第六話 イベント後
『――ウェルカムバトル、お疲れさまでした。本ゲームのプレイ感覚を、少しでも把握していただけましたでしょうか? これからは各自でエネミーとエンカウントしたり、プレイヤーの皆様同士で対決したりするなどして、本ゲームをお楽しみくださいませ』
ウェルカムバトルが終了すると、再びスマートグラスからアナウンスがかかる。
『島にご入場いただいたばかりのプレイヤーの皆様には、一部例外を除いて配信などは行われません。配信はプレイヤーの皆様が各自戦績を上げ、ランキングを上げることによって自動的に上がっていきます。まずはランキング2000位台を目標にプレイしていただくことをお勧めいたします』
当面のプレイヤーの目標が提示されたあと、視界の隅に現時点での自分のランキングが表示される。
3000位。
ゲーム開始時点では、プレイヤーはみな一律3000位だ。
ランキングは午前0時の集計終了をもって変動するという。
この結果が反映されるのも真夜中だろう。
ランキングを上げるためには、その間にエネミーや他のプレイヤーとバトルを行う必要がある。
エネミーとの戦闘は、基本的に島全体を歩き回って、エネミーとエンカウントしてバトルに移行する。エネミーは外部コラボなどイベントを除いてほぼすべて人型であり、一体のときもあれば、二体や三体のときもあるため、注意が必要だ。
もちろんチームを組んで戦うこともできるため、プレイスタイルは人それぞれ。
島内ではオンラインゲームのように、ギルドを組んでいる者たちもいるという。
「うーい。レキはこのあとどうするんだ?」
「そうだな。一応解放されているエリアを一通り回るつもりではいる」
「PvPとかは?」
「そっちはまだ様子見かな……」
「お? 意外だなー。レキはそっちの方が好きそうな気がしたんだけど」
「確かにゲームのエネミー相手にするよりは、そっちの方がいいけどな」
問題は強い相手がいるかどうかだ。
ランキング上位の相手ならば実力はあるのだろうが、そちらはランキングを上げないと申し込むのも難しいはず。楽しめたとしても当分先になるだろう。
「ウィルオーはPvPとかするのか?」
「うんにゃ。俺も当分はエネミーだけでいいかなって思ってる。一応『ソヘヴ』の配信は見てたけど、そういうのは情報集めてからだなー」
「堅実だな」
「おう。俺はゲームを堅実にやるタイプなんだ。ランキングを上げたいならしっかり対策を取るべきなんだ。あとは配信映えも大事だぞ?」
「俺はそこまで考えてないから頭が下がるよ」
そんな話をしていると、ウィルオーが急に叫んだ。
「というわけで俺はこれからこの島に来た目的の一つを果たしに行ってくる!」
「それは?」
「イヴちゃんに会いに行くんだ!」
「イヴちゃん? ああ、確かランキング上位の……確か《空木双剣》?」
「そう! 俺が武器に双剣を選んだのも、『ソキル』を始めたのも、すべてはイヴちゃんの『ソキル』配信を見たからなんだ!」
「そっか、ウィルオーは『月の民』だったんだな」
「おうよ!」
イヴ・サンズ。
ウィルオーと同じ双剣使いで、『ソヘヴ』のトッププレイヤーの一人だ。
現ランキングは5位で、3000台の自分たちからすれば雲の上の存在とも言える。
ファンは他の上位陣のファンと区別するためか、彼女のウサギのような可愛らしい見た目にちなんで『月の民』を自称するらしい。
レキもランカーに対する知識はないが、この手の話はたびたびネットニュースの話題に上るため、なんとなくだが覚えていた。
イヴ・サンズは島内に非公式のファンクラブがあるほど人気を誇るという。
「確か月面防衛隊だっけ? あれに入るのか?」
「そんなのに入ったら、いろいろ制限されるだろ? それに、イヴちゃんはあいつらのこと良く思ってないみたいだしさ」
「なるほど。でも、これから会いに行くって、どこにいるかなんてわかるのか?」
「ランキング上位になると、八尋殿の部屋以外に島内にホームが作られるんだ! そこに行けばもしかしたら」
「会えるかも、と」
「そう! 俺はいくぜ! 目指すは淤能碁呂島西区!」
ウィルオーとそんな話をしていたときだ。
突然、正面広場にポップな音楽が流れ始める。
それに合わせて大量のスモークが噴き出し、辺りをビームライトが踊り始めた。
「新規プレイヤーのみんな、淤能碁呂島への入島おめでとう」
ふいに、設置されたスピーカーから少女の声が聞こえてきた。
広場中央に目を向けた折、周囲からスモークが吹き上がり、その奥に人影が現れる。
やがてそこから、金髪をツインテールの少女が姿を現した。
髪型は可愛らしいが表情や仕草はクールであり、妙なギャップが感じられる。
ゲームのタイアップ動画などでよく登場する、『Swordsman’s HEAVEN』公式のアイドル歌手だ。激しいロックを歌い、プレイヤー以外にも人気がある。
周囲から「ハレンちゃんだ!」という声が続々と上がる。
その例に漏れず、ウィルオーも興奮した声を上げた。
「うぉおおおお! ハレンちゅぁあああああああん!」
彼は入島時に迫るほどの興奮ぶりを見せる。
先ほどイヴちゃんがどうとか、西区がどうとか言ってたのはどこに行ったのかというほど切り替わりが激しい。
その場にいたプレイヤーたちはアイドルの突然の登場に興奮。ペンライトを持っていればぶんぶん振り回しかねない勢いだ。むしろファンらしきプレイヤーたちはみな、グリップデバイスから刀身を投影して振り回しているほどである。
「…………」
傍目からは物騒なことこの上ない光景に見えて仕方がない。
「私からのお祝いとして一曲披露するから、よかったら聞いていって」
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
プレイヤーたちが叫ぶ。
ゲームに興味を持っていなかったため、こんなに人気があったとは思わなかった。
……ともあれ、ライブが終わったあと。
「いやー、良かった良かった。幸せだ。俺こんなに幸せでいいのか」
「いいんじゃないか? 運じゃなくて実力で勝ち取ったんだ」
「そうだよな! いいんだよな!」
「ん。あと、さっき言ってたデータ、いま送ったから」
「おお! マジでありがとう! ついてそうそう新しい友達もできて今日はほんといい日だ!」
ウィルオーは嬉しそうだ。
「レキ、お前も楽しめよ!」
「ああ、ありがとう」
そんな話をして、ウィルオーとは別行動となった。