第十八話 ユウナVSリンドウ
レキがユウナに稽古をつけていた折のこと。
室内運動場に現れたのは、リンドウ・ココノエだった。
レキも、まさか二日連続で彼女と顔を合わせることになるとは思わなかった。
と言っても、リンドウはユウナと違ってレキに会いに来たわけではないのだが。
リンドウは昨日と同じく、後ろに二人のスタッフを引き連れている。
片方はユウナに嫌みを言っていた優男で、もう片方は眼鏡を掛けたAIの少女だ。
リンドウが悠然と歩いてくる。
「リンドウさん……」
ユウナが呟くように口にする。声から、彼女がひどく緊張していることが窺えた。これはリンドウに対する気後れだろう。だが、それも無理ないことか。相手はあらゆる分野で良い成績を残したAIで、このゲームでも上位陣に食い込んでいる。しかも、態度も自信に満ち溢れているときた。
いまの自分に満足できずに藻掻いているユウナからすれば、張り合うには厳しい相手ということだろう。
ともあれ、気になるのはリンドウが発した言葉だ。
彼女は先ほどユウナを見るなり「ここにいたのか」と、そう言った。
ということはつまり、ユウナのことを探していたのだと思われる。
リンドウ・ココノエ。ふくらみのある鳶色の人工キューティクルと、見通すかの如く透き通った視覚センサを持つ。
堂々とした振る舞いの中に、支配者が持つであろう冷たさが同居している。それは機械的な無愛想と言うよりは、冷静さを思わせる冷ややかさのようにも見える。表情の動きに関するエモーショナルエンジンの表現の多彩さは、見た目よりも豊かな方だと言えるだろう。
彼女はやはりユウナにしか興味はないようで、レキを軽く一瞥すると、すぐに視線を彼女の方へと戻した。
そんな彼女に、ユウナが訊ねる。
「リンドウさん、今日はいったい……?」
「時間に余裕ができたから手合わせでもと思ってな。用があるのなら遠慮するつもりだったが……そうでもないようだ」
リンドウの後ろで、眼鏡の少女がパッドを確認している。
おそらくはリンドウのスケジュールを映し出しているのだろう。
時間に関することをリンドウのバイノーラルマイクに耳打ちして、後ろへ下がる。
「ユウナ・ツワブキ。一つ訊こう」
「なんでしょうか?」
「昨日私はお前に、我らAI知性体に最も大事なのは学習だと言ったはずだ。だが、これは一体どういう了見だ? 何をしている?」
「何を……いまは先輩に剣技を習っているんです」
「剣技を?」
「はい」
「先輩というのはそっちの男のことか? 見たところ、剣技を習っているようには思えないが?」
それには、レキが答える。
「いまやってるのは基礎だから」
「基礎? ただ歩いているようにしか見えんが?」
「その通り、歩き方の練習だ。剣を振るにもまずはきちんとした歩き方を覚えないといけないからな」
「ふん。ものは言いようだな」
「……ん?」
レキはリンドウの物言いに眉をひそめる。どこか不穏さが窺える言い方だ。
見れば、リンドウの表情にはあからさまに失望が浮かんでいた。
彼女はまた、ユウナの方を向く。
「ユウナ・ツワブキ。まさか苦し紛れにルーキーに教えを請うとはな」
「べ、別にこれは苦し紛れではありません!」
「ではこれが苦し紛れ以外のなんだというのだ? 教えているのが歩き方だぞ? これがこのゲームの役に立つというのだ?」
「役に立つと思います! それに、先輩はきちんとした技術を持っています!」
「だが、習うのならばその道のプロに教えてもらう以上のことはないと思うが? それともその男はプロだとでも?」
「それは……」
ユウナは言い返せず、こちらに縋るような視線を寄越してくる。
「ん。そういうのは何をもってプロフェッショナルと言うのかで定義が変わる。知名度が高くて結果を残してる人間をプロというなら、俺はその範疇にはないな。このシリーズのゲームだってそれほど触れてない」
