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第四十四話 立ち合い、決す



 レキと屋敷、お互いすでに血だらけだ。

 戦いの凄まじさゆえか、体力の消耗もかなり激しい。



「――コッ」


「――ヒュ」



 レキと屋敷は間合いから大きく遠のいた場所で呼吸を再開する。

 お互い肩を上下させるほどに呼吸が荒い。



 レキはふいに膝を落とす。体勢が崩れたのは、体力の消耗ゆえだ。スタジアムからまともな休息も取っていないため、彼の体力はすでに限界に近い。

 そして、その隙を見逃す屋敷ではなかった。猿叫からの跳躍で一気にレキとの距離を詰め、襲い掛かかる。



 レキがそれを受け止めようとしたそのとき、屋敷の横薙ぎが波のように揺れ動いた。



「――ぐっ!」



 レキは受け止めるように刀を出すが、身体を斬り裂かれる。見切れない。ことここに至って屋敷の太刀ゆきはさらに加速している。


 ……屋敷の年齢は見たところ三十路を超えた辺り。順当に考えれば前世と同じ全盛期か、それを少し過ぎた頃だと言える。

 ここで問題になるのは、二度目の生で上乗せされる経験だ。無論肉体的な経験はリセットされるが、剣士の実力は鍛錬の数と斬り合いの経験が物を言う。レキとて今生も鍛錬は欠かさず続けてきた身だが、おそらく屋敷はそれをさらに上回るはず。そのうえ、生死にかかわる戦いの場に身を置いていたことも相俟って、その実力は四聖八達に匹敵するほどのものに昇華された可能性もあった。



 屋敷は荒い息を吐きながらも、再び左脇構えの型を取る。この型は右半身となって右足を前に出し、右の刀を左脇下に隠すように回して、左の刀を相手に差し向ける。または振り上げるような形を取る。


 これは刀を横に払う典型的な構えと言える。しかし屋敷の剣術は二階堂平法。他の二刀流の剣術と同じように、右の刀の横薙ぎをかわした隙に踏み込めば、振り上げた左の刀が落ちてくる。


 単純だが、単純なゆえに使われた相手にとっては面倒だ。

 一文字との使い分けで、相手の裏をかくことも可能であるため、下手に手を出すと逆にやられることになりかねない。

 特に消耗が激しくなると、意識が薄れて機を読む力が損なわれる。

 ゆえにレキが判断を誤ったのは、ある意味自然なことだったのかもしれない。



 ――二階堂平法 奥伝 十文字。



 レキが横薙ぎをかわし、その隙に踏み込んだあと。

 彼の身体に、強烈な左の刀が落ちてくる。

 レキは身をかわせず、刀で受け止める形となった。

 予想を遥かに超える重みが、レキの腕を襲う。



「ぐうっ――!?」


「は――さっきの焼き直しになったなっ!」


「っ、利き手よりもこっちが強いだと……」


「二刀流における左は守りの剣であり、打ちの剣でもある! 鍛錬に差が出るのは当たり前だろう! お前が真っ向を積み重ねてるのと同じように、俺の左の積み重ねも舐めてもらっちゃあ困る!」



 屋敷はレキの刀を抑え込んだ状態で、手の空いている右の剣を後ろに引いた。

 そして、突き出すような機を見せる。

 これは無理にでもかわさなければ、()られる。

 レキはそんな確信を得た直後、ありったけの気力を振り絞り、刀を受け止めた状態から回避に転じた。



「っ、ぁああああああああああああああ!!」



 無理な回避のため、受け止めていた左の刀が身体を裂き、右の刀の突きもわき腹を削いだ。

 レキはアスファルトの上を転がって、すぐに体勢を立て直す。追撃は、ない。



「……負けを回避するため、敢えて剣を受ける方を選択したかよ」


「負けないためならいくらでも受けるさ。立ち合いの敗北は()()()()で十分だからな」


「俺なんぞの剣を受けてるようじゃ、彼の剣聖には届かねえぜ?」


「まったくだ。上がもっといるのに追いつかれてたら世話がない」



 レキは自嘲気味な言葉を口にしながらも、勝ち筋を模索する。

 この期に及んでの勝機はどこか。

 そう、あるとすれば屋敷の剣尖(けんさき)だろう。先ほどよりも鋭さは増しているものの、波のような揺らめきが緩んでいる。体力的な余裕がなくなったのか。それとも精神的なものなのか。切っ先が実直さを帯びてきているのは、先ほど口にした約束のためなのか。



