表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アメノチハレ  作者: 秋月
30/33

 ドタン。ゴロゴロゴロ。


 体育館の端で座っていると、遠くの方からバスケットボールが跳ね、転がってきた。


「おう、すまーん! ボールくれー!」


 彼は聞こえないと分かっていながらも、小さくああと呟いて、ボールを掴み立ち上がる。ひょろっとした細い印象を与える肢体は、しかし見た目以上に筋肉が発達している。


 まっすぐ伸ばすような、上下の少ないフォームの投球。ブンと勢い良く飛んだバスケットボールはかなりの勢いで飛び、ほとんど落下せずにバスケットボールをしていた学生のもとまで届いた。


 バシン! 乾いた音とともに、いってーと小さく声が聞こえる。少し強すぎたかと思ったが、小さく手を振った友人を見て、問題ないかと静かに座り込んだ。


 窓にザァザァと打ち付ける雨を見る。雨脚はかなり強く、グラウンドはすっかり水溜りだらけになっている。


 彼はドッジボール部三年、普段ならこの自由体育の間ドッジボールの練習をしているのだが、今日はそうも行かない。ドッジボールをやる時はグラウンドでと決められているのだ。


 他の球技に参加しても良かったが、それよりもやりたいことがあって、彼は座っていた。


 先生による監視の目が無い事を確認して、、彼はそっと自分の身を横たえる。横向きに寝る形で、耳を体育館の床へとそっとつけた。


 ドタンドタン、バタンバタン、ゴロゴロ。


 くぐもった音が体育館の床を伝って、彼の耳まで届く。彼はこの感覚がドッジボールぐらい好きだった。時たまこうして、体育館の音を聞くのだ。


 目を閉じて集中すると、ごちゃごちゃに絡まった音が少しだけ鮮明になった。その中から、絡まった糸を解いてゆくように、一つ一つ音を理解していく。


 ドタンドタン、バスッ! これは、バスケットボールの音だろう。誰かシュートを決めたらしい。


 タタタッ、トン、パシンッ。これはバレーボールの音。サーブだろうか。その後バシンッというレシーブの音がして、また試合が続いていく。


 コン、コン、カッ! コン、コン、カッ! 足音とともに高めの音が響く――最も音の頻度が多いそれは、卓球だろう。細かなステップの音、球を弾くラケットの音。互いを睨むようにして打ち合う様子が目に見えるようである。


「なあ、何してんだ?」


 ふとすぐ隣で声がして、目を開ける。起き上がると、何時の間にかバスケをしていた友人がすぐ隣に居た。


「音聞いてんだ。結構楽しい」

「……変な奴だなぁ、お前」


 一緒にバスケやらないか? と彼は手招きする。見れば、丁度一人休憩を兼ねて観戦に入ったらしく、人数が一人足りなくなっていた。


「おう、いいよ」


 肩には自信がある、と彼が肩をぐるぐる回すと、友人と二人でバスケットのコートへ向かって走る。体育館の音の中に、ドタンドタンと鈍い足音が、すぐに二つ増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