そう言うと、リンドウは呆れたように息を吐いた。
「基礎と言いながら、学習させているのが基礎的な筋力トレーニングでもなく、歩き方だ。それに意味があるとでも?」
「これが一番重要なんだけどな」
「効果の有無など誰の目から見てもわかることではないか。こんなものは人間相手に商売をする胡散臭い健康科学やお遊戯と同じレベルだ」
「おいおい……」
さすがにそれは無茶苦茶な言い分だ。
足運びはどこでも奥義と言われるほどに重要なものだ。剣道でも足を見よと言われるほどに重要視されている。
だが、リンドウはそうは考えていないらしい。
「違うと言うならもっと真っ当なことを学習させたらどうだ? 剣術とは剣の取り扱う術だ。剣を振って学習させるものではないか?」
「そもそもその下地すらきちんとしてないからこれをやってるんだ。剣術は剣の取り扱い? 剣を振るだけが剣術じゃないんだぜ?」
「だが、歩き方はないな」
「どういう理屈でそんな否定ができるんだよ?」
「歩き方を学習して強くなれるなら、ウォーキングトレーナーはみな武術の達人ということになる。それとも貴様はそれを証明できるような最新の運動科学でもインプットしていると?」
「いや、それは」
レキは答えに言い淀む。当然だ。それに頷けば嘘になるからだ。
すると、リンドウは何やら勝手に結論付けたらしく。
「ふん。そんなことだろうと思った。いまの時代運動科学は武術の指導者にとって欠かせんというのに、それすら学んでいないとはな」
「む……」
これにはレキも言い返せない。おそらくここで何か言い返せば、エビデンスを持って来いと続くだろう。多分に感覚的なものがかかわるため統計は取れないし、そもそもすでに失われている技術なのだ。論文や数字を持ってこいと言われても難しい。
こうして運動科学など理論的なもの持ち出されると途端に弱くなるのが痛いところか。古武術というものに一定の認知があった昔ならいざ知らず、いまでは誰も知らない技術なのだ。議論の応酬になるとはっきり言って手も足も出ない。
AI知性体にとって、科学的な理論は聖書と言っていいほど絶対的なもの。
彼ら彼女らには、感覚的な分野でのことは口で言ってもわからないことが多々ある。
リンドウが再度、ユウナに視線を向けた。
「……興覚めだな。FI社ご自慢の電子脳と人工躯体の組み合わせと、同じ条件で競い合う。個人的に楽しみだったのだが……どうやらもう勝負は着いたようだ。いや、元から勝負にもならなかったのかもしれん」
「……ッ」
リンドウが踵を返そうとしたその折、ユウナが声を張り上げた。
「リンドウさん! 待ってください!」
「なんだ?」
「私のことを悪く言うのは構いません。ですが先輩のことを侮辱されるのは黙っていられません」
ユウナが食って掛かると、リンドウは目を細める。
そして、グリップデバイスに手を掛けた。
「ならば抜くがいい」
「……はい!」
ユウナは大きく返事をして、剣を投影する。
現れたのは、ピンクカラーのロングソードだ。
一方でリンドウも己の剣を投影する。彼女の剣も、ユウナと同じ両手持ちのロングソードタイプだ。ユウナのものよりも身幅が広く大振りで、金と銀の装飾があしらわれており、宝飾剣という言葉が良く似合う見た目をしている。
「ユウナ」
「先輩。申し訳ありません。私のことで先輩の剣技を悪く言われてしまって」
「いや、俺は構わないが……ユウナはいいのか?」
ここで戦うことの是非を訊ねると、ユウナは「はい」と口にしてコクリと頷いた。
エモーショナルエンジンが働いて、潤滑油の流量を上げているのだろう。発汗再現機能によって手に冷却水がにじんでいる。
グリップデバイスを起動したことが検知されたのか、光学映像により周囲にラインが引かれ、運動場内にゲーム領域が展開された。
GET READY FIGHTERS!