「雷神、これで終いだ。経験分でズルをしている気がしねえでもないが、これも巡り合わせってヤツだ」


「勝手に終わらせようとしてくれるなよ。俺はまだ刀を落としちゃあいない」


「……そうまでしてあのAIを守りたいのか?」


「ああ、俺の弟子だからな」


「弟子か。AIに剣術を教え込んでも、自動で動くだけで、見えなきゃいけないものを見れるようになるとは思えないがな」


「そうとも限らないだろ。もしかすれば、五観一見もわかるようになるかもしれない。誰かの言った言葉だろ。脳みそとCPUの違いは、有機物か無機物かだけでしかないってな」


「減らず口を叩きやがる」



 屋敷は可笑しそうに片方の頬を吊り上げると、刀を構えた。これで決める腹積もりだろう。

 こちらの体力も、もう残り少ない。次で決めなければ、勝機はまずなくなるはずだ。そうなれば、相打ちに持ち込むほかなくなる。


 どうするか。どうするべきか。レキは頭を働かせる。

 思考が疲労でぼんやりとしてきたそんな折、ふと屋敷が先ほど口にした言葉が頭の中で繰り返された。



(経験、AI、自動(オート)……そうか、それがあったな)



 それらのワードが、レキに天啓のような閃きをもたらす。

 屋敷の剣からはすでに虚実が離れており、不破の剣を強く警戒している。

 ならばあるいは、この剣を遣えば勝利を得られるかもしれないと。

 その手で勝つにはあまり気は乗らないが、優先順位がある以上わがままは言っていられない。



「――訊こう。剣士の優劣を決めるただ一つのものはなんだ?」


「なに?」


「速さか? 力か? それとも技か?」


「全部だ。その全部が必要だ」


「一番、()()()言葉だ。だが、違うな」


「じゃあなんだって言うんだ?」


「経験だ。あらゆる剣士と戦うことで得られる知見と体験、そしてその答え。速さも力も技もいつかは衰える以上、剣士が頼みにできるのはそれしかない」



 屋敷はレキの言葉を聞いて、拍子抜けしたように口を開ける。



「極論交じりの冗談だな。さすがに脚色し過ぎだぜ?」


「そうだな。さすがに言い過ぎたな」



 レキはそう言うと、剣をだらりと下げる。下段の構えでもない。ただ刀を持っているだけの体勢だ。



「無の位か。これだけ攻めておいて、いまさら活人剣を使うのか」


「かもな」



 怪訝な表情を見せる屋敷に、レキは意味ありげな笑みを見せる。

 屋敷はそれを、相手の惑わすための表裏の一つと捉えたのか。



「活人剣は所詮、後出しの剣だ。二刀の相手には不利を取ることくらいわかっていると思うが?」



 確かにそうだ。二刀流の同時打ちもそうだが、二刀を打ち込むタイミングをずらせば、後の先の剣は隙を突かれてしまう。


 だがレキがそんな構えを見せたせいか、屋敷の顔には困惑が浮かんでいた。

 彼から見れば、レキの構えは完全に勝負を捨てたものだったからだ。

 無の位の不利だけではない。構えにおける隙の消失、斬意、剣威、いまのレキにはそれらが一切何もないのだ。ただ無防備なところに打ってきてくれと言っているようなものと同じ。


 屋敷は考える。これが相手の裏をかくための『表裏』であり、ここから変化するのか、と。

 結局、屋敷には答えを出せなかった。

 少なくとも、いまの彼にはこれまで見た技を警戒するほかなかった。



 ――剣士が最も尊ぶべきものは、真っ向斬りだ。



(……それしかねえよな)



 先ほどレキは、確かにそんなことを言っていた。

 ゆえに、屋敷はその言葉に重きを置いた。

 レキの剣はどんな形であれ、最後は必ず真っ向に変化するのだと。

 そして屋敷は動き出す。

 間境手前まではゆるゆると動き、差し掛かった直後に加速。

 だが、レキの方に動きはない。その場に止まったまま。なんの機微も見出(みいだ)せない。



(なんのつもりかは知らねえが……)



 屋敷は真っ向斬りを読んで、右の刀で受け止めるように寝かせて差し出し、一方で左の刀をレキの身体に突き刺そうと試みる。


 一方でレキは、身体を差し出すようにして前に踏み込んだ。

 屋敷の左の刀に、()()()()()()()()()()()



