表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/120

第八章 清玄真人(一)

 私たちは馬虎まこ飯店を飛び出すと、通りを北に走った。

 朝の道は混雑していて、何度か人にぶつかりそうになる。

 気車とすれ違うと耳が風で塞がれたような気分がした。

 大河に沈む時のように鼓膜が(きし)む。

 耳を押さえ力を抜くと、楊淵季に遅れた。

 私は上体を傾け、足に力を入れて速度を上げた。


 道は()(よう)(ほう)の前で東西を貫く大通りに突き当たっていた。

 そのまま大通りを横切り、芙蓉棚の周りを回って、龍鳳洞の近くに出る。

 辺りは塀で囲まれた屋敷が建ち並んでいた。

 左手に目を遣ると、立ち並ぶ松林の向こうにやぐらと光の塔が見えていた。一昨日、龍鳳洞から脱出した時は、あちら側に出たらしい。

 楊淵季がようやく立ち止まり、飛んでいた鸚鵡が彼の肩にとまった。

 そこからは体を屈めて草陰を進む。


 龍鳳洞に近づくと、楊淵季は岩を触りながら小さく言葉を唱えた。

 開かない。

 開く岩がないか確かめながら、龍鳳洞の周囲を移動する。

 楊淵季が立ち止まった。

 すぐに岩に体を寄せ、行く手をうかがう。

 覗いてみると門番のような男が三人、槍を持って立っているのが見えた。

 あそこに入り口があるに違いない。

 楊淵季がこちらを見た。

 私も視線を合わせた。

 私たちは後ろに下がり、草の陰にしゃがみ込んだ。

「牢は地下にあるが、見張りが厳しい。入り口の扉の前に三人、中に二人、それから、内側にもう一つ扉があるが、そこに三人。牢は鉄柵がはまっていて、鍵で開くようになっている。牢は一つだけだ。たいてい謀反を企てた者がつかまり、牢の中で殺される。もちろん、天君が鏡の間にいながら行う、鏡の殺人だがな。殺人の最中は二つの扉には鍵が掛けられる。中には誰も入れない。今、どこまで進んでいるのかわからないが、馬虎飯店が大騒ぎになっているところを見ると、まだ見物人が呼ばれていないのだろう」

「見物人?」

「天君が鏡で人を殺す時には、まず先に触書を出し、見物人を鏡の間に入れ、彼らの前で牢にいる者を殺す。見物人がまだ呼ばれていないということは、まだ殺されるまでに時間があるのだろう。まず、何虎敬は牢で白骨洞(はっこつどう)の道士、宇帝国で言う判官のような役人に事情を聞かれる。たいてい、形式的なものだ。次に、鏡の間に引き出され、天君に事情を聞かれる。これも、一方的に責められるだけのものだろう。その後、牢に連れ戻され、やっと触書が出るようになっている」

武偉長(ぶいちよう)の時とずいぶん違うな」

 すると、彼は考えるように顎に指をあてた。

「おまえを脅すために殺したのかも知れない。半刻で慌てて準備したから、武偉長を捕らえる時間がなかった」

「……そう言われると胸が痛いよ」

「気に病むな。ともかく、牢の見張りを突破するのは難しいから、廊下の陰に潜んで、何虎敬が鏡の間に引き出される時を狙おう」

「わかった」

「俺について来られるか」

 立ち上がって見張りの様子をうかがいながら、つぶやくようにそう言うのが聞こえた。

「そんなに足は遅くないよ」

 彼はちらっとこちらを見遣り、肩の(おう)()を腕に乗せる。

「こいつを向こうに回して、飛び立たせる。見張りが気を取られた隙に入るぞ」

 私と鸚鵡は同時にうなずき、私は岩陰に、鸚鵡は草の間を見張りの方へと歩き始めた。

 鸚鵡はおぼつかない足取りで進んでいく。

 見守っていると次第に鼓動が速くなってきた。

 岩に当てた背中から心臓の音が脳の中に響いてくる。

 鸚鵡の姿が見えなくなったころ、離れた草むらで羽音が聞えた。

 見張りの一人が鸚鵡だ、と指さした。

真人(しんじん)が戻られたぞ」

 その言葉に聞き覚えがあった。

 偉い道士か、仙人が名乗る称号――であったような気がする。

 そう思って楊淵季を見ると、ひどく丁寧な仏頂面を下げていた。

(せい)(げん)真人はどちらにおいでか!」

 草を掻き分けて、別の道士が駆けつけた。

 槍を持っている。

 声を聞きつけた道士たちが、瞬く間に集まった。

「鸚鵡がいたんだ」

 見張りの男が空を指さすと、道士たちが揃って鸚鵡の姿を探し始めた。

「あちらか!」

 飛んでいく鸚鵡を見つけると、それを追って龍鳳洞の北へ走っていく。

 あたりに道士がいなくなると、私たちは岩に駆け寄った。

(ばん)()(によ)()

 楊淵季が手をかざし、声を掛けてみる。

 しかし、岩は動かない。

 背後で、戻れ、と言うのが聞こえた。

 見張りが気づいたらしい。

 楊淵季は舌打ちをし、声を張り上げる。

(てん)(くん)(ばん)(ざい)

 岩が動き、穴が開いた。

 まだ開ききらないうちに、私たちは身体をねじ込むようにして中に入った。

(げん)(かん)(かん)(げん)

 楊淵季が振り返り、すかさず叫ぶ。

 背筋に響くような音がした。

 岩は互いを擦りながら動き、光も漏れないほどに閉じる。

 辺りは真っ暗になり、冷たい空気が顔を撫でた。

「こっちだ」

 声を頼りに体の向きを変え、歩き始めた。

 道は岩をけずったように固い。

 床には岩が飛び出した箇所があった。

 つまずきそうになりながら奥まで歩いていくと、岩で突き当たった。

 楊淵季が小声で「天君万歳」と言うと、岩に穴が開いた。

いつもお読みいただきありがとうございます!

次回事件シーンです。グロい場面があるので、苦手な方はとばしていただけると嬉しいです。

次々回に、次回のさらっとしたあらすじをつけます。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