空中に文字が表示され、合図の音声が響くと同時に、ゲームが始まった。
ゲーム開始に合わせ、先に動いたのはユウナだった。
ユウナがリンドウに、連続斬りを使う。
しかし、リンドウには当たらない。
視覚センサにどこか冷めたような光を宿したまま、紙一重でかわしていく。
その動きに危なげはない。動きもユウナが剣を振るのに先んじている。
リンドウが剣撃をかわしながらユウナの横合いに踏み込み、彼女に斬りかかった。
「はぁあああ!!」
「っ、くっ……」
一方でユウナはそれをどうにか受け止めるといった状況だ。
リンドウの操る剣は力強い剣だ。身体の動かし具合で、発揮できる力が常に最大になるよう動いている。動きのすべてに一定の法則に基づいた機序が見えるということは、やはり運動科学や人体工学をもとにした考え方を基礎として据えているのだろう。
確か、自分の流派に『帝王流剣術』という名前を付けていたはず。
しかし、動きがいい反面、剣の振り方にしか意識を向けていないようにも思う。どうすれば威力を最大で発揮できるか。どうすれば素早く振れるか。言ってしまえばそれだけなのだ。
重要な駆け引きの部分が見て取れないし、『先々の先』の技ばかりで、『後の先』の技が一切ない。先に手を出してその動きで相手を打ち負かすため、先々の先ともいえないかもしれないが。
結論から言えば、動きの良さで相手を圧倒する剣だと言える。
これを一人で確立したというのは、称賛に値することではある。
……打ち合っていたリンドウがユウナの周囲を縦横無尽に動き回る。
ユウナをかく乱しようという考えなのだろう。機敏な動きで徐々に彼女に迫りつつ、主導権を取ろうとしている。
一方でユウナもそれをよく視界に収め、付いて行こうと動き出す。
だが、状況はよろしくない。リンドウはユウナが動こうとする場所にその都度立ちはだかるため、ユウナは一か所に縫い留められて思うように動けずにいる。
距離を取ろうと動いても、すぐに接近されて剣撃。
ユウナは距離を離すことも許されない。
ユウナがリンドウの剣を受けると、その威力に負けて大きく弾き飛ばされた。
「くうっ……!」
「どうした! その程度か!」
「ま、まだですっ!」
リンドウに、ユウナが食らい付いて行く。
彼女がこうしてユウナの動きに先んじられるのは、リンドウがユウナの身体の動きを良く見ているからだろう。AIの帰納法が働き、原理や法則がパターン化されインプットされている。ユウナの動きの起こりと重心の移り変わりを正確に把握しているため、動きを緻密に予測できているのだ。
ユウナがこのまま食らいついても、打開できる術はない。
彼女が勝つにはリンドウのペースから脱して、彼女のペースに持っていく必要がある。
……ユウナは苦戦を強いられている。当然だ。教えたのは基礎も基礎、歩くときの重心の取り方だけなのだ。目の付け所はおろか半身の動き、陰陽の足運びすらまだ教えていない。訓練すらまともしていないのだ。
そんな状態で、強敵に勝ちを得ることは難しいだろう。
以前に立ち合ったときの見様見真似で、レキがしたように身を低くしているが、そうしている理由が理解できていないため有効に使えていない。
ふいに、両者の足が止まる。
「威勢のいいことを言ったわりには、動きが付いて行っていないな。結局は口だけか」
「っ、そんなことは……」
「そんなことはないと? あるかないかは、結果を示してこそだろう。ユウナ・ツワブキ。お前はこれまで、それができていたか?」
「それは……」
ユウナはリンドウの指摘に言い返すこともできず、言葉に詰まる。
「でも私も頑張っているんです!」
「頑張っている、頑張っていると、その言葉はこれまで幾度も聞いてきた。だが、それだけのスペックがある躯体を用いながら結果このざまだ。ユウナ・ツワブキ。お前は本当に学習努力をしているのか?」
「リンドウさんは、私が怠けていると、そう思っているんですか……?」
「そうだ」
「――ッ!? そうだ……って」