「ぐう……!」



 勝利した。屋敷がそう確信したその直後。



「これで――がはっ!?」



 屋敷の刀がレキの身体を貫いたのと引き換えに、レキの刀も屋敷の身体を貫いた。

 屋敷は思わぬ衝撃に震え、右の剣を取り落とす。



「あ、相打ち狙い、だとぉ……」


「っ……そんなつもりは、ない」



 わざと貫かれておいて、その言い分とは。

 屋敷は刀を刺し込んだ部分をよく見る。しかして、屋敷が貫いた部分は――



「お前、あえて内臓が避けられる部分をっ……!」



 そう、レキは呼吸による横隔膜の収縮を利用して、内臓の位置を調整。致命的な部分を傷つけないよう、わざと屋敷の刀を迎え入れた。

 そしてその自傷と引き換えに、屋敷の無防備な部分(すき)を増やしたというわけだ。



「だが、どうして、あの無防備な状態から……」


「言っただろう? 優劣を決めるのは経験だとな」


「なに――」


「彼我のあらゆる剣の繰り出し方を知っていれば、いや、肉体に覚え込ませていれば、自然身体はそれに応じ、自動的に剣を繰り出す。生物が死を忌避する本能に従ってな。無論そこに、思考が介在する余地はない」


「そうか! 無念無想、一之太刀、か……」


「無念無想とか、空とか、そういった言葉は好きじゃない」


「剣の奥義を否定するのかよ……」


「剣士は相手を斬ると思って切り捨ててこそだ。こんな()()()()()に頼らなけりゃならないなんて、まったくもって不甲斐ない」


「決着がまさかテメェの流派の技じゃねえとはな……」


「当たり前だ。いまの身体の状態で下手にそれを出せば止められる相手だ。なら――」


「そちらを警戒させつつ、あえて別の技を使った、かよ……」


「そういうことだ」



 レキはそう言うと、静かに呟く。




 ひとつのたち

 これ自ずから夢中の内に事を決するものなり

 たとへ心体剛なるといへども、これ用に応することあたはず

 いづれも千日万日の修練を要とし、はじめて妙用あらはれたるものなり

 ひとつ、己が身を絶体に置くことなり

 ふたつ、己が心を空漠に置くことなり

 みっつ、己が剣を神妙に置くことなり

 秘中はこれ無我、無意、無念、即、空の中に在り

 意念わづかならずとも心頭に横たわれば、妙用あらはすことあたはず

 気融和して心体自然になれば、神ここに定まれり

 さすれば技、神働きて自ずと生じるものなり




 一之太刀。これはいわば、カウンターの究極形だ。

 あらゆる感覚を鋭敏に研ぎ澄ませ、相手の技を無意識的に予測、察知し、相手が挙動を起こす前に相手の技に応じた一手を自動的に叩き込む。

 それを実現させるのが、これまでに染み込ませた型や経験だ。

 そうやって様々な応じ手を身体に染み込ませているからこそできる技である。

 無論、応じ手を持たない術技を使われれば、その限りではないのだが。



 レキは屋敷を突き刺した刃を引き抜く。



「……さすが、致命傷は避けたか。あんたも成ってるじゃないか」


「くそっ……そんな人外な剣が飛び出して来るとはな、やられたぜ」


「肉を引き締めろ。出血で死ぬぞ」



 レキは屋敷から刀を取り上げる。

 屋敷もさすがにもう動けないか。その場に座り込んだ。




  ●




 屋敷との戦いが終わったあと。

 レキはまず、サラを座位にして彼女の背中に膝を当てて脊髄を刺激する。



「ほれ」


「う……」



 ウィルオーに対しても、同じように活を入れた。



「おっ……」


「どうだ? 動けるか?」



 活を入れ終わると、二人は先ほどまでの金縛りが嘘だったかのように動き出す。

 最後はリンドウなのだが――



「さてAIに活を入れるとかどうすればいいのかねこれ。まあいっか」



 そう言って彼女の額に指を当て、弱い電撃を浴びせた。



「――!?!?!?!?」



 それが功を奏したのか、やがて彼女も制御を取り戻し、一度(かぶり)を振って動き出す。



「三人とも、大丈夫そうか」


「私は……ああ、問題ない」


