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第七章 大芙蓉棚(五)

「着いたぞ」

 楊淵季は息切れしていない。

「着いたね」

 私は呼吸を整えようと、柱にもたれた。

「ずいぶん太いはし……」

 私は柱の下の方を見て、ぎょっとする。

 柱は、地面から直接生えていた。

「これは古代の木だ。以前は龍鳳洞近くにたくさんあったらしい。近頃は高い楼閣が流行っていて、これ以外は全部切り倒された」

「街の建物って、こんな木でできてるのか」

 私は柱の表面を手で触る。松のような肌触りだ。

「さっきの()(よう)(ほう)もそうだ。このやぐらの木は今の天君が位に就いた時、若木だったのを植え直したもので、ある程度育ったところでやぐら用に横木が渡され、床が作られた」

「こんな木、華都では見たことないな」

「そうだな。さっき、俺は迂峨過都の道術を信じない、と言ったが、理解の及ばないもの全てを信じないわけではないんだ。ここにいるとな」

 楊淵季が柱に手を掛け、身体をひねった。

 視線の先に、光の塔が見えていた。

 木々の枝の向こう、月の光を浴びて輝いている。

「あれなど、すべての面が一枚の鏡で出来ている。鏡といっても、華都のような金属を磨いて作った物ではなく、玻璃はりで作った板に金属を薄く張りつけて作ったものだ。理論的には巨大なものも作れないわけではないだろうが、あの塔ほどのものは迂峨過都の今の技術では作ることが出来ない。それから、つなぎ目が見えないから、どうやって作ったのか、そもそもが疑問だ。そういった、技術の未来を考えると可能なのかもしれないが、今の段階ではできないというものが、龍鳳洞にはいくつかある」

「その中に、宙に浮く宝刀はないのか」

「ないね。それに、龍鳳洞の宝物……光の塔以外は、宝物室にあるんだが、そういったものが使われたら、すぐにばれるだろうな」

「どうして」

「天君は一代限りなんだ。代々、道士の中から選んでいる。だから、通常は数十年ごとに変わる」

「それって、皇帝陛下を毎回、民間から選んでいるようなものか?」

「そういうことだ」

 楊淵季はさらりと返す。

「ありえない」

 私は呆れた。そのような制度で、よくも国がまとまるものだ。

 もし、宇帝国で同じことがあれば、代替わりの度に大混乱となるだろう。皇帝陛下の力は絶大だ。その皇帝に自分がなれるかもと思う輩の抗争で、華都は戦争のようになりかねない。

「そうかな。考えてもみろよ。大昔には、理想的な国が繁栄していたというだろ。彼らは王を世襲制にはしなかった」

 私の脳裏に、歴史書の記述が思い浮かぶ。

 (ぎよう)とか、(しゆん)とか、太古の聖帝の話だ。

 楊淵季の頭にも、同じ物が浮かんでいるに違いなかった。

「確かに。優秀な者を選んで継がせていたと。でも、あれは大昔のことで」

「案外、迂峨過都にいた太古の仙人とは、そういう人たちのことかもしれないじゃないか。知らないけどな」

 はは、と笑うと、楊淵季は「話を戻すぞ」と言った。

「それで、新しく天君になった者がまずするのが、そういった宝物の確認だ。宝物には昔から目録があって、一応門外不出ということになっているが、天君を輩出したことのある名門では、密かに伝えられている。もし、天君がそういう宝物を使えば、すぐに街中に知れてしまうさ。……さあ、呼吸も整っただろう。行くぞ」

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