「そう思われても仕方ないだろう。我らAIは結果がすべてだ。我らにとって求められたタスクをこなすのは至極当然のこと。過程における努力になど価値はない。求められたタスクをこなせなければ、それは欠陥にも等しいぞ」
リンドウの言葉に、ユウナの顔には焦りと怯えがない交ぜになったような表情を見せる。
それはまるで、追い詰められた小鹿のよう。
そんなユウナに、リンドウが猛然と斬りかかる。
繰り出してきたのは連打だ。
まるで防御をこじ開けるように、幾度も剣を叩きつける。
ユウナはその激しい剣圧に押され、弾き飛ばされる。
体勢こそ崩さなかったが、剣が振られて身体の正面に大きな隙が生まれた。
そこに、リンドウが付け込む。
「帝王流剣術……」
リンドウは何事かを呟いたのち、小さく跳躍。剣を掲げるように高く構えたまま、着地と同時に強烈な真っ向斬りをユウナに見舞った。
「伍式、金剛!」
「――ッ!?」
重力を十全に用いた豪快な一撃だ。
ユウナは剣を寝かせて防御するも、しかしリンドウの斬り下ろしは支えきれなかった。
剣を下方に弾かれ、そのままの流れで身体を斬られてしまう。
HPゲージがグリーンからイエローまで減少。
ユウナは堪らず大きく身を退く。
一方でリンドウは、立ち合いに余裕があるためか追撃には入らなかった。
しかし、その口は止まらない。失望の色が浮かんだ表情で、ユウナに言葉を畳みかける。
「……これまで、この島で活動してきたにもかかわらず、真っ当な技の一つも持っていない。それでいいのか。お前には意地すらないのか」
「わ、私にだって……」
「私にだって、なんだ? 何か言い返したいことがあるのなら、口に出して答えてみるがいい」
ユウナは柄を強く握り締め、小さく震える。
言い返せない自分を不甲斐なく思い、歯噛みしているのか。
言われて悔しいと思うほど、強い思いがあるのだろう。それは、レキにも伝わってくる。
やがて、絞り出すような叫びが、運動場に響いた。
「私にだって……私にだって意地はあります!」
「ならばその意地、私に見せてみろ」
リンドウがそう言うと、ユウナがぎこちない車の構えを取った。
これも、以前の立ち合いのときに見たからだろう。
左肩口を前に出して、リンドウの剣を誘う。
すると、運が巡り合ったのか、リンドウがユウナの思惑通りに彼女の左肩へと斬りかかる。
その剣撃に合わせるように、ユウナが車の構えから斬りかかった。
「やぁああああああ!!」
「っ……!?」
剣と剣が交差する。金物と金物が打ち合う軽快な打撃音が周囲に響いた。
新陰流における、合し打ちだ。だが、やはり見様見真似の域を出ていない以上、その妙は発揮されず不発に終わる。
剣筋から外れる足捌きもせず。
正中線すら意識していない。
相打ちを乗り越える度胸も、言わずもがな。
なまじっかな者にありがちなように相手の剣を弾くことを強く意識していたらしく、剣が交差した折、お互いの剣が外に大きく逸れて行く羽目になった。
ユウナの剣は、リンドウの肩をわずかにかすめるだけ。そのあとの動きも知らないため、流れを繋げられず止まってしまう。
リンドウは予想外の剣撃に面食らったのか、わずかに表情を曇らせる。
そして、警戒して距離を取った。
レキはそれを見て、ふと思う。
(これは……)
先ほど、稽古していたときもそうだ。ユウナに歩き方を教えたときも、彼女はすぐにそれができるようになった。
これを見るに、彼女の電子脳はかなり高い学習能力を持ち合わせていることが窺える。
ならば、
「ユウナ! さっきの俺の動きを思い出せ! 動くときは上半身を揺らすな! 足を滑らせるように動かせ!」
「はいっ!」
ユウナは大きく返事をした直後、何事かを呟く。
「……より、映像検索。高速演算。シミュレート。エンコーダによる回転位置の検知、検出によるサーボモータの回転微調整」
呟いていたわずかな時間にパラメータ入力が終わったのか。
記録映像やデータログを辿り、先ほど自分がしていたような立ち方を見せる。