「俺もなんとか」



 サラとウィルオー二人とも、特に障害が出た様子は見えない。

 一方でリンドウが、焦ったように話しかけてくる。



「私たちもそうだが、それよりも貴様の方だ」


「俺か? 俺は大丈夫だ。俺は剣で斬られなきゃ……あ、さっきから斬られてたな」


「ボケてる場合かバカ者!」



 本気で間の抜けたことを口にしたレキに、リンドウが怒声を放つ。

 そんな中、ウィルオーが屋敷の方に視線を移した。



「あいつはいいのか?」


「まあ、大丈夫だろう。さすがにこれ以上は戦えないはずだ」



 屋敷の傷は致命傷ではないが、それでも動ける程度のものでもないはず。

 レキたちは他の脅威がないか確認したあと、天御柱の前に向かった。

 アプローチを上がるが、しかし入り口は開かず。

 かといって、制御用のコンソールもうんともすんとも言わない。

 黒く硬質な、分厚い特殊合金の扉が立ちはだかった。



「……開かない」


「ここまで来てこれかよ……」



 サラとウィルオーが、無力感に呻く。



「ユウナがいれば、どうにかなったんだがな」



 ユウナには『お願い』がある。彼女ならこの分厚い扉も、難なく開けるだろう。

 だが、それが使える本人はこの中だ。

 テロリストたちも、ここに入るためにユウナの力を利用したのだろう。

 諦めず開錠を試みていたリンドウが、首を横に振った。



「ダメだ。セキュリティレベルが最大にまで引き上げられている……サラ・ミカガミ、あなたはどうだ」


「……わたしも無理だ。この状態の扉を開けるにはそれこそ斑鳩CEOでもいなければ不可能だろう」



 万事休すか。入れないのでは、どうすることもできない。



「…………」



 いや、まだ手はある。

 レキは、己の腰に差した得物を見る。

 そう、ここに、刀がある。刀は目の前の障害を斬り裂くものであり、己の道を切り開くもの。目の前にあるそれが斬らねばならぬ障害であるというのなら、ただ斬って捨てるのみ。



 レキはするりと刀を抜く。しゃおんという涼やかな音が辺りに響いた。

 そして、何の気なしに屋敷に訊ねた。



「猿飛。これで斬れると思うかね?」


「どうだろうな。ソードオブソード(きさまら)の領域のことはわからん」


「そうか」


「ヒヒイロカネが入ってるなら、なんとかなるんだろ」



 レキは背後からの言葉を聞いたあと、今度は白騎士を見上げた。



「不破の雷神。なにか言いたげだな」


「よろしければ、手伝っていただきたいのですが?」


「不要だろう。そのような()()()()()()()()鉄扉など、吾の『フツ』がなくとも誰でも斬れる」


「そうですか」



 白騎士は、動くつもりはないらしい。だが、()()が誰でも斬れるというならば、この刀でも斬れるのだろう。

 レキは、深呼吸を行う。大きく息を吸って、大きく吐き出した。

 さながらそれは、燃え盛る炉に新鮮な空気を送り込むかのように。



 妙な素振りを見せているレキに、ウィルオーが訊ねた。



「おいレキ、何するつもりだ?」


「答えは一つしかないだろ」


「一つって……」



 レキが刀を上段に構えると、サラが焦ったように訴えかけた。



「君、正気か!? これは特殊合金なんだぞ!?」


「これ以外に何か良い手立てがあるんなら是非聞きたいが」


「それは……だが、それにしたって無茶だ! これは特殊合金だぞ!? 鉄の刀で斬れるわけがない!」


「さっき装甲付きのパワーローダー斬ってたんだが?」


「それは……リンドウ・ココノエ、君も何か言ってくれ」


「……この男のことは私の電子脳では計測できない。これまでも予測不能なことばかり実現させてきたのだ。それ込みで確率を割り出すと……0ではない」



 これまで、予測できなかったことや映像置き換えなどを目の当たりにしために、再計算の結果がそんな風になったのだろう。リンドウは勝手にしろというような態度だし、仲間を得られないサラはそのまま黙ってしまった。



