空
諸事情によりお題を変更していた為、時間がかかってしまい、
申し訳ありませんでした。
「エンジンの調子は……よし。滑空翼と制御翼、問題なし」
ガレージの中、コツコツと音を立てながら、確認作業をする女性。煤にまみれた作業着は無骨であり、それは職人気質の彼女に良く似合っているように思えた。
「制御システムオールグリーン、四肢の稼動状況、OK。何時でも飛べるよ、ヘレン」
確認作業を終え、くるりと振り返る彼女。
その先でこくりと頷いたのは、車椅子に乗ったまた別の女性だ。ヘレンと呼ばれた彼女は、小さく頷いて車椅子を動かす。ガレージに鎮座する鉄の巨人へと向かって。
「ここまで長かったね」
「うん。コニーも手伝ってくれてありがと」
そういいながら、ヘレンは鉄の巨人――イカロスと名づけたそれに、そっと手を触れる。巨大な鉄の塊であるそれは、無骨な鋼色に輝き、空を飛ぶ時を今か今かとまっている様であった。
空を飛ぶと決めて四年。事故で半身不随となってから、それでも空を飛びたいと進み続けたその道は、今日という日、そしてイカロスという形になった。
「長かったね……」
もう一度、コニーがしみじみと繰り返す。ヘレンも頷いてそれに応えた
イカロスが壊れては材料を集めなおし、上手く飛ばなければ逐一修正し、新しい技術があれば何かしら応用出来ないかと考え、そうして八方手を尽くして来たのだ。
ドが付くほどの素人だった二人は、それでも鉄と技術を織り交ぜ続けた。蝋翼の巨人。努力で煮詰めたその翼、太陽に近づこうとも溶けることはない。
「報道陣とかも来てるってさ。こいつの晴れ舞台、きっちり魅せてやってよ」
「当たり前だよ。私だって一端の騎手になったんだから」
ヘレンもまた、同じ年月を寝る間も惜しんで自らを鍛えた。半身不随というペナルティは大きく、上半身だけで全てを操作することなんと難しいことか。
それでも折れなかった。曲がらなかった。だから、イカロスもそれに答えてくれたのだ。少なくとも、ヘレンはそう確信していた。
「……じゃあ、行こうか」
「うん、行こう。イカロスも待ってる」
胸部の装甲を開き、拳をあわせる二人。見返してやるとか、そんなことを考えたことはなかった。二人の仲にあるのは、ただ一つ。
空を、飛びたい。
「さあ今大会屈指のダークホース、半身不随を抱える騎手へレンと、そのエンジニアコニーが、今大空を舞うべくやってきました!」
スピーカー越しに司会者の大声が聞こえる。
歩く鉄巨人の振動は胸に響き、今にでもイカロスで飛び出したい気分を、ヘレンは大きく笑いながら押さえ込んだ。
「エントリーナンバー二十六番、機体名イカロス! チーム"もっと遠くへ"です!」