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Looking for purpose act1


 改稿作業前に死にかけながら書いた新章です。

 この話から文章の視点が変化します。変化します。(念のため二回)


 この世界は十四個の大陸からなり、それぞれは海で隔てているのはもちろん。空間としても大陸同士を分け隔てている場所がある。そんな大陸の中でも圧倒的面積を誇るミリア大陸。

 ミリア大陸には大小様々な国家が点在する。

 その中にあるミリア硬貨を誕生させ、一躍大国家へと上がった国。アランフェルト帝国。

 そんなアランフェルトの国境線と重なるように二国をまたぐ大森林がある。

 そこは言わずもがな、ナギとシアが一夜を過ごした森である。

 そしてこの森はアランフェルト正規軍ですら入るにはそれなりの用意を必要とする、ミリア大陸でも群を抜いて危険な森であったのだが…。


―――――――


「おはよ」

「ん。あったかい…」


 そんな会話をしているのは、真っ白な狼のような体に頭の三つあるケルベロス。ナギ・ハウトバウンと、彼女が昨日の夜に救った龍の少女、シア・ヴォルイアである。

 この森の危険性などつゆ知らず、のほほんと朝を迎えた二人。


「まだ寝る?」

「いや…。おなか減った」

「でもこの辺に食料になる動物とかっているのかな」


 この世界に来てから十数時間目のナギがこの森にいる生物など知る由もなく、三つの頭をそれぞれ違う方向へと視線を向ける。

 ケルベロス化に伴い、寝ている間になぜか体の使い方を感覚的に理解したナギは戸惑うことなく、辺りを見回したのち、横たわった体を起き上がらせる。


「近…くに、リザード、マンなら、いる」

「リザードマン? 食えるのそれって」

「焼け…ば?」

「なぜ疑問形…。でも朝ごはん抜きはきついよな…。どこら辺にいるか分かる?」

「左…に三千メートル先」

「行ってみますか」


 ナギが大きな体を動かし、左を見る。


「ナギ…逆、バカ」

「…シア? 絶対に君ボクと顔の向き逆で背中に寝っ転がってるでしょ!」

「…フッ」

「あと! いつから背中で寝てたのさ! 昨日の夜はボクを背に寝てたでしょ?!」

「ふかふか…もふもふ。全身?」

「はぁ…。なるほどね。ボクがモフモフだったから全身で感じたかったと」

「せい…かい」


 なぜ自分自身分かったのだろうか。と頭を悩ませつつ、ナギはシアを背中に乗せたまま今度こそ左方向へと歩みを進めた。


―――――


 葉を落とし始めた木々を横目に枯葉の森を歩くこと数分。

 黒猫の常時移動速度上昇効果とナギ自身の歩幅の大きさでは三千メートル。三キロ程度を軽々と歩ききると、シアの言う通りリザードマンの群れの姿が木々の間から確認できた。


「なんか…二足歩行のトカゲって感じ」


 爬虫類の肌に、手足。そして尻尾もある。二足歩行の直立姿勢をしたトカゲがその場にいた。


「トカゲ…? リザードマンは、どちらか…というと、ドラゴ…ン?」

「ドラゴンか。あれ? シアも龍の魔種じゃ…なかったっけ?」

「気の…せい。あと、ナギ。姿戻さな…きゃ、不便じゃ、ない?」

「…。シアが降りてくれたらすぐ済む話なんだけど…」


 そういうとシアは背から飛び降りる。降りたのを確認し次第、ナギもケルベロス化を解いてあの、白髪の人型へと戻る。

 ケルベロスと人の姿、どっちが元なのだろうかと少し頭を傾げたナギだったが、シアの言葉でそんな考えは虚空へと消え去る。


「ナギ…尻尾と耳。隠し…たら?」

「どうやって?」


 そういうのもナギの頭には二つの三角形の耳があり、腰あたりからふさふさの真っ白い尻尾が生えている。

 ふさふさと左右に揺れるたびに光を反射させ、煌びやかに輝く尻尾はもはやいかなる時も幻想的な雰囲気を纏うことだろう。


「…バカ。プロテクト」


 シアがナギへ手をかざすと耳としっぽは見えなくなっていった。

 プロテクト。不可視魔法の一種で、範囲内の全てを透明化させる。高レベルになればなるほど索敵スキルなどによる効果を軽減する。


「すご…いな」