いまし方見せたぎこちない車の構えに比べ、かなり堂に入ったものだ。
これならば、行けるか。
「何をしようというのか知らんが、お前の運動データはすべて把握している」
「これは私の動きではありません! 先輩の動きです!」
そう、確かに先ほどまでのユウナの動きは完全に読まれていた。
だが、動きの起こりが把握しにくいあの動きが再現できれば、一太刀浴びせることも不可能ではないはずだ。
ユウナは体重を前方にかけ移動する。踏み込みは踵部から。着地も踵部からだ。
躯体上部から窺える揺れは先ほどの動きに比べ随分と小さい。
そのおかげか、リンドウの反応が一瞬遅れた。
「……!?」
重心と動きの起こりしか見ていなかったためだろう。正確には、リンドウがユウナの動きに設定した重心移動と動きの起こりの数値が、規定値以上のポイントを稼がなかったため、動くと判断できなかったのだ。
咄嗟にこの場面のスクリーンショット撮影をした自分の機転と反射神経を褒めてやりたい。
だが、ユウナも足腰の訓練がしっかりできていないため、間合いをわずか超えた辺りで失速してしまった。
それでも剣撃を繰り出すが――
「舐めるな!」
「あっ……」
ユウナは剣を弾かれ、すぐに肩から袈裟掛けに斬られてしまった。
ユウナの方にはLOSEの文字が表示され、一方でリンドウの方にはWINNERの文字が表示される。
リンドウのHUDには祝福のファンファーレとクラッカーが踊っているだろう。
リンドウが投影していた剣を消す。
「やはり結果は変わらなかったな」
「……っ!」
一方で、ユウナは悔しそうに唇を噛んでいた。リンドウの言葉を覆せなかったゆえだろう。
そんな中、スタッフであるAIの少女がリンドウに声を掛ける。
「リンドウ様」
「なんだ?」
「これ以上ユウナ・ツワブキに積極的にかかわる必要はないかと存じます。彼女の戦闘情報もこれ以降は更新されることもないでしょう」
「それを判断するのは私だ」
「ですが、これまで全戦全勝。彼女と戦って、リンドウ様に得るものがおありでしょうか?」
「…………」
リンドウが静かに目を閉じる中、ふと優男の方が口を挟んだ。
「それは違います。上層部からの命令がある以上、きちんと叩き潰すべきです。そうですね?」
「そうでしょうか? 必要のない戦闘は無駄だと思います。これ以上彼女に関するログを蓄積しても、有効に活用できる未来が割り出せません」
「……関係ない」
スタッフも一枚岩ではないのか。意見が衝突しているらしい。
その一方で、リンドウはどちらの意見も快く思っていないようにも見える。
スタッフ二人の揉めているようなやり取りのあと、リンドウがユウナの方を向いた。
「もう少し骨があると思っていたのだがな」
「……っ、私は」
「現時点のお前が、何か言い返せる立場にあるとでも? 本当に強くなりたければ、まずはもっと真っ当なトレーナを検索することから始めろ。もう手遅れかもしれないが」
「う……」
ユウナは何も言い返せなかった。当然だ。勝てなかった以上、利ける口はないのだから。
ユウナが戻ってくる。肩が顕著に落ちており、気落ちしていることが目に見えてわかった。
「……すみません」
「やり始めたばっかりだからな、仕方ないさ」
「ですが」
「これから立ち合いを重ねて証明していけばいい。少なくとも、さっきの動きは皇帝さんに通用したはずだ」
「はい。おそらくですが……」
それに関しては間違いない。その前に比べると、反応には確固とした差があった。合し打もどきを使ったときもそう。ユウナもそれなりに手ごたえを感じられているはずだ。
レキがユウナを慰めていたとき、室内運動場の入り口から声がかかった。
「おい!」
「ん……?」
こうして声を掛けられるのはリンドウが現れたときの焼き直しのようだが、そのときとは違って声音には剣呑さが強く現れている。
見ると、肩をそびやかした男が三人、レキの方を真っ直ぐ睨んでいた。




