音
ドタン。ゴロゴロゴロ。
体育館の端で座っていると、遠くの方からバスケットボールが跳ね、転がってきた。
「おう、すまーん! ボールくれー!」
彼は聞こえないと分かっていながらも、小さくああと呟いて、ボールを掴み立ち上がる。ひょろっとした細い印象を与える肢体は、しかし見た目以上に筋肉が発達している。
まっすぐ伸ばすような、上下の少ないフォームの投球。ブンと勢い良く飛んだバスケットボールはかなりの勢いで飛び、ほとんど落下せずにバスケットボールをしていた学生のもとまで届いた。
バシン! 乾いた音とともに、いってーと小さく声が聞こえる。少し強すぎたかと思ったが、小さく手を振った友人を見て、問題ないかと静かに座り込んだ。
窓にザァザァと打ち付ける雨を見る。雨脚はかなり強く、グラウンドはすっかり水溜りだらけになっている。
彼はドッジボール部三年、普段ならこの自由体育の間ドッジボールの練習をしているのだが、今日はそうも行かない。ドッジボールをやる時はグラウンドでと決められているのだ。
他の球技に参加しても良かったが、それよりもやりたいことがあって、彼は座っていた。
先生による監視の目が無い事を確認して、、彼はそっと自分の身を横たえる。横向きに寝る形で、耳を体育館の床へとそっとつけた。
ドタンドタン、バタンバタン、ゴロゴロ。
くぐもった音が体育館の床を伝って、彼の耳まで届く。彼はこの感覚がドッジボールぐらい好きだった。時たまこうして、体育館の音を聞くのだ。
目を閉じて集中すると、ごちゃごちゃに絡まった音が少しだけ鮮明になった。その中から、絡まった糸を解いてゆくように、一つ一つ音を理解していく。
ドタンドタン、バスッ! これは、バスケットボールの音だろう。誰かシュートを決めたらしい。
タタタッ、トン、パシンッ。これはバレーボールの音。サーブだろうか。その後バシンッというレシーブの音がして、また試合が続いていく。
コン、コン、カッ! コン、コン、カッ! 足音とともに高めの音が響く――最も音の頻度が多いそれは、卓球だろう。細かなステップの音、球を弾くラケットの音。互いを睨むようにして打ち合う様子が目に見えるようである。
「なあ、何してんだ?」
ふとすぐ隣で声がして、目を開ける。起き上がると、何時の間にかバスケをしていた友人がすぐ隣に居た。
「音聞いてんだ。結構楽しい」
「……変な奴だなぁ、お前」
一緒にバスケやらないか? と彼は手招きする。見れば、丁度一人休憩を兼ねて観戦に入ったらしく、人数が一人足りなくなっていた。
「おう、いいよ」
肩には自信がある、と彼が肩をぐるぐる回すと、友人と二人でバスケットのコートへ向かって走る。体育館の音の中に、ドタンドタンと鈍い足音が、すぐに二つ増えた。