 思わず感嘆の声を漏らすも、シアはそんな言葉に目もくれず、視線はトカゲの集団へと移っていた。


「どうやって倒せばいいかな?」

「魔法…か魔術」

「魔法と魔術って違うの?」

「説明…めんどくさい」


 あとで辞書を引こう。と心に決め、木々の間からリザードマンの姿を確認する。


「ボク…魔法とか魔術って使い方知らないんだけど」

「ナギ…に魔術の才能、ない。よ?」

「え…」


 突然の才能無し宣言にナギは、目が漫画の如く、黒目が白くなっていく感覚に陥った。

 そして、燃え尽きたような消失感もうっすらと現れた。


「かわ…りに。魔法なら、適性…ある」

「魔法! 例えば? 例えば!」


 はしゃぐ子供の如く飛び跳ねるナギの姿に顔を変えずとも、一歩その場で足を引いたシアは淡々とナギの魔法適性について説明した。


「へー。魔核ねー」


 ナギの持つ魔法適性は分岐に分岐を経て編み出された、魔核式の魔法。

 詠唱型や言霊、精霊とは大きく異なる魔核式は洗練者が少なく、魔法学からすれば無能とされる地域があるほど、マイナーな魔法であった。


「魔核は…私もあま、りしらない」

「うーん。どうすればいいんだろうか」

「でも、魔核は無から放てる…はず」


(無から…。こんなことならもっとロールプレイングだとかのゲームをしておけばよかったな)


「今日は、私がっ!」


 木々の隙間から勢いよく飛び出したシアは地面を蹴りだし、飛び上がる。


「スピン・バレット」


 飛び上がったシアの位置は地面から二メートル強の位置。リザードマンは反応できても逃げることはできない。

 シアの周囲に昨日の夜見た狙撃銃の弾に似た形が空気の乱れで形成される。見た目はガラスのような透明感がある。しかしその周囲には目に見えるほど、流線型の白い空気の流れが螺旋状に渦巻いている。

 その様子を鮮明に見えていた者はこの場所においてナギだけであった。

 リザードマンからすれば何なのか理解することもできない。


 事実。これはシアが魔術を展開してからたった三秒間の出来事なのである。

 リザードマンが視界に入れた瞬間には――。

 シアの魔法によって仲間を含め七匹の脳天を貫通し、血が噴き出していた。


「…しょく…りょう」


 シアは脳天を貫通され、血を垂れ流しながら倒れたリザードマンを横目に、木陰にいたナギへうっすらと笑みを浮かべた。

 対してナギはただひたすらに恐怖心だけが募っていくだけであった。


「ナギ? 食料、手には…いった、よ」


 そのシアの両手にはしっかりとリザードマン二匹の尻尾ががっしりと掴まれ、引きずられた跡がきれいな一線を描いていた。

 この時、もしもシアが殺し方を選び間違え、返り血を浴びるような魔法を選んでいたならばきっと。

 ナギはこの場で逃げ出していたことだろう。

 それもそう。元より食のために生きている動物を殺す場面をまじかで見るなど、前世においては一生に一度見れるかどうか。

 常軌を逸している。ただそれだけであった。


「う…うん」


 苦し紛れの返答であった。

 一夜にして心を開いたシアにとってこのリザードマンを狩るという行為は昨日の恩返しなような物。

 しかしナギの表情は苦し気。


「……。ごめん、ね」


 シア自身、なぜ謝罪をしたかなど説明できるわけがない。

 でも、ナギがうれしくなさそうな表情ならこの場所において原因は自分にしかないと、無意識のうちに判断し、その言葉を発した。


「え? え。ええ。ああ。ああ?」


 ナギの脳みそが情報処理において限界を迎えた瞬間であった。

 数秒前には異様な光景を目にし、その少し後にはシアが自分へ謝ってきている。

 ナギはただ、天を仰ぎ天使に向かって愚痴をこぼすのだった。


「生きていける気がしないんですけど……ねえ?」





 この後も文章の視点は第三者視点となります。

 次回更新は来週日曜日となります。今週は改稿作業の方を進めさせていただきます。


ポイント評価ありがとうございます!

ブクマの方もよろしくお願いします! この話のように突然投稿するときもありますので。

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