされたとか、芋運びとか重労働をさせられていたとか、姉の炎撃の的になってたので結界が上手いとか。


 ――あれ? いつの間にかけっこう話してたのね、私。

 まぁ、いっか。


「ライザ。噂の件も。

 助かるわ。気にしないつもりなんだけど、ちょっと腹立つし」

「そうよね。

 でもね、クラスメイトとか特に女子はみんな突拍子もないデマだってわかってたもの。

 最初からね。だってノエル、成績トップだし。

 ミシェリー先生の補佐とか、教務の手伝いまでしてるし」


 トップなのは本当だ。中等部では奨学金のために必死に勉強したのだ。

 ノエルの名は試験結果一位から落ちたことはなかった。

 国立学園学年トップが不勉強で素行不良でふしだらな学生に維持できるわけがない。

 実際、ノエルが魔法の練習をしたり、図書室で勉強している姿とか、授業の終わりに教授を掴まえて質問している姿とか、皆、知っている。


 おまけに、ミシェリー教授の補佐や教務の手伝いはノエルが誤解を受けないように学園が公表している。

 ミシェリー教授も隠していない。

 これでは妙な噂に騙される者はいない。


 ただノエルのことを知らない者もいる。学年が違っていたり、高等部から国立学園に入った学生たちだ。

 さらには「そういう噂を流された」とか「家から勘当された」という事実だけでも白い目で見てくる者もいるのだ。

 たとえ、デマだとわかっていても。その多くは男子だった。


「でも、まさか友達だったディアンがあんな態度になると思わなかったわ」

 ノエルはボソボソと愚痴りながらパンをちぎった。

 ディアンはあからさまにノエルを避けていた。

 挨拶しても無視されている。


「あー、男子はねぇ……」

 ライザが肩をすくめる。

「なんで男子なんだろ。

 まぁ、関係ないからいいけど」

「いいの? 関係ないの?

 ノエル。いいなって思ってた男子、いないの?」

「いないわ。

 だって、たまに話すだけだし」

「たまにっていうより、もっと話してなかった?」

「クラスメイトだから。話してたかも?

 でも、あんまり考えてなかったわ。

 話しかけられたら面白そうだったら答えてただけだし」

「……けっこう魔性の女だったのね、ノエル……。

 男子はそれなりにノエルのこと、嫁候補とか、将来の愛妾候補とかに考えてたと思うわよ。

 ノエルは可愛いし魔法の腕が良さそうだから、嫁にしたら稼いでくれそうだし。

 それに、落ちぶれたとはいえ伯爵令嬢だし。

 でも、勘当されて平民になっちゃったから候補から外れたわけよ」

「うわ、そうなの。愛妾候補?

 馬鹿じゃないの。

 私が愛妾? 色気がなくてもいいの?」

「……まぁ、確かに色気はクラス最下位だけどね……」

 ライザが若干、言いにくそうに呟く。

「クラス最下位って……。

 それはひどくない?