「三人は少し下がってくれ。あとは、耳もふさいでいろ」


「それは、どういう……」


「いいから。迅雷耳を掩うに(いとま)あらず。雷が落ちてからじゃ、耳を塞いでも遅いぞ」



 レキは三人が後ろに下がったことを確認したあと、天に向かって吼え声を上げた。



「――――――――――――!!」



 それは、屋敷の猿叫を遥かに超える音量を持つ咆哮。

 さながら雷轟のような大音声(だいおんじょう)だった。

 下がっていた三人も、その強烈な音波に堪らず首をすくめる。

 発声は周囲の空気を圧して引き絞り、悲鳴のような音を引き連れる。


 直後、レキの全身の表皮に、血管が浮き出た。

 副腎髄質のアドレナリン制御によって、血液の流量が増大したためだ。



 しかして、剣撃を繰り出す構えは右肩上の上段。八双の構えに蜻蛉の構えを足したかのような構えだった。

 血圧と腹圧のせいで、レキの傷口から血が噴き出す。



「おいレキ!」


「……大丈夫だ」



 そして繰り出すのは、八訣のうちの二つの要訣を掛け合わせた、不破御雷流最強の一刀。



「不破御雷流、神袷(かみあわせ)ノ太刀、獅子吼雷鳴剣……」



 咆哮によって身体のすべてが励起されたその直後。

 特殊合金の扉に向かって、稲妻の一刀が振り下ろされる。

 雷が落ちたような轟音が何もかもを吹き飛ばし、特殊金属のゲートが真っ二つに分かたれた。



 ……やがて煙のような塵埃(じんあい)の幕が晴れると、そこには真っ二つに断たれ、崩れた扉の残骸があった。

 人が通る隙間は、十分にある。

 これで、内部に入ることが可能となった。



「ん。なんとかなるもんだな」



 レキがそんなことを口にする一方。



「うっそだろ……」


「ほ、本当に斬ってしまったのか……」


「貴様は本当に人間か? 有機生命体としての存在を疑うぞ?」



 ウィルオー、サラ、リンドウはそれぞれの驚きを見せる。

 それとは別に、声が聞こえてきた。



「っ、今度は雷を落としたのかよ」



 そう、屋敷冥加が身を起こし、こちらを見ていたのだ。



「そいつが、鳴守靂を雷神と言わしめし一刀ってやつか。そりゃあ勝てるわけがねえよなぁ」



 屋敷はそう言って、自嘲気味に笑っている。

 だが、その言葉には事実と異なる部分があった。



「――違うな。猿飛、あんたが俺に負けたのは、もっと違う理由があったからだ」


「へえ。そりゃあ、是非にお聞かせ願いたいもんだ」


「迷いだ」


「――あ?」


「戦いの最中、あんたの剣に迷いが現れた。それは自分のやろうとしていることに迷いがあったからだ。どれだけ悪党の真似事をしようとしても、あんたは悪党になり切ることができない人間だったのさ。そうだろ。あんたの剣は、どれだけ奇妙な剣閃を見せても、追い込まれたときの最後はただ一条、真っ直ぐだった。だからこそ、そこに一之太刀を繰り出す余地があった」


「相手の動きにフェイクがなけりゃあ、一之太刀も使えるか。俺としたことが迂闊だったぜ……」


「そうだ。それに」



 レキは屋敷が取り落とした刀に目を落とす。



「……?」


「いい刀じゃないか。いくら未来の技術があるといっても、曲がった性根じゃそんな刀は作れないだろ?」



 レキの言葉を聞いて、しばらく屋敷は目を丸くして呆気に取られていた。



「……ハ、そうかよ」



 やがて、今度こそ可笑しそうに笑い出す。

 しかして、そんなやり取りのあと。



「雷神。頼みがある」


「テロ屋の話など聞けんな」


「それが、人々のためだと言ってもか?」


「ああ」


「そうか」


「そうだ」



 レキは屋敷の頼みを拒む。

 テロリストの行為に加担するつもりはなかった。

 だがそれでも一つだけ、揺るぎないものがあるとすれば。



「――猿飛、俺は斬るべきものを斬るだけだ。そこには正義も悪もない。斬る必要があれば斬るし、斬る必要がなければそのままだ。もしそこに俺が斬るべきなにかがあるのなら、きっと俺たち(けん)の神さまが囁くだろうよ」


「……お前さんよ、素直じゃねえってよく言われねえか?」


「黙って寝ていろ。傷に響くぞ」



 レキはそう言うと、刀を鞘から少し引き抜き、鍔を鳴らした。

 屋敷にとってはそれでよかったのか、納得したようにその場に大の字に寝転んだ。

 レキたちが天御柱に入ってしばらく。屋敷は思い出したように夜空に呟く。



「迷い、か……」




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[良い点] あちち…
[良い点] 一の太刀 [一言] 切るの意思持ってない体の反応だけで動く だから呪いか… 先生の表現力はまじ好き
[気になる点] >ブライトに対しても、同じように活を入れた。 ウィルオーではないでしょうか
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