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アメノチハレ  作者: 秋月
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音楽

「えらく綺麗に吹くね、君」


 ふ、と後ろから声がかかって、振り返る。彼の手にはホルン、肩には音符のマークが記された腕章――吹奏楽部員である。


 つい先ほどまでチューニングがてら簡単な曲を演奏していたのだが、それが発見されたらしい。どうにも気恥ずかしく、指先で頬をかく。


 十一月末の音楽祭。十を優に越える数の高校から音楽系部活が出場するそこは現在、昼食休憩の時間帯である。


 そして、舞台裏まで来ているという事は関係者のはずだ。肩を見れば、また別の高校の音楽部員だと分かった。


 長い髪と整った顔立ち、少し低めの身長。一見すると女子にも見える――が、制服は男子生徒用のブレザーだ。男装しているかのようなちぐはぐさはあるが、男子生徒なのだろう、と彼は納得した。


 自分よりも少し高い中性的な彼を少しうらやみながら、手元のメモ帳に書いて感謝の言葉を述べる。


「うん? ええと……?」


 目の前に居る相手と筆談。一見奇妙な行動に首を傾げられると、彼は少し苦笑しながら、自分の喉を指差した。奇妙にねじくれたそれが、生まれつき喉に欠陥がある事を示している。


 すなわち、喋れないのである。それ以外はいたって健康体なのだが、実際に音のある言葉として話そうとすると、ヒューヒューという息の漏れる音しか出せない。だから筆談なのであった。


「んと、喋れない?」


 彼がそれに頷いて返すと、そっか、と言って曖昧に頷く。


「そか。……ねえ君、ええと……」


 指先が走り、(れん)です、とメモ帳に示される。ペン先がぶれて見えるほどの速さなのは、長年の慣れからのものであった。


「ん、蓮君か。君、音楽は好き?」


 蓮は一瞬だけぽかんとしてから、言外にもちろんだと伝えるように、大きく強く頷いた。


 その顔には屈託の無い笑みが浮かんでいて、彼もまたその笑みに釣られて笑う。


「じゃあ、聞いていいかな。蓮君は、音楽に何が出来ると思う?」


 哲学的な質問だと、蓮は少し首をかしげる。音楽について難しく考えたことはなく、いざこうして問われると、咄嗟にこうだという事は出来ない。


 とはいえ、まったくの考えなしという訳でもない。普段からぼんやり思っていた事を形にすれば良いだけだと、手帳にペンを走らせた。


 そこで放送が聞こえた。昼休憩終わりの合図である。そして、午後の部一校目は蓮の所属する吹奏楽部の出番である。


 指定の部屋で待機し準備するよう呼びかけられ、蓮は慌てて手帳を書き切り、彼にそれを押し付けると慌てて走り去った。


 苦笑しながら手帳をに目を落とす。


「うん。彼、良いね。面白い子だ」


 後で返さないとな、と鞄にしまわれた手帳の一ページには、荒々しい字で、"出来ると思えば何だって"と書かれている。

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