 私、アニーやリンダにも負けてるの?」


 ノエルは、あの二人には勝ってると思っていた。

「リンダは胸の谷間があるし。

 アニーはあざといわ。

 本命のアルガン先生には露骨に避けられてるけど、男子にはそれなりに人気があるのよ」

「ショックだわ。

 まぁ、いいけど……。

 色気はこれから育てる予定なのよ」

「そうよ、これからよ」


 ライザの励ましが棒読みに聞こえた。


◇◇◇


 ノエルが忙しくなったのは、ある意味、自業自得だった。

 ライザの16歳の誕生日プレゼントに、ノエルは氷魔法を付与したカップを贈った。

 入れただけで飲み物が冷たくなるカップは便利だ。

 カップも、お洒落で可愛い柄のものを選んだ。

 ノエルが付与魔法したものを友人に贈ることに、セオやアルノールは難色を示したが、「ミシェリー教授が考案した魔導具」と誤魔化すことで渋々了解してもらい贈った。


 実際には、付与魔法で作られたものと、魔導具はだいぶ違う。

 付与魔法品には、魔力供給源の魔石が要らないので付いてない。


 性能面での一番の違いは、付与魔法品は「わざわざ稼働させる必要がない」こと。

 剣であれば、獲物を切りつければ炎を纏うし、カップには飲み物を入れた途端に冷える。

 ゆえに、まったく意識しないで使える。

 この差は特に武器の場合は顕著だ。


 通話に使える「盗み聞きの腕輪」に関しては、魔力を少々流す必要があるが、それはペアの腕輪を繋げるのに必要なので、通話の機能はノエルの込めた魔力を使っている。


 その後、メリソン家から「同じカップを100個ほど手に入らないか」と問い合わせが来てしまった。


 ノエルの勘当騒ぎの際、ロベールたちに贈った風魔法付与の腕輪と雷魔法付与の投げナイフは、宰相や騎士団に知られ注文が来てしまった。


 ノエルは必死に作った。

 ライザからの注文は、とりあえず20個にしてもらった。

 騎士団からの注文は、西部の森で魔獣が増えていると聞いていたので最優先で頑張った。

 宰相への品も、なんとか注文の5セットは作って納品した。


 さらに、いつものレイピアも作っている。

 どうやら、騎士団の使い方が荒いようで消費が激しいらしい。

 低ランク付与付きレイピアは長剣一本と同じくらいの値段で、魔獣がサクっと切れるので重宝していると言う。

 アルノールは「もっと高くすればよかった」と反省しているが、他国で売られている付与付きレイピアを参考にしてつけた値段なので安くも高くもないと思う。

 アルノールは、ノエルが忙しいのを心配しているのだ。


 ブラドは「我が国の騎士に魔導士が少ないから多く消費してるんだと思うよ」と教えてくれた。


 革鎧の結界付与も、前衛の騎士たちのために作り始めた。

 ノエルの付与魔法もだいぶ上達したのだ。


 学業の方もあるのですごい大変だ。

 それでも、なんとか高等部1年前半の試験はトップを維持した。

 かなり接戦だったので次はもう2位に落ちるのを覚悟だ。

 奨学金は要らないので意地になることもない。


 貼り出された順位表を見て、国立学園の廊下に響めきが起こる。かつてないざわざわぶりだ。


 ライザが「ふふ。すごい騒ぎになってるわよ」と笑った。

 ノエルとライザはなるべく離れたところで見ていたが、廊下なので他の学生たちはたくさんいて、気のせいかチラチラ見られている。

「ライザ。なんか、悪い笑顔になってるわ」

「えへへ、そう?」

「ライザが『秘密にしとけ』って言うからそうしたのよ」

「だって、その方が面白いじゃない」


 なぜかこういう時に現れるエリーザがまたやってきた。


「ノエル!

 どう言うこと? 『ノエル・ミシェリー』って!」


「いや、別に。どうもこうもないわよ。

 ミシェリー教授が、私が未成年なのに保護者なしはマズイだろって……」


「そう言う問題じゃないわっ」

「なんで騒ぐかなぁ……。

 そう言う問題なんだってば。

 私、まだ16歳じゃない? 保護者って、やっぱ要るでしょ。

 そんで、ミシェリー教授の御子息が、養女にしてくれたってだけで……」

「はぁ? 御子息?

 ミシェリー教授じゃないの?」

「ミシェリー教授は奥様を病で亡くされてるからよ。

 『お母さんもいたほうがいいだろ』って。

 それでね、御子息の養女になったわけ。

 でも、御子息は、今はアルレス帝国で手広く商会を……」

「アルレス帝国?

 手広く商会?」

「すんごいお金持ちなんだって。

 びっくり」

「こっちがびっくりよ!」

「なんでエリーザがびっくりすんのよ」


 どうも話が噛み合わない。

 ――ま、噛み合わなくてもいいか。

 エリーザはいつものことよね。


 なぜか隣で笑いこけているライザを恨めしく思いながら適当に話を切り上げておいた。




いつもありがとうございます。

また明日も投稿します。どうぞよろしくお願いします